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第4話 説明会

 ギルド内に案内して5分程経った後、ようやく部屋の中を見るのに飽きたのか、少年達が落ち着いたのを見計らい、晴也は手を叩き「さて」と切り出した。


「まずは君達の名前とランクを教えてくれるかな?」


 一応ネット調べでランクだけは確認をとっている。だが、プレイヤーネームまでは聞いていないのだ。

 まぁどうせ、今のご時世、渡していないのに渡しましたとか言ってくる人はいないだろう。

 そんな命知らずな行動を出来る人が居るのなら、むしろ尊敬の念に値する。

 待っていればどの道解説動画が上がるのだから、そんな人はいないだろうが……。


「じゃあ、まず僕から。篠崎春人と言います」

「誰も本名を言えなんて言ってないよ……。プレイヤーネームだよ……」

「あ! そうでしたか! 篠崎春道といいます! ランクはフクロウ(下から2番目)です!」

「あ~そう……」


 リーダーのような少年が元気よくそう発言したことで、晴也のテンションは再び著しく下がった。ほとんど本名じゃん……。

 背中に背負っている無駄にデカイ剣といい、その無邪気さといい……。疲れる。


 その子の次に手を上げて自己紹介をしたのは、右隣に座っていた杖を持った女の子だ。


「私はマーリンと申します! ランクは同じくフクロウです!」

「……よろしくね」

「よろしくお願いします!」


 なんだその名前……。まるっきり偉人ゲームの魔術師から取ってんじゃねぇか!というツッコミは、なんとか口には出さなかった。

 いや、偉人だのアニメキャラだのの名前からプレイヤーネームを付ける人は多い。これくらいでいちいち反応していたら疲れるだけだ。


 その後の自己紹介で、リーダーの篠崎を中心に左から正宗、玄武、右にマーリンと詩音という並びで座っていることが判明した。

 もう……何も言うまい。ちなみにランクは全員フクロウだそうだ。


「で、君達は知りあいなの?」

「いえ、一緒に説明を受ける人がいると知って、僕から連絡を取ったんです! そしたら、なんか仲良くなっちゃって……」


 真ん中のリーダーの子が代表してそう説明してくれる。

 どうやら、この中で一番年上なのが彼のようで、自然と5人のリーダーになったらしい。

 コミュニケーション能力が僕と違って高いらしいという情報しか手に入らなかった......。まぁ、別にこの子に興味がある訳じゃ無いけども……。


「なるほど。じゃあ、一応私も自己紹介をしておきますね。ネクラと言います。ランクは赫龍(1番上)です。短い間だけどよろしく」

『はい!』


 元気のいい返事を返した5人は、そのままホワイトボードの前に立っている晴也に頭を下げた。

 これから彼らに教えるのは、どうやったらランクマッチでの勝率を上げられるかだ。

 当然だが、序盤のランク帯で考えるべきことと、後半のランク帯で考えるべきことは全然違う。


 そのため、前半は基本的な知識を教える人達を集め、その後に中級者以上を教えることにしている。

 そっちの方が効率的、かつゴチャゴチャにならずに済むと考えたからだ。


「まず、君達が普段使っているキャラは何か教えてくれる? それによって、色々考え方が変わってくるからね」

『アバターを使ってます!』

「……全員?」

『はい!』

「すぅ~。マジか……」


 思わず素が出てしまうほど晴也は驚愕する。

 なにせ、アバターをランクマッチで使うなど、上位層からしたら考えられない愚行だ。

 それも、誰でも見た事があるようなアニメのキャラにガッツリ寄せたこの子達のアバターでは目立ちすぎる。


 このゲームは、鬼ごっこという性質上、鬼側が少し有利になるように作られている。

 逃げ切るためには、鬼に見つからないというのが大前提となってくるのだ。

 鬼ごっこをしている最中、わざわざ鬼の目の前に散歩しに行く人はいないだろう。そんな人は中々見つけられなくて構って欲しい人か、鬼を挑発したいと思う人だけだろう。


 しかし、このゲームにおいて、それは許されない行為だ。

 上位のランク帯で自殺行為にも等しいそんな行為をすれば、間違いなく晒されるだろう。

 このゲームは個人戦ではなくチーム戦。つまり、自分1人がなにかやらかすだけで即負けに繋がるようなゲームなのだ。

 いうなれば、見つかっては絶対ダメな状況で、堂々と叫ぶような愚行だ。


「ち、ちなみに、アバターは能力を各々変更できるけど、何にしてるの?」

『索敵にしてます!』

「……全員?」

『はい!』


 無邪気に笑った5人を見て、晴也は頭を抱えた。

 よりによって一番ありえない選択肢である索敵を選んでいるとは……。

 これは、このゲームのシステムそのものを教えないとダメだ。

 それ以上のことを教えるよりも、そもそもこのゲームの理解度を上げた方が効率が良いだろう。

 問題の答えだけを教えても、どうしてそうなるかが理解出来ないのでは意味がないのだ。


「質問させてもらうけど、君たちは1回でも最後まで逃げたことはあるの?」

「私だけは……あります」


 そう答えたのは、白い髪を腰まで伸ばし、耳が少し尖っているエルフのような格好をしている女の子だった。

 なんでこの悪目立ちする格好で逃げ切れるのか理解できないが、今は置いておこう。


「君は~詩音さんだったね。じゃあ、他の人は途中で捕まるってことかな?」

『そうですね』

「じゃあ、この講義で全員が最後まで残れるようにすれば問題は無いかな? 少なくとも、1つ上のランクに上がるまでしか通用しないと思うけど……」


 ネコやイヌのランク、上位層からは4段、5段と呼ばれているランク帯になると、要求されるプレイヤースキルは一気に上がると言われている。

 そのため、ウサギ(3段)までは、意外となぁなぁでプレイしていてもすぐに上がれるのだ。

 とりあえず、この5人にはそこまで上がってもらうことにしよう。


「君たちは、鬼に見つかったら逃げ切れないってことは分かっているかな?」

『え!? 無理なんですか!?』

「無理に決まってるでしょ……。ふぅ......。まずはそこからだね」


 5人全員が同じ反応を返してきたけれど、下のランク帯でそう考えている人が多いのはなんとなく分かっている。

 これは、上位層のプレイヤーでも勘違いしている人が多い問題なのでしょうがない。


 その原因は、動画サイト等に上がっている「○○を使えば鬼から逃げられる!」みたいなインチキ動画の影響だ。

 ちゃんと理解しているプレイヤーであれば、相手の鬼が弱いだけだと言うのはしっかり理解出来る。そうでないプレイヤーが誤解をしているということだ。


「そもそも索敵という能力は、近くにいる鬼を数秒間表示するんだけど、時々一切表示されない時が無かった?」

「あ! あります! 不具合かと思って運営に連絡したんですけど、何も返って来なかったんですよ!」

「君は……正宗君だね。それは、索敵の能力に問題があるんだ。あの能力は、自分の半径50メートル以内に鬼が居た場合のみ表示するんだよ。だから、表示されないのはその範囲内に鬼がいないってこと」

「なるほど! そうだったんですね!」


 キラキラした尊敬の目で見てくる腰に刀を刺した少年を軽くスルーし、そのままなぜ索敵が弱いスキルなのかを説明する。


 そもそも、鬼に追われればよほどのプレイヤースキルがない限り逃げ切れないゲームシステムなのだから、必然的に試練中以外は隠れるのがメインとなる。

 そんな状況で鬼に50メートルまで近付かれたと知らせるだけの能力は強いか否か。

 答えは簡単。弱いのだ。というより、そのスキルを使って鬼が表示された場合、時すでにおそし。という場合がほとんどだ。

 実際、この場にいる小さなコスプレ集団は、全員索敵に引っ掛かった鬼から逃げることは出来ていない。


 索敵の能力にも、もちろんおもしろい使い道はあるのだが、始めたばかりの初心者に教えても出来る訳がない。

 小学校低学年に6年生が解くような問題集を出したところで、1問も解けないのと同じだ。

 索敵の能力を付けるくらいなら、鬼に見つかった時に役立つ能力を付けた方が確実に勝ちやすくなるだろう。


 もちろん1番良いのはアバターを使わない事なのだが、無理にキャラを変えてもいいことなんて無い。

 むしろ、使い始めたばかりのキャラではまともに勝てないだろう。

 今必要なのは長期的な結果ではなく、短期的――すぐに結果の出る講習なのだ。


「じゃあ、なにをつければいいんでしょう……?」

「そうだね。君達のランク帯なら、無難に無敵をつけていれば良いんじゃないかな。マップを覚えれば他の選択肢も出てくるけど、まだ全部は覚えきれてないでしょ?」

「ですね。ならそうし――」

「ただ、無敵にも弱点はある。相手の鬼も無敵を使った場合、それは相殺されるからね。あんまり過信しないこと。いいね?」

『了解です!』


 そう。子供側の無敵という能力はかなり強い。なにせ、1回死んでも無かった事に出来るのだから。

 しかし、鬼側にも同じ無敵という能力がある。意外に知られていないけれど、これは子供側の無敵すら無効に出来る頭のおかしい能力だ。

 まぁ、死んだことを無かった事に出来る時点で、子供側の無敵もだいぶヤバいけど……。


「後はさっき説明した通り、試練中以外はできるだけ隠れることに徹すること。君達のランク帯なら索敵の鬼はほぼいないはずだから、頑張って」

『ありがとうございました!』


 その場で立ちあがり、元気にお辞儀をした5人は、早速ランク戦に潜るらしく、早々にギルドを出て行った。

 一応、講習のおかげで成果が出た場合、SNSで公表してくれる約束となっている。

 これも、炎上などを回避するための策だけれど、あの子達は本当に守ってくれるか不安だ。


 今回の講習は時間にして10分程度だった。こんな風にサクッと終わってくれれば良いけれど、晴也は現実がそう甘く無いことを知っている。

 晴也はさっきの5人のギルド登録を解除しながら、次にやって来る予定の人物に対応する準備を始めた。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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