第56話 アップデート
会議から1週間後、事前の情報通りアップデートが入った。
内容は主に、戦う際アバターを調整できるようになったのと、一部キャラの修正だ。
流石に使途の索敵には問題ありと判断したのか、何回か羽ばたかせなければ蝙蝠を引っ込ませることが出来ないように修正が施された。
つまり、前まではでかすぎるその羽ばたき音を聞く前に引っ込ませることが出来たので相手には気付かれずに索敵出来ていたものが、今回のアップデートで不可能になったという事だ。
(まぁ、大会であんなことされちゃ、絶対勝てないしな……)
あれはハイネスさんが仕切っていたからかもしれないけれど、使途で索敵して魔女で仕留める。
こんな方法を大会でされたら、クソゲーどころの騒ぎじゃ無くなる。
ランクマッチでは使えないからと放置するような運営じゃなくて心底ホッとする。
そして本題のアバターだが、予想した通り、一定の数値を好きなように割り振るようなシステムだった。
初期値が50として、最大が100。
これが5つ設けられており、各種引いたり足したりすることが出来るという仕組みだ。
いじれる設定は以下の通り。
背の高さ・足の速さ・攻撃速度・視力・聴力の5つ。
最後の2つに関しては、恐らくアバター戦を想定されたものだろう。
視力を最大に設定すると、狙撃手のスコープを覗いている時と同じ感覚になるとは、体験した者の話だ。
つまり、通常半径20メートル程しか見えないのが、視力を最大にすると200メートル近くまで見えるようになるという事だろう。……バカじゃねぇの?
(常時200メートル先まで見えるとか絶対プレイしにくいだろ……)
しかも、スコープ装着時は見ている1点しか見えないが、厳密にはスコープを覗いている訳では無いので情報量がかなり多くなるだろう。まぁ、これも使い方次第だと思うが……。
そして聴力。これも体験したと言っている人の話では、最大にすると異常なほど周囲の音が聞こえるらしい。
近づいてくる足音。誰かが話す声、周囲の雑音等だ。
(使いようによっては索敵に便利だけど……携帯の音がうるさく聞こえそうだな)
この能力はランクマッチにおいてはかなり役に立つだろう。
例えば、上位プレイヤーになると足音を聞けばどのキャラが近づいて来ているのかは分かるだろうし、それが鬼だったら即刻逃げる事も可能だ。
しかも、仲間の携帯の音を拾うことが出来れば合流も出来ると……。
色々と悪さが出来そうなステータスだ。
肝心のシステムは、自由に割り振れる値が100与えられており、5つのパラメーターに好きに割り振れるようになっている。
初期値である50から引く事も可能で、たとえば攻撃速度を20引いて30にした場合、引いた分の20は好きな場所に割り振れるようになる。
しかし、どのパラメーターも10以下まで減らす事はできないというルール付き。
それに加え、一定のパラメーターが設定値を上回ると設定出来る特殊能力にも制限が付けられる。
分かりやすい例で行くと、足の速さを90以上に設定した場合は加速を設定することが出来なくなる。
その他にも身長の高さを15以下にした場合、幻影と無敵は設定できなくなる。
視力、聴力どちらかが70以上に達している場合、索敵は設定できなくなる。
簡単な物で行くとこんな所だ。
(視力と聴力に関しては索敵目的で使うんだから、重ねる人はいないだろ……)
ただでさえ索敵なんて使っている子供はあまりいない。
そこまで考える必要があったのかは疑問だ。
まぁこんな事を考えていても仕方ないので、とりあえずカスタムマッチでAI相手に試してみるか……。
とりあえずは真っ先に思いついた物から、色々な組み合わせを試してみて、最適解を見つけるとしよう……。
――1週間後
長かった夏休みが終わり、昼間に春香がいなくなった我が家は平穏を取り戻していた。
一方の僕は、ここ一週間時々休憩はしていたものの、ほぼ寝ておらず、かなり限界に近付いていた。
眠気で立っているのがやっとといった状態で、食事を食べながら寝かけた事もあった。
まぁそのおかげで、最適解と呼べる組み合わせは完成したし、その他の良い感じだった組み合わせまで発見することが出来た。
もちろんSNSを見る限り、それに気付いている人はいないようだし、攻略サイトもそのような情報は上げていない。
今のところは恐らく、(日本では)僕だけしか知らない事実だ。
(今日の夜、チームの皆を集めて情報を共有して、そこから練習会だな……)
とりあえずハイネスさんとライにその旨を伝え、自分はここ1週間寝ていないので仮眠を取ると連絡する。
集合時間から30分経過しても現れなかったら寝ていると思って解散してほしいと連絡も入れて、晴也は1週間ぶりの眠りについた。
――夜10時25分
ギルドの会議室、その席に座っているネクラ以外の全員は、入口のドアの前で正座している1人を怪訝そうな顔で見つめていた。
自分達のリーダーは、頭は良いけど人の気持ちを考えるのは苦手なのかもしれない。そう全員が正しく理解した瞬間でもあった。
「この度はですね……。私が招集したにも関わらず寝坊してしまい……」
やけに改まって頭を下げようとしたネクラを、ハイネスが必死に止める。
自分達の為にここ数日ずっとアバターの研究をしていた事は知っている。
全然寝ていないという事も言われていたし、30分経っても来なければ解散してほしいとあらかじめ予防線も張っていた。
そこまでしてもらっていたのに、ネクラを責めることなど出来るはずもない。
そして、その事はチームメイト全員に伝わっているのだ。
「いや、しかし……」
「別に、こんな事で誰も怒りませんよ。それに、ネクラさんが来る前に皆で色々話していたんですが、実装されてまだ1週間程度です。なので、皆さんまだ試作段階らしいですし」
「……そう言っていただけると」
遠まわしにお前の情報はかなり助かると言われてしまえばそれまでだ。
大人しく晴也も相手の言い分を受け入れ、いつもの席へと戻る。
本当に寝坊する気は無かったのだが、流石に数日ぶりの睡眠だと時間通りに起きる事は叶わなかった。
起きて時計を見た時の絶望感はどれほどの物だったか。
翌日にはチーム内の誰かが暴露して「ネクラ、自分でチームメイトを招集しておいて寝坊!」という記事が出ている光景が頭に浮かんだ程だ。
(めっちゃ怖かったけど……大丈夫そうだ。危ない……)
周りのチームメイトが呆れている顔を見るに、恐らく自分が最も恐れている事態に発展する事は無いだろう。
ホッと胸をなでおろすと、もう1度謝罪してから情報の共有を始めた。
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やる気が、出ます( *´ `*)




