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第54話 軍師ハイネス

 春香のネット友達が家に遊びに来て2時間ほど話した後、その子は帰って行った。


 人見知りの僕からしてみれば少し驚きだったけれど、相手もあの時の業者さんだとは思えない程明るく話してくれたので助かった。

 僕は早く部屋に戻りたいという気持ちでいっぱいだったので、それを表に出さないように気をつけていて、話どころじゃ無かったし……。


 やっと解放されて部屋に戻った僕は、改めてノートパソコンを開いて受け入れられない現実を見ていた。

 何度も言うが、僕の解説動画は有料で、何割かは動画サイトの運営に持っていかれるけれど、大部分は僕の手元に入る。


(これで4000万入るとか言われてもなぁ……)


 僕が平均で稼ぐのは、月に100~200万程度だ。単純に計算すれば、20ヶ月分がこの1日で手に入った事になる。

 普通に考えて馬鹿げている。そう考えてしまう。


 なんか、動画を上げたらバズったよ? とか、そんなレベルではもはや収集がつかない。

 自分の行った行為が予想以上に反響を呼んだ場合、人は純粋に喜ぶか、喜ぶ前に怖いと思うか、現実を受け止められず笑いだすか、その3択の反応を取ると思う。

 晴也は、純粋に怖がるタイプなのだ。


(とてつもなく逃げたい気分っていうのは、こういう気持ちを言うのか……)


 今すぐにネットの世界から全ての痕跡を消して逃げてしまいたい。このマンションも、動画の収益だけで暮らせるし……。

 そんな事を考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえ、春香が僕を呼ぶ。


 パソコンを閉じてそっとドアを開けると、何故か微妙そうな顔をした春香がドアの前に立っていた。

 微妙そうと言うか、バツが悪そうと言うか、そんな顔をしている。


「な、なに……?」

「さっき、この家に来た子がいたでしょ? その子が、お兄ちゃんはどんな人が好みなのかって」

「……はい?」

「私だって好きでこんなこと聞いてんじゃないの! 早く答えて!」


 今にも殴りかかってきそうな春香を前に、少しだけ足が震える。

 そんなこと急に言われても、女の子を好きになった経験なんて無いんだから分かるはずもない。

 だけど、そんなことを正直に言ったところでこの妹は納得しないだろう。


(暴力的じゃなくて穏やかな人なら誰でも良いんだけど……)


 本音を言えば、僕に危害を加えない人なら誰でも良い。

 危害を加えないとはつまり、その性格や精神的な面でもだ。

 例えば、浮気をするような人は僕に心で危害を加えるので嫌だ。そんな感じだ。


 ただし、自覚があるかどうかは分からないが、暴力的な人が嫌だと言うのは春香が1番関係している。

 春香が自分の事を少しでも暴力的だと認知しているなら、この言葉は藪蛇……もしくは地雷を踏み抜く可能性がある。


 どうしたものかと考えていた末に思いついたのは、最近のハイネスさんだった。

 好きなのかと言われるとそんな感情は湧かないけれど、ああいう人はカッコいいと思える。

 ライだって、仲間を守るプレイが歪ではあっても、その心意気はカッコいいと思えた。

 なら、適当にそう答えておけばいい。僕に恋愛は向いていないのだから。


「分かった。じゃあ、電話が終わったら夕飯作るからちょっと待ってて」

「はい……」


 そんなやりとりがあったのが1時間ほど前のこと。

 僕は今、SNSにて再び話題になっていた。その内容は……


(なんで僕の好みの人を知りたい人がこんなにいるんだ……)


 発端はどこかの掲示板でネクラの好みの人の話が出たことだ。

 そこから、その書き込みを見た人がSNSにそのスクショを投稿し、そこから一気にネクラ本人へとその銃口が向けられたのだ。


 銃口が向けられたからと言って別に炎上している訳では無く、ただ単に最近女の子に免疫が無いと噂されているネクラの好みはどんな人なのか。その話で盛り上がっていたのだ。


 もはやこんな状況になってしまえば、自分に危害を加えない人なら誰でも良い。この一言で収まるとは思えなかった。

 助けを求めようとしても、こういう時に連絡出来るような頼れる友達はいない。

 つまり、これを収めるには自分なりの考えで動かねばならず……。


(そもそも、なんでこの人達はそんなに僕の好みが知りたいんだ……?)


 まずはその点だ。聞いてきている人の男女比は大体半々だが、何で急にこんな話題でヒートアップしているのか。それが最も気になる点だ。


 しかし、晴也がその答えに辿りつく前に、フォロワーの1人がアンケートのような物をリプ欄に張り付けたのだ。

 それが非常によく出来たもので、これに答えてくれという声が段々と強くなっていった。


(なんか……逃げ道を塞がれて、行くべき道を導かれているような気がする……)


 この状況だって、ネクラ自身は何も発言していないのに、なぜか状況が二転三転している。

 まるで、最初からこうなるべき結末が決まっていて、それに沿って動く物語のように……。


(てか、このアンケート張り付けてるフォロワーさん、いつもこんなに絡んでこないじゃん……)


 一応、かなり前からずっと絡んでくれるフォロワーさんの名前は数人だけだが覚えている。

 その中にはマイさんの名前もあるのだが、このアンケートを張り付けているフォロワーさんにも見覚えがある。

 いつも絡んでくるかと言われると微妙だが、かなり前からフォローをしてくれている人だ。


 自分からは何も発言していないので、恐らく好きな人のSNSを見るためだけのアカウントなのだろう。

 本垢が誰なのかは分からないけれど、この人が計画の主犯なのではないか。一瞬だけそう考えてしまい、それを即座に否定する。

 主犯だとして、最終的な逃げ道を用意するという最も目立つ役目を担うだろうか……。その考えが頭にあったからだ。


 まぁ、こんな状況になってしまっては答えるしかないので、そのアンケートのURLをクリックして回答を進めていく。


 そのアンケートは、家庭的な方が良いのか。身長などは気にするのか。性格、金銭面は気にするのかなど、かなり詳しく聞いてきていた。


 その都度かなり考えて回答したので、そのアンケートに答え終わるのは20分程後だった。

 まぁ、なんでか分からないけどこのアンケートのおかげで自分がどんな人を好きになるのか分かった気がするので、複雑な気持ちなのだが……。


 というより、相手の頭の良さを気にする人なんているのだろうか……。なんでそんな変な質問があったのか……。

 まぁとりあえず、その回答結果を発信し、この事態を収めて貰うことにした。

 一応、恋愛経験は少ない(無い)ので参考程度にしてくださいとの一文を添えて……。


 すると、最初はかなり盛りあがっていた人達も女性陣を残して全て消え去ってしまった。


(男連中……絶対面白がって参加してただろ……)


 アイコンだけで男と分かる人達は軒並み退散し、未だに盛り上がっているのはアイコンで性別の判断が出来ない人と、アイコンで女性だと判断出来る人だ。

 まぁ、僕の判断基準は世間的に見てアイコンが可愛いかどうかなのだけど……。

 だって、可愛いアイコンを設定する男なんてあんまりいないし……。


 それにしても、今回の件は一体何だったのか……。

 掲示板の方の書き込みも匿名性がかなり高く、最初に話を持ち出した人の特定は困難。

 そして、その書き込みをSNSに投稿した人のアカウントは既に削除されており、スクショのみが拡散されている状況。

 全ての証拠を完璧に消去しているこの手際は……なんだか不気味だ。


 ただ僕の好みを知りたいというだけでなんでここまでするのか……。ハッキリ言って意味が分からない。

 ただこの計画を考えた人は、恐らくハイネスさん並みに頭が良くて、それでいてかなり用心深い人だ。

 まぁ、僕に危害が加えられたわけでは無いので深く考えなくて良いと思うけど…。


 晴也がそう楽観的に考えていた一方で、目的の物を手に入れたこの計画の主犯は、ネクラが最終的にはあまり深く考えないだろうという事も全て読んでいた。


 さらに言えば、頭の良さは特に気にしないと回答されているところから推測するに、妹さんに自分の好みを話した時は正直に言えない状況だったんだろうと判断した。


 その状況がどんな状況なのかは分からないが、もし妹さんが好みとは真反対の性格だとすれば、正直に言ってしまうと面倒な事になりかねない。そう思ったのかもしれない。


 まぁ、目的のアンケート結果は手に入れたので、後はこれを見て徹底的に研究し、あの人を物にすればいい。


 ファンクラブの人がこの情報を手に入れたところで、現実世界でのネクラさんを知っているのは今のところ自分だけだ。

 今ライバルとなる人はおらず、ネクラさんという城を攻略しているのは自分だけ。

 さっさと勝負を決めて、日本予選までには付き合えるようにしたい。そう考えていた。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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