第51話 反響
翌日の正午、動画サイトにて、グランドスラムの初戦映像が公開された。
これはライとネクラが同時に公開し、各々の鬼と子供両視点を別々の動画にして纏めた物だ。
つまり両者とも、子供と鬼視点を別の動画として同時刻にアップしたという事だ。
動画の長さは共に3時間弱であり、それぞれの編集者が厳選した視点でプレイしている映像が見られる。
ネクラの解説動画に関しては夜の20時に公開と公表されているので、それまでに試合の映像を見ておきたいと考える人が多かったのか、投稿から1時間もすると4本の動画の総再生回数は1000万を突破した。
(反響ありすぎだろ……どうしたほんと……)
通常の動画サイトでの配信だと2試合連続で流し、しかも生放送なので再生回数がここまでになる事は滅多にない。
今回はライとネクラ。注目されていたペア同士の対決という事で話題性があったにせよ、いくらなんでもこの数字は異常だった。
ネクラはあまりの現実味の無さに乾いた笑いしか出ず、ライは興味なさそうにあくびをしていた。
そしてもう1人、2戦目のネクラ側子供視点を見ていた少女は、激しい嫉妬に見舞われていた。
この動画を投稿した者達でも反応は様々だったが、世間の反応は分かりやすかった。
2人のSNSには称賛と労いの言葉で溢れており、各種ニュースサイトはこぞってこの件を取り上げた。
何より1番注目されたのは、世間で誰も気がつかなかったであろうハイネスの使途と魔女の利用方法だろう。
あのネクラさえ混乱させた戦い方として大注目され、試合動画が公開されて2時間後のランクマッチでは、なぜか使途と魔女を使う人が劇的に増えたらしい。
(大会モードだから結果を残せたって分からない人がこんなにいるのか……)
そういった人に限り、ランクマッチで使いこなすことが出来ずに弱いだのと勝手な事を呟き、ハイネスさんの事を侮辱しているが、それは違うのだ。
大体、使途と魔女は大会モードという連携が取れるからこそ成り立つペアであり、その単体での性能や連携が取れないのであれば最弱であることに変わりないのだ。
そんな事も理解しようとせず、結果が出たのでとりあえず使ってみて、自分は勝てなかったので発案者を罵る。
こんな人の事を許せるほど、晴也は心優しくは無い。
まぁ、自分が何かアクションを起こすとその人が社会的制裁を喰らってしまうので、何もできないのが現状なのだが……。
もちろん世間の興味を引いた事はその鬼の新たな可能性だけでは無い。
最近世間を騒がしているマイさんの、異常と言える索敵能力。
相手の指揮官の戦略を正確に見抜き、それを利用して完封するネクラ。
そして、女性に迫られてたじろぐネクラ……。
(最後のは絶対悪意あるだろ……)
主に2戦目の途中、競馬場で狙撃手がレース場を見ていないと確認する一幕。
そこでチームメンバーである女性プレイヤーに近付かれ、アワアワしているネクラの姿は、一部ネットニュースに取り上げられていた。
完全に悪意しかない……。
ネクラ本人としては、言い寄っていた女の子が世間から何か言われないかと心配していたのだが、それは杞憂に終わって良かったと思う反面、自分が世間から面白おかしく言われている現状になんだか複雑な気分になっていた。
ほとんど家から出ないでゲームをやっていて、学校にも通っていないので女子との交流も無い。
唯一近くにいる女性はヒステリックで簡単に暴力を振ってくるような人。
こんな環境で女性に免疫がある方がおかしいんだ。
(天才と呼ばれるネクラの意外な弱点って……ふざけすぎだろ)
別に僕は、自分のことを天才だとは思っていない。
人より頭は良いかもしれないけれど、本当の天才はハイネスさんだ。
僕が仮に天才とするなら、彼女はそれこそ神になる。
しかし、彼女が神のような存在でない事は、1度話した人なら誰でも分かるだろう。
神があんなに可愛らしく、天然で、人見知りするような人であってたまるか。
いや、たまるかって言えるほど僕は偉くないけどさ……。
そんなくだらない事を考えている時、部屋の扉が叩かれ、外から春香の声が聞こえてくる。
どうやら少し遅めの昼ご飯を作ってくれたらしい。
「すぐ行くよ……」
ノートパソコンを閉じて分かりやすく肩を落としながら部屋を出た晴也を迎えたのは、春香の不気味なまでの笑顔だった。
それこそ、アニメの悪役が無垢な村人を笑顔で殺す時のような、そんな不気味な笑顔。
「ど、どうしたの……?」
まさか、自分の命もここまでか。そう覚悟した晴也は、春香から紡がれた言葉に一瞬思考が止まる。
「明日ネットの友達と会うからなんか楽しみでさ~。あ、家に来るかもだから出て来ないでね」
「……はい?」
「だから、ネットの友達が家に来るかもなの! その時お兄ちゃんなんか見せたくないから、出て来ないで」
今、この人はなんて言った? ネットの友達が来る? 急になんで?
「前から会ってみたいと思ってたんだけど、向こうもそう思ってくれてたらしくて。家も近いから会おうって事になった」
「……相手がごつい男だったらどうするつもり?」
「大丈夫。1回通話してるから」
「そういうことじゃないんだけどね……」
いくらネット上で友達だからって、相手が女声で釣りに来てる可能性だってあるし、妹か誰かに喋らせている可能性だってある。
いざとなったら相手をボコボコに出来るような春香でも、心配しない理由にはならない。
「とりあえず座ったら? ポカーンと口開けてないで」
「……あ、ああ。そうだね……」
促されるままとりあえず椅子に座り、目の前でトマトソースがかかったパスタを美味しそうに眺めている少女に改めて目を向ける。
僕らは対等な関係という訳ではないので変に刺激するとこっちに返ってくる。
なので、あくまで最低限。必要な情報だけを聞きだすことに専念するべきだ。
「その相手は……どこで知り合った人?」
「ん? お兄ちゃんが良く知ってるゲーム」
「……その人は、有名な人?」
「ん~。有名かどうかと言われると微妙。かなり上位の人は聞いたことあるかな? 程度」
「そう……。分かった」
それだけ聞けば、大体分かる。
春香が会うという事はもちろん女性だと推測できる。
そして、かなり上位の人がどこら辺の推移で言っているのか不明だけど、割とマイナーな人。
何かあった場合は心当たりのある人に連絡してみれば問題無いか。
「なに。まさか、お兄ちゃんも会ってみたいとか思ってるの?」
「そんな訳ないじゃん……。確かにどんな人なのか気にはなるけど、顔を見たいと思うのは3人だけだよ」
「その3人って言うのは?」
「……それは言えないよ」
思わず言わなくても良い事まで言ってしまい、春香に変な目で見られる。
いくらなんでも、ライさんやマイさん、ハイネスさんの顔を見てみたいとか言えば、それが全員女性なことを変に思われるだろうし……。
というより、ライはまだしもマイさんやハイネスさんの事は知らないだろうし……。
「そう言えば、今日の20時に投稿される解説動画、お兄ちゃんは見るの?」
「……口になにか入れながら話すなよ。今日の20時……。ああ、ネクラのね」
「ネクラ”さん”ね!? で、見るの?」
「……見ないよ。僕は別に興味無いから」
というより、それ撮ったの僕自身だし……。
「有料でも見ておいた方が良いと思うけどな~。見るだけでランクマッチでの勝率がかなり変わるかもってめっちゃ話題だよ?」
「……個人指導した人が軒並み結果だしてりゃ、そう言われるだろうね」
「そうそう! ほんと、あの人凄い! それにさ――」
それからご飯を食べ終わるまでの20分弱、僕は春香からネクラという人物がどれほど凄いのかをひたすら力説された。
春香は知らないので仕方ないけれど、本人にそんな話をしないでほしい……。
どんな顔で聞いてればいいのか分からないんだけど……。
部屋に戻った僕は、思わず枕に顔をうずめてひたすら叫んでいた。
あまりの恥ずかしさと春香が自分のファンだった事になんだか複雑な気持ちになって……。
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