第48話 試しの1戦
子供側のミーティングが単なる雑談タイムへと変わって20分程が経過すると、会議室のドアをノックする音が聞こえてきた。
そのままこちらの返事を待たずにドアを開けた人物が、鬼側のミーティングが終わった事をを告げた。
「分かりました。では、早速始めますか」
「了解です! じゃあ、呼んできますね!」
ミナモンさんはそう言うと、ドアを閉めずに隣の部屋へと他の3人を呼びに行く。
それを見ていた1人――香夜は、その行動に思わずため息をついた。
「こちらの返事を待たないとノックをした意味が無いのを、彼は分かっていないのでしょうか?」
「あはは……。まぁ良いじゃないですか。あんな人が1人いるだけでも、場の雰囲気はかなり軽くなりますよ」
「それは否定しませんが……」
微妙そうな顔をした香夜さんは、そのまま鬼の4人が来るまでは渋そうな顔をしていた。
彼女の中で、ミナモンは失礼な男。という位置についてしまったかもしれない。
ドンマイと心の中で労わっておく。
「では、全員揃ったようなので1度試してみましょうか。大会モードのアバターのみで」
「……ネクラさん。ちょっと私から1つ」
ハイネスさんから呼ばれ、2人で部屋の隅へと移動する。
ハイネスさんの見た目が可愛らしい少女なだけに、なんとなく緊張するけれど、その顔は強張っていてかなり真剣な話をするつもりらしいのは見て分かる。
「ライですが、最近プレイに一貫性が無くて迷っているみたいなんです。なので、うまいことサポートしてあげてください」
「出来るかどうか自信はありませんが……そういうことなら任せてください」
「はい。お願いしますね!」
可愛くウインクすると、ハイネスさんは一足先に皆の所へと戻った。
晴也はその姿に少しだけ妙な気持ちになるけれど、確かに先ほどのミーティングでもライは静かだった。
少し注意して見ておいた方が良いだろう。
「では、始めましょうか」
『よろしくお願いしま~す』
その声を合図に、晴也は手早くカスタムの設定を行い、チームメンバー全員が待機画面へと移動する。
見慣れた食堂のような場所に移動し、それぞれが普段使っているキャラが表示されていく。
ここで、各々使うキャラを自身のアバターへと変更するのだ。
20秒もしないうちに横長のテーブルに見慣れたアバターが揃って行く。
晴也が1番嫌いなアニメキャラのようなアバターはおらず、晴也を含め特殊な格好をした人が数人。その他は街に居てもなんら違和感の無いアバターだ。
そして、少し待つと住宅街のマップへと転送され、ゲームがスタートした。
住宅街。
このマップは、実際の高級住宅街を元に制作され、そこに団地などが加わったかなり広大なマップだ。
流石に家の中にまで入る事はできないけれど、団地の階段を上り屋上へ行く事、高級住宅の庭に隠れる事は出来る。
ちょうど真ん中に位置している児童公園ももちろん使用可能で、子供からお年寄りまで、様々な年代の人がプログラムされて表示されている。
もちろん住宅地にもそのプログラムは施されており、遊園地の次に人が多いマップとしても知られている。
(このマップか……。シラヌイさんの話だと、密集するのはマズいんだったか。なら、他の人がいかないような場所に行けばいいか……)
ただでさえ、民族衣装のような物を着ている晴也は、この住宅街のマップでは悪目立ちする。
とりあえず街中に居ては見つかるのも時間の問題なので、近くにあった団地へと逃げ込む。
部屋の中には入れないけれど、階段だけなら登れるのだ。
屋上まで行ってしまえば、相手が飛翔の能力を設定していた場合真っ先にばれてしまうのでそれはナシだ。
飛翔を持っているキャラはどれもパッとしない性能の為注目されていないけれど、初めての経験なのになにかを決めつけて動くのは危険だ。
〖ネクラは第3団地の4階にて待機。情報をお願いします〗
このマップにある団地は、棟の横にナンバリングされている数字で呼ばれている。
この数字は1~15まであり、各5階の建物だ。
白を基調としたかなり綺麗な建物で、競馬場のようにゴミが散らかっているといったことは無い。
〖ライは第7団地にいます〗
〖シラヌイは児童公園に〗
その後、次々と情報が出てくる。
意外と児童公園に生まれた人が多いらしく、歩いていたら早くも合流してしまったという報告まで出て来た。
児童公園と言っても普通の公園ではなく、中に全長3キロ程のランニングコースがあるかなり広大な公園だ。
公式名称が児童公園と言うだけで、一部のプレイヤーからは動物園と呼ばれている。
その理由だが、公園の中にある湖に、なぜか白鳥とフラミンゴが生息しており、木の上には猿が数匹いるとの噂があるからだ。
大体、日本でフラミンゴなんか見たこと無いんだが……。
(公園に半数が湧いたという事は、高級住宅の方に鬼が固まってるな……)
このマップは、団地の中や高級住宅の庭にまで隠れることが出来る性質上、そこまで広くは無い。
児童公園を中心に置き、北に団地があり南に高級住宅街がある。
このゲームのシステム上、公園にかなりの数子供が発生していて、団地でも発生している。となれば、鬼は高級住宅街の方で湧いている事になる。
〖団地にいる方は出来る限り公園へと避難してください。公園にいる方は最初の犠牲者が出たら高級住宅街の方へ向ってください〗
『分かりました!』
情報を見る限り、公園に湧いた子供が14人。
団地に湧いたのが自分を含め6人。
その中で既に合流している人が5組という感じだ。
そして、ハイネスさんであれば高級住宅街に鬼が全員湧いていることから、公園に大多数の子供が湧いている事にはすぐ気付くだろう。
ではその後どうするのか。何も考えていない人ならば全員で公園に向かうだろう。
しかしハイネスさんならば、2人を公園に向かわせ、2人を団地へと移動させるはずだ。
瞬間移動の有無は分からないけれど、前後から挟みこむ形をとる可能性が高い。
ならば、団地にいる人を公園へと避難させ、1人目の犠牲者が出たところで元々公園にいた人達を高級住宅街の方へ避難させ、しばらく安泰の状態を作る。
元々団地に居たメンバーに関しては公園に残ってもらい、人柱として公園で犠牲になってもらう。
鬼と子供の運動性能がほぼ同じな以上、そう簡単に捕まる事は無いだろう。
(出来るだけ時間を稼いで貰えばいいか……)
細かい判断は現場に任せるので、無敵での移動や瞬間移動での逃げ先に関しては指示していない。
団地に人がいないと分かれば、ハイネスさんも高級住宅地へと戻るしか無くなるのだが、公園で人柱をしてくれている人の存在も放ってはおけないはずだ。
なにせ、鬼が勝つには子供19人を捕まえるか、強制試練中の子供を捕まえねばならない。
公園に5人がいる状況で、それを見過ごすのは勝ち筋を1つ捨てる事になるからだ。
(ハイネスさんなら勝ち筋を捨てるような真似はしない。ただでさえ鬼が不利なのだから、勝ち筋は1つでも多く残したいはず……)
晴也がその人柱として公園に向かわないのは、鬼に追われていると指示が出せないからだ。
それに、自分には瞬間移動があるので最悪見つかったとしても逃れることは可能だ。
元々団地に湧いた人の中にも瞬間移動と無敵持ちが1人ずついるので、人柱としての役目は果たしてくれそうである。
人柱として残した人の半数が捕まった時点で、高級住宅街へ逃げている人に指示を出し、瞬間移動を持っている人のみ団地へと転移して貰う、といったプランだ。
とりあえず、僕の認識が甘くないのであれば、ただでさえ鬼が不利だと言われているこのルールで負けはしないだろう。
そう調子に乗っていると、開始から10分が経ち、ようやく1人が捕まったと報告が入る。
それを皮切りに、晴也の携帯に次々と高級住宅の方へ移動するとの連絡が来る。
(よし、今のところは順調か……)
そう思っていた晴也は、20分後、自分がこのアバター戦においてどれだけ無知だったかを反省させられる事になる。
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