第46話 質疑応答
自己紹介を終えた面々は、再び立ち上がった自分達のリーダーへと注目する。
晴也はその視線に少しだけ怯えながらも、なんとか話すべき事を伝えていく。
「えっと、事前に説明したかもしれませんが、各陣営の指揮官となる人は既に決まっています。なので、この後は各陣営に分かれてミーティングを行って貰い、その後1回だけアバターのみで対戦してみたいと思いますが、よろしいですか?」
「……ネクラさん。質問よろしいでしょうか?」
「なんでしょうシラヌイさん」
「私達子供側の指揮官がネクラさんだという事は承知しております。この間の決勝戦を見なかった人間など、恐らくこの場にはいなかったでしょうから不満は出ないでしょう。しかし、ハイネスに関しては、始めましての人が多いはずです。大会に挑む上で、ハイネスがどの程度の事が出来るのか。それを知りたいと思う方がいるはずです。その点に関して説明した方が良いのでは……?」
狐のお面を付けた少女からもっともな意見が出てくる。
その意見に答えたのは僕では無く、ハイネスさん本人だった。
「その疑問はもっともです。しかし、私本人からどの程度の事が出来るのか。それを説明するのは難しいです。強いて言えば、ネクラさんとの戦績は0勝3敗4分け。と言ったところでしょう。これで理解していただけると嬉しいのですが……」
「4分けですか……? そ、それは……?」
この場のほぼ全員が僕の方を信じられないと言いたげな目で見てくる。
先ほどハイネスさんが述べた戦績は、全て大会の物だと誰もが自然と理解している。
それをふまえても、分けという事は、ネクラ率いる子供陣営を19人捕まえたという事を示している。
しかも、その分けの内1つはグランドスラムの初戦の事だという事も、当然この場の全員が理解している。
「正確には、4勝3敗じゃないですか? 分けになったのは全て私達子供では無く、鬼側が勝ってくれたからです。なので、私はハイネスさんには負け越しているんですよ」
自嘲気味に笑った晴也のその顔を見て、自分達を集めてランクマッチで無敗を誇っている人が負け越している相手がいるのかと、次々とハイネスを見る目が増えていく。
ハイネスさんは分けと言ってくれているが、実際には晴也の言った通り負け越しているのだ。
だから晴也は、ハイネスとは今後敵として戦いたく無いと思っているのだ。
たとえ負け越しで終わったのだとしても、ハイネスさんと戦う時は通常の2倍以上頭を使わなければならない。
そんな戦いを何戦も続けていれば頭が痛くなる。
「ありがとうございます。充分かと思います」
「良かったです。では他の方から、なにか質問はございますか?」
「……私からよろしいですか?」
そう言って手を上げたのはミルクさんだった。
横のミラルさんを不安そうに見つめながらも、必死に自分を奮い立たせ発言する。
「私、この場にいるほとんどの人を見たこと無いんです……。この方達がどんな戦績を残しているのか、どの程度強いのか、その辺が良く分かっていなくて……。もちろん、ネクラさんが集めたということは、それなりに強い方なんでしょうけど……」
「説明が難しいですね……。つまり、何が聞きたいのですか?」
「えっと……簡単で良いので、誰がどの程度強いのか、それを聞きたいです」
誰がどの程度強いのか……。結構難しい事を言う。
僕も簡単に調べただけなので正確なところまでは分からないし、全員分の戦績を暗記している訳ではない。
どう答えようか迷っていた時、助け船を出してくれたのは先ほどから注目の的となっているハイネスさんだった。
「パッと見た感じですが、私以外の全員がランクマッチでの勝率が7割以上。そして、全員が最高峰ランク到達者です。私調べですが、過半数以上の方は過去のランキングで50位以内を1回以上取った事があるみたいですよ」
「ハ、ハイネスさんは……?」
「私は、基本ランクマッチで勝てるようなタイプでは無いので、最高峰ランクをやっと維持している程度です。ちなみに、ランキングには載った事がありません」
「そうなんですか……?」
「はい。私は連携の取れないランクマッチでの勝率はあまり高くありません。正直に言ってしまえば、6割弱です。皆さんそれぞれに強みや得意な事があるように、私の強みはサポートです。連携が前提となってくるので、大会以外では目立った成績を出せないのです」
正直にズバズバ言っているけれど、全部本当の事なので下手にフォローが出来ない。
それに、ハイネスさんが言っても問題無いと判断したのだ。ここは任せた方が良いだろう。
「大会での勝率は……どの程度なんですか?」
「そうですね……。鬼側だけの勝率で見れば8割強です。全体的な勝率は7割程度でしょうか。最近はネクラさんと戦ってばかりだったので、低いと思われる方はそこも考慮していただけると……」
「ち、ちなみにネクラさんの大会での勝率は……?」
「子供側だと、私も8割程です。全体的な勝率は5割も行かないですけど……」
苦笑しながらそういうと、またも信じられないという目で見られる。
しかし、これは仕方が無いのだ。
全体的な勝率とは、仲間が用事などでリタイアした場合でも減ってしまうので、そういう経験を何度もしている僕からすれば、当たり前だ。
そして、この場にいる人の中で、自分の所属している陣営での勝率が9割に達している人など片手で数える程度だ。
大会のことを持ち出せば、それもかなり低くなるはずだ。
恐らく、大会の勝率が9割を超えているのはマイさんだけだろう。
「他の皆さんの勝率は、気になるならご自分で聞いてみてください。しかし、ネクラさんが本気で世界を取ろうと集めたメンバーです。信用して貰って大丈夫だと思いますよ」
「……そうですか。ありがとうございます」
「いえいえ。この後のお試し会で、実際にその目で見れば大体分かると思いますよ」
ライから聞いて知ったのだが、アバターのみの対戦はライのチームにいた人なら全員経験済みらしい。
始めは遊びで始めたが、意外と楽しかったのでその後もちょくちょくやっていたのだとか。
そんな背景もあり、アバターのみで対戦すればその人がどの程度強いのかはっきり分かるという事もしっかり理解しているらしい。
「では、ハイネスさん、マイさん、ミナモンさん、シラユキさんの4人はこの隣の応接室で。残りの20人はここで簡単にミーティングを行います。終わり次第お試し会としましょう。よろしいですか?」
『はい』
先に述べた4人がすたすたと部屋を去ると、残された20人はお互いの距離を詰め、中心に寄って再度座り直す。
ミナモンが座っていた場所に晴也が座り、そこを中心としてあいた分の席に他の誰かが座る。という形だ。
晴也は周りからの視線で少し緊張しながらも深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、ミーティングを始めた。
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