第42話 例えばの話
現実世界へと帰ってきた晴也は、ベッドから起き上がると直ちに2人へとDMを送った。
もちろん内容は、先ほどマイから提案された事についてだ。
そして、まだこちらも少々不安な点があることなどを充分伝えられる文面で、仮に断られたとしても笑い話で済むような文面を送る。
〖突然で申し訳ありません。
今度世界大会が行われる事についてはもうご存じだと思います。
あくまで例えばの話として考えて欲しいのですが、私がその大会で優勝するために、ハイネスさんとライさん。2人の力が必要ですと訴えた場合、私のチームに入ってくださいますか?〗
具体的な話をしてしまうと、かなり本気だと誤解されかねないので、最低限の説明だけ。
そして、これで乗ってくれるのなら僕も真面目にこの件について考える。
もし相手から具体的な内容が聞きたいと返ってくれば、一応現段階で考えている事を伝える。それで問題はないだろう。
僕はランクマッチの勝率が世界でただ1人3桁なだけ。ライは日本の賞金女王。マイさんは最近話題のプレイヤー。ハイネスさんは僕が日本の中で敵わないと思える1人。
このメンバーだけで世界と戦えるか。そう聞かれれば、分からないと言うしかない。
海外のプレイヤーの強さも、海外のプレイヤースキルの高さや頭脳の程。その全ての情報が不足しているからだ。
唯一分かるのは、ランクマッチでの勝率が3桁に達しているのが、全世界で僕だけという事実だ。
これは自分で調べたわけではなく、運営の公式生放送にてランクマッチの勝率が最も高い人。その名目で僕が1位だったからだ。
そのランキングの2位と3位は外国の人で、98%だった。
1回でも負けてしまうと、当たり前だがランクマッチでの勝率は3桁に届く事は無くなる。
つまり、全世界で未だランクマッチで敗北を知らないのは僕だけなのだ。
(海外のプレイヤーが予想以上に強かった場合、いくら最強のチームを組んだところで勝てないだろうな~)
自分の強みはあくまで、その判断力の早さと知識量だと正確に見抜いている晴也は、いくら強い人が自分のチームに来てくれたとしても、プレイヤースキルに天と地ほどの差があった場合、どう頑張っても海外の人には勝てない。そう考えていた。
頭脳の面では互角でも、プレイヤースキルの点で負けていれば、当然自分達が勝つ事はできない。
その辺が未知数なので、晴也にも絶対に勝てるという確証が無い。
ただでさえアバターのみでの対戦なんて経験が無いのだ。なおさら勝利への道は真っ暗になる。
そんな沈んだ気持ちになりかけていた時、部屋の扉がノックされ、その先から春香の声が聞こえてくる。
どうやら、もう夕飯の時間になってしまったらしい。
今日は昼に家具が概ね揃い、その現実を受け止めきれなかったから眠って、少しゲームして……なんにもしてないな、今日。
「今日の夕飯は唐揚げ。文句は?」
「作ってもらったのに文句なんて言わないよ。ていうか、それ聞くの遅くない?」
普通作る前に聞くでしょ。出来あがってから聞いても意味が無いのでは……。
そう言いたかったのだけど、春香は文句が無いのならどうでも良いとばかりに、僕が席に着くなり食べ始めた。
スマホをいじりながらご飯を食べる姿を見ても、行儀が悪いなんて言えるほど、僕達の関係は対等ではない。
普通に美味しいご飯を作ってくれたのだから、それだけ感謝して、大人しく食べれば良い。
そう思っていた時、やけに神妙な顔をした春香が食べていた手を止め、僕にいつかのように相談を持ちかけて来た。
「お兄ちゃんってさ、大会とか出てるでしょ?」
「……唐突だね。なんで?」
「ランクマッチでのポイントをお金に替えただけで、そんなにお金に余裕がある訳ないもん。優勝してるかどうかは知らないけど、何回か出た事はあるでしょ?」
「あるよ? それがどうしたの?」
「それは……毎回同じメンバーで?」
なんだか妙な事を聞いてくるな……。
まぁ、ここで嘘をついたところで僕には何の得も無い。
なら、変に嘘は吐かずに正直に答えた方が良いか。
「そんな事は無いよ。毎回違うメンバーで大会に参加してるよ」
「……なるほど。じゃあ仮に、何年も一緒に大会で結果を残してきたメンバーがいたとして聞いてほしいんだけどね? その人達とチームを解消して、自分の所に来てほしい。そう言われたら、お兄ちゃんならどうする?」
「……話が見えないんだけど。もう少し詳しく話して貰って良い?」
「だから、何年も同じメンバーでチームを組んで、大会で優勝してきたチームがあるとするでしょ? その中から、自分を含め2人が別のチームにスカウトされたとする。お兄ちゃんなら、このオファーを受けるかってこと」
まだ何か説明不足感は否めないけれど、そこはしょうがないと割り切ろう。
そして、その問いに関する僕の答えは考えるまでも無い。
「スカウトしてきたチームの強さによるよ。自分達のチームより強いのなら受けるし、弱いなら受けない。これが普通だと思うけど?」
「……今まで一緒にやってきた仲間の事は?」
「もちろん反感は買うかもしれないし、幻滅されるかもしれない。だけど、結局ゲームっていうのは勝たないと意味が無い。なら、強いチームに行くのは当然だよ」
「な、なら! その相手のチームの強さが分からないって場合は?」
なんか、やけに変な事ばかり聞いてくるな……。
ていうか、スカウトされたと仮定して、相手のチームの強さが分からないなんてことあるのか?
こんな質問をしてきているってことは、友達か春香本人がそういう状況に置かれているんだろうけど、訳が分からない……。
「正しくは、チームメンバーを集めている途中で、お兄ちゃんに声がかかったってこと!」
「難しいね……。じゃあ聞くけど、スカウトしてきている人はそれなりに有名、もしくは強いプレイヤーってことで良いんだよね? 他のチーム、まして大会で結果を残しているようなところから簡単にうちに来い。なんて言えるのはそういう事でしょ?」
「う、うん。そういう事になるね」
「そうだね……。僕ならまず、その人がどの程度の力を持っているのか改めて調べる。それから、一緒に誘われている人がどうするのか聞く。その上で、答えを出すかな」
「ん? どういうこと? 分かるように説明して?」
困惑している春香に、僕の考えを1からすべて説明していく。
仮に僕が同じ状況になったとしたなら、まずその人が本当に自分より実力があるのか。この点を徹底的に調べる。
理由は、自分より実力が無い人に、今まで一緒に苦労を乗り越えてきた相手を見捨ててついて行くなんてできないからだ。
次に、相手の実力が自分より上だった場合。これは、一緒にスカウトされているチームメンバーにどうするか聞く。
一緒のチームから引き抜かれているのだから、行くなら2人一緒が良いという考えの元だ。
相手も迷っているようなら、自分の考えを伝えれば良い。
「自分の考え……?」
「相手の強さが自分より上。そして、そんな人からチームに入ってくれと言われている。その事実と、今まで苦労を共にしてきた仲間。どっちを取るかなんて、それこそその人の判断だよ。僕と春香が同じくそんな状況になったとしても、選ぶ答えは違って良いんだ。つまるところ、結局は誘われた本人が決める事だからね」
「自分の憧れの人が誘ってくれていたとしても、断る可能性はあるの?」
「……憧れているのかどうか。それはこの問題には関係ないよ。今まで一緒にやってきた仲間を取るのか、自分より実力が上の人と一緒にチームを組むのか。それを決める上で、憧れているって感情は必要ない」
冷たいかもしれないけれど、憧れているからなんでもその人の言う事を聞くか。そう言われたら、答えはノーだ。
何年も自分と苦楽を共にしてくれた仲間。これは簡単に捨てられる存在では無い。
それを、相手が憧れている人という理由だけで捨てるのは、僕の中ではありえない。
「なら、あくまで参考までに。お兄ちゃんならどうする?」
「僕なら受けるよ。自分より実力のあるプレイヤーが声をかけてくれたんだ。一緒に誘われているチームメンバー乗り気じゃなくとも説得する。その上で、チームメンバーが今のままで良いと言う場合に限って、僕は断るかな」
「それは、さっき言ってたようにチームメンバーと一緒に行きたいから?」
「そうだね。行くなら、一緒に誘われたチームの人と行く。だけど、これは僕個人の意見であって、必ずしもそのチームメイトを尊重する必要は無いと思うよ。チームメイトが行かなくとも、自分はその話に乗るって人ももちろんいるだろうからね。だから、考え方は人それぞれって言ったんだよ」
「なるほどね……」
実際にそんな状況になった場合、自分が本当にその行動を取れるのかと言われると怪しいけれど、少なくとも考えはするだろう。
その結果、春香に言った内容とは別の選択をするかもしれない。だけど、それは何度も言うように個人の判断だ。
引き抜きの件に関しては、その人とチームメイトの事なので、外部から口出しをすることではないけれど、結局は本人達が決めるしかないのだ。
その事が、春香にしっかりと伝わっていればいいのだけど……。
「そう。ありがと」
「役に立てたかな?」
「……参考にはなった」
「そう。良かったよ」
その会話を最後に、この夕食の間、僕らが言葉を交わす事は無かった。
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