第41話 勧誘
ギルドの中へログインした晴也は、そのままいつものようにロビーへと向かおうと玄関の扉を開けた。
このゲームは、以前ログアウトした場所にログインするようになっているので、グッズ販売を祝うパーティーがあった時、ここでログアウトした晴也は、自然とここにログインしたのだ。
(位置を指定してログイン出来るようになれば楽でいいんだけどな……)
心の中でそんな事を思いながらギルドの扉を開ける。
普段であれば、馬車が数台走る道とアニメキャラを模したアバターがそこら中に歩いている光景が目に入るのだが、今回ばかりはそうではなく、扉の前で座り込んでいる少女が目に入って来た。
その少女は晴也がよく知っている少女であり、未だに晴也のギルドに所属している数少ないプレイヤーの1人だ。
「マイさん? こんなところでなにをしているんですか?」
彼女はギルドのメンバーだ。
仮に自分を待つとしたらギルド内で待つはず。そう思ったのだ。
一瞬別人かとも思ったが、顔を上げた少女の顔は、間違いなくマイ本人だった。
「えっと……ネクラさんに真面目なお願いがありまして、ここで待っていました!」
「な、なぜギルド内で待たずに、ここで?」
「真面目な話をしたかったので、ギルド内で待たずに、こっちで待っていようかなと……」
「は、はぁ……」
言っている意味がよく分からないけれど、とりあえず中へと通し、いつものように適当に座ってもらう。
その正面に向かい合うようにして晴也が座ったところで、マイは話を始める。
「ネクラさんは、3時間ほど前に発表された世界大会の情報、もう目を通されましたか?」
「ええ一応は。ただ、アバターのみでの参加と書いてあったので、私には縁が無いと思い、それ以降は読んでいません」
「そう……ですか。じゃあ、参加する気はないんですか?」
「そうですね。優勝賞金がかなり高額なようですけど、私は世界大会に出たことがありません。それに、日本の予選で勝つのは、恐らくライになるでしょう。なら、参加する意味はないかなと思いまして」
苦笑しながらそう言うと、マイさんはなるほどと頷いた。
世界大会の事で話があったのだろうか……。まぁ、一緒に出たいと言われてもアバターのみなので正直少し悩むところだ。
これが普通にキャラを使えるのなら、マイさんがいればライも倒せる可能性が出てくるが……。
この前の大会でライに勝てたのは、鬼側が負けなかったからだ。
つまり、初戦で鬼側が負けていた場合、僕達はあっさりと敗退していたのだ。
その結果から分かるように、マイさんがいればライに勝てる可能性はかなり高くなるけれど、反対に、いないのであれば勝てない可能性の方が高いのだ。
「確かにアバターのみの大会という事で賛否両論分かれているみたいです。ですけど、私個人としては賛成派なんです。否定しているのは、アバターだけで試合をした事が無い人。そう私は勝手に考えていますが、ネクラさんはどうでしょうか?」
「……確かに、私はアバターを対戦で使った事はありません。しかし、何か違うんですか?」
「アバターのみだと、このゲームが単純に上手い人が勝つ仕様になっているんです。普段はキャラの相性や運にかなり左右されますけど、これがアバターのみになると極端に減るんです。なので、アバターのみでの対戦は、意外と面白いんですよ?」
「そう、なんですか……」
まぁ、アバター同士で対戦したことが無いので素直に同意しておく。
分からない事を知っているふりなんてしても仕方ないのだ。
「それで、今回の大会は、同じ国籍の人であれば自由にメンバーを決められるんですね? 先ほども言った通り、アバターのみになれば、単純にプレイヤースキルでの勝負となります。私は、自分で言うのもなんですけど、ネクラさんにご指導いただいたおかげでそこそこそのプレイスキルは持っている自信があります!」
「……マイさんに関しては、私が教える前からかなりのスキルを持っていたと思いますけどね。それで、本題は?」
「ネクラさんは、このゲームをプレイされている日本人の中ではトップクラスにプレイヤースキルをお持ちです。その膨大な知識と応用力。そしてその戦術が合わされば、世界と戦えると思いませんか?」
「......確かに、世間的に見れば僕はかなりのスキルを持っているかもしれません。今までの話が本当なら、良いところまではいけるでしょう。ですが、それは私個人で挑む場合です。このゲームはチーム戦ですので、私1人。もしくはマイさん含め2人が強かろうが、仲間が弱ければ意味が――」
「その通りです! なので、仲間もそれ相応の人達を集めれば良いんです! 私が呼びかけても誰も集まらないかもしれませんが、ネクラさんが呼びかければ強い人がこれでもかってくらい参戦してくれるはずです! その人達がいれば、予選優勝はもちろん、世界でも良い線行くと思うんです!」
興奮したようにそう話すマイさんは、初めて会った時にネクラについて語っていた時以上に嬉しそうだった。
確かに、マイさんの言う事も一理ある。しかし、それには大きな問題があるのだ。
「つまり、マイさんは私と一緒にチームを組み、世界大会へ出たいと。そういう事ですよね? 強い人を集めて、皆で優勝を目指したいと」
「はい! そのと――」
「ではお聞きしますが、私よりプレイヤースキルがあると思われる方々はどうするつもりなのですか? マイさんは私が最強のように語ってくれましたけど、私自身、勝てないと思っているプレイヤーは日本だけでも2名ほどいます。その方達も、恐らくこの大会には出るでしょう。その方達の対処をどうするのか、お聞きしても良いでしょうか」
かなり他人行儀な感じになってしまったけれど、これは真実なのでしょうがない。
いくら最高のチームを作ったところで、仲間を必要以上に庇うプレイをしながら結果を出していたライと、自分以上の頭脳を持つハイネスさん。あの2人には勝てないだろう。
それに、アバターのみの勝負となれば、単純にキャラの特徴なんかは当てにならなくなる。
つまり、指揮官同士の頭脳戦で9割以上勝敗が決まるという事だろう。
世界大会の本戦以前に、日本でその人達に勝てないのであれば意味が無い。
ここで勝手に熱くなるのは構わないけれど、ライとハイネス。この2人は、日本の予選を通過するためにはどうしても障害になってしまう。
参加するのであれば、その対処は聞いておきたい。
「ライさんに関しては直接話した事が無いので確証が持てませんが、ハイネスさんに関しては説得が可能です。具体的には、その2人には私達のチームに入ってもらえるよう交渉します。あちらも、ネクラさんが参加するとなれば厄介な存在のはずです! その存在が仲間になるのなら、喜んで受け入れてくれると思います!」
「……しかし、ライはいつも大会に出ているメンバーと出る可能性もあります。それに、ライが参加しない場合、ライがハイネスさんを手放すとは思えません。その点はどう考えていますか?」
「ネクラさんはご存じないかもしれませんが、ライさんも私達と同じようにネクラさんの大ファンなんです。なので、説得は可能なはずです。ライさんも、挑むからには優勝したいはずなので、そこを強調します。いつものメンバーを取るか、私達と一緒に新たな最強のチームを作るか!」
「なるほど……」
あまりの力説ぶり、そして、あらかじめ突っ込まれるだろう所を予想してちゃんと回答を用意している事に少しだけ驚く。
この人は、失礼だけどあまり考える事は得意じゃないと思っていた。
しかし、うちの妹と比べるとはるかに頭が良いみたいだ。
それに、この提案は双方に利点があり、疑問に思っている僕がきちんと納得出来るような理由だ。
あのライが本当にネクラのファンなのかは疑問だけど、そこは関係無いので気にしないでおこう。
「ライのチームメイトが引き抜きに反発した場合はどうします? 私は有名と言うだけで、何でもして良いとは思っていません。あまりに横暴だと叩かれますよ?」
「それに関しても問題はありません。最高のチームを作って世界と戦う。ゲーマーからすれば、これ以上ない楽しみです。そういうコンセプトのゲームが人気なのは、ネクラさんもご存知ですよね? 確かに最初の方は少し揉めるかもしれませんけど、予選で優勝したら何も言われなくなります。自分達が負けた相手に文句を並べても、それは負け犬の遠吠えとして相手が叩かれる対象になりますので」
「確かに、おっしゃる通りですが……少し考えさせてください。例えばの話として2人に話をしてみます。その結果好印象であれば、この話を受ける。という形でよろしいですか? 少々不満かもしれませんが、私はそこまで夢を見る事はできないので、それが現実味を帯びて来てからでないと踏み込めないんです」
情けないと思われても良い。
しかしこれは、いろんな方面に怒られそうな問題だ。
例えば、今回もネクラがSNSで募集すると思い、知り合いからの誘いを断ってしまった人もいるかもしれない。
それに、ライのチームのメンバーは怒るだろう。
そんな、各方面に喧嘩を売りそうな事を、まだ希望段階なのに”乗った”と気軽に返事をするわけにはいかない。
そもそも、大会情報にすら碌に目を通していないので、本当にこの案に乗っかるのなら、まずはその確認からだろう。
色々と、この案には心配な点がある。
なので、確証を持てたらという風にしたい。
「問題ありませんよ。予選は冬。後半年もあります。まぁ、ネクラさんの性格から考えて、この後すぐに2人へ連絡を取られるでしょうけど……」
「ははは……。流石、分かってますね」
そんな会話を交わした2人は、その後数分間世間話をした後、お互いログアウトした。
晴也は、マイと話した20分足らずの時間で、世界大会への希望を少しだけ見出していた。
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やる気が、出ます( *´ `*)




