表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/322

第39話 人見知り

 翌日の14時、晴也はリビングに信じられない光景が広がっていくのをただ黙って眺めていた。

 数分前、チャイムが鳴り対応した時、相手がロボットではなく人間だった事に驚き、エントランスからここまで上がってくる間に心の準備を済ませ、いざドアを開けると女性だった事に再び驚き、今この状況だ。


 このマンションは最初にエントランスで鍵を差し込むかインターフォンを鳴らし、自動ドアを開ける。

 なので、もし訪問者が来る場合は目的の部屋のチャイムをここで鳴らし、部屋の主にドアを解錠して貰わなければならないのだ。


 晴也が住んでいるのは最上階なので、エレベーターを使ったとしても数分の猶予がある。

 また、玄関でもチャイムを鳴らしてくれるはずなので、それを合図に深呼吸して勢いよく扉を開けたのだ。


 そこには、予想した通りロボットが数十体並んでいた。並んではいたのだ。

 しかし、扉の前にはもう1人、生身の人間の姿があったのだ。


「お荷物の……お届けに、まい……参りました」


 その女性は身長だけで言えば晴也より小さく、150センチとちょっとというところか。

 声は小さくてか細く、深く被った帽子で顔は見えない。

 客相手に目も合わせないこの態度はどうなのかとも思うけれど、晴也は自分が人見知りという事もあり、逆に助かったと思っていた。


(マチルダさんも、ほとんどAIがやっている中で、その監督役のような事をしていると言っていたな......。なら、この人もそういう役目なのか)


「ど、どうぞ……。指定した場所に荷物を置いてくださるとの話なので、お願いしてもよろしいですか?」

「……わ、わかりました。では、詳細を、教えてください」


 それから部屋の中に招き入れ、簡潔にどこにどう配置してほしいのかを伝えると、その女性はテキパキとロボット達へ指示を出し、次々と家具を配置していった。


 この人は、恐らく自分と同じように人見知りなのだろう。

 そして、自分と同じように生身の人間相手でなければ、その人見知りは適応されないのだ。

 VRでは本来の相手の顔が見えている訳ではないためなんとかなっている晴也だが、こういう状況になると気が効くような事を言える訳も無く、ただ目の前で動いているロボットをぼーっと眺めていたのだ。


 そのロボット達が運んでいた家具の正体に、気がつくまでは……。


(待て……。あのソファ、どう見ても3人以上座れるだろ……。てか、なんだよあの無駄にデカイテレビ……。あいつ、なんて物買ってんだ……)


 ロボット達が淡々と運んでいる物。

 それは、晴也が手を広げても足りない程大画面のテレビや、どう考えても3人以上は座れる高そうなソファだった。

 それを始めとして、SNSの広告でチラッと見た事のある最新型の冷蔵庫や電子レンジまでもが運び込まれていた。


 この時、晴也は思い出した。

 自分の妹が、ただ見せびらかしたいだけでブランド品を買い漁る趣味を持っている、金遣いの荒い人間だったと。

 つまり、この部屋に運び込まれているもの全て、高級家具か最新型の家具だろう。


(失敗した……)


 リビングやキッチンでこれという事は、風呂場やその他の部分まで無駄に高いもので溢れる可能性がある。

 そんな生活、春香は良くても自分は落ち着かない。


 晴也は、高級な時計と安い時計なら、迷わず安い方を購入する。

 家具に至ってもその考えは適応されていて、高い最新型でなくとも、安い旧式のものを買えばいいと思っていた。

 要するに、かなり庶民的な考えをする人間なのだ。


 反対に妹である春香は、別に高級な物が好きという訳では無かった。ただ、変に几帳面なだけなのだ。

 例えば、新しい物の中に1つだけ古いものが混じっていた場合、古いものを捨てて新しいものへと交換するような性格をしている。

 つまり、1つでも高級な物を買った場合は、全てそれに合わせようとするのだ。


 春香がリビングの家具を全て選んで良いと言われ、最初に思い至ったのは、横になって眠れるソファだ。

 アニメやドラマなんかでよく見るので、前々から買ってみたいと思っていたのだ。

 都合よくそのチャンスが到来し、真っ先にそのソファの購入を決めた。

 そしたら後は、そのソファを起点にレイアウトを決めればよかった。


 しかし、せっかく兄妹だけで暮らすのだし、自分はある程度稼ぎがある。

 なら、お金に遠慮する必要はなかった。

 冷蔵庫のような基本的な物は、総じて最新の物を買い揃え、最新の物が揃っている中に旧式の物はいらないので、任されている場所は全て最新の家具で埋めよう。そう考えたのだ。


 もし予想以上に出費がかさんだとしても、半分だと偽っていくらか出して貰えば良い。

 上手い嘘の吐き方とは、本当の事と嘘を混ぜて話す事だ。いくら頭の良い兄でも騙せるだろう。

 密かにそう策を巡らせていた。


 そして、その策にまんまとハマった晴也は、業者の人が全てを完了して去った後、フカフカのソファに腰をおろし、部屋の中を見回してため息をついていた。


 自分の妹の浪費癖を忘れ、レイアウトを全て任せた自分の責任と、高校生のくせに贅沢をしているという罪悪感でどうにかなりそうだった。

 かと言って、自分の妹に正直に話すと、自分の命が危険にさらされてしまう。

 なので、緊急避難的にSNSへとこの愚痴をぶちまけた。


 部屋の写真は流石に載せていないけれど、同居人のせいで落ち着かない雰囲気の部屋になってしまったと愚痴る。

 数分後にはその投稿は削除され、何事も無かったかのように家具が全て来ましたと報告する。


 フォロワーの方も、ネクラが愚痴りたかったのだと察し、その投稿を見なかった事にしていた。


 そしてその数分後、ESCAPEの公式から、過去最大級の規模で行われる世界大会が行われると発表された。

 その日本予選が今年の冬に行われる事、そして、その世界大会の優勝賞金が過去最高額の1億ドルだと発表されると、たちまち各種ニュースサイトが報じた。


 詳細も発表され、ESCAPEの上位プレイヤーは軒並みやる気で満ち、早くもチームメンバーを募集している輩もいた。

 しかし、その情報に真っ先に食いつきそうなネクラ――晴也は、その情報すら目に入らない程疲弊しており、春香が帰ってくるまでこのソファで眠る事にした。

 次目覚めた時、目の前の光景が全て消えている事を願って……。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ