第2話 プリン騒動2
春香という名の嵐が部屋から過ぎ去った後、晴也は早速自身のSNSで助けを求めた。
もちろんタダで手を貸してくれるような善人がいると考えるほど愉快な脳みそを持っていない彼は、手伝ってくれた人限定としてお返しを提示した。
幸いにも、自分はESCAPEでのトッププレイヤーなのだ。そんな人が、手伝ってくれたらマンツーマンで勝つ方法を伝授してくれるとなれば、1人くらい協力してくれるだろうと思った訳だ。
いなければいないで、また別の方法を考えれば良いだけなのだ。
成功しようが失敗しようが、彼にとってはどっちでも良く、他にESCAPE関係でしてほしいと言われた事があれば叶えようと思っていた。
実際、どれだけの事を要求されようとも、春香の欲しい物リストを全て買わされるよりかは安上がりなのだから。
〖緊急の事案です。
家族のプリンを勝手に食べたお詫びとして、同じ物を買わないといけなくなりました。
所持している方、お譲りくださらないでしょうか。もちろん代金はお支払いしますし、お返しとして私が出来る限りのことは事はさせていただくつもりです。
お譲りくださる方が居ればDM下さい〗
晴也がこの文面とプリンの画像を投稿したのが7時20分だった。
お礼を提示しないのは、興味を持つ人がそれだけ多くなると踏んだからだ。
晴也のSNSをフォローしている人は軒並みESCAPEをプレイしている人達だが、トッププレイヤーと呼ばれる人も数多くいる。
そんな人達に晴也が教えるようなことなんて無いのだ。
そういう人達には、一緒に大会に出るなどを提示した方が効果的だ。
なので、もしそういう人達から連絡が来た場合はそちらを提示しようと考えたのだ。
まぁ実際、来たとしても数件だろう。その中から適当に1人を選べばいいのだ。
0件だった場合はネットで転売でもされている物を買うしかなくなるのだが、妹にバレなければ問題にはならないだろう。そう思っていた。
しかし彼は、自分の影響力が思っていた以上あることを10分後に知ることになった。
なにがあったのか。それは、100件近いDMが来てしまったのだ。
あまりの予想外の事態に慌てた晴也は、その場で一旦プリンの受け付けを終了した。
これからが大変なのだ。100件近い相談の中から、程良い感じの人を選び、その人に交渉をして、それから送ってもらわなければならない。
幸い、晴也は学校に行っていないためかなりの時間がある。
送られてきたDM全てに返事を送り、その中から納得してくれた人だけと交渉する形をとれば、夜までには纏まるだろう。
〖DMありがとうございます。
予想以上に多くの方から譲っても構わないと連絡を貰いましたので、このような返事で失礼します。
今回のプリンの件ですが、私がお返しとして提示出来る物は代金+私が鬼or子供陣営での勝ち方講座を行おうと考えております。
それでも譲ってくださるのなら、今日の夜20時までに返信をお願いします。
他の条件がよろしければ、出来る限り対応いたします〗
とりあえず上記のような返信をコピペし、全員に送信する。
100人全員が譲ってくれる訳がないので、半分程度には減ってほしいと、半分祈りながらの送信だった。
最悪減らずとも、妹に邪魔されず100個近いプリンを自分の物として保管しておけるのだ。
100人に勝ち方を教えるなど面倒だが、好きな時に邪魔をされずプリンが食べられるようになると考えれば安い物だろう。
賞味期限など、保存状態にさえ気を付けていればそこまで問題にはならない。
妹に恩を売るという目的で少し渡すのもやぶさかではないし。
とりあえず返信の期限までは何時間もあるのだ。
その時間まで寝ることにした晴也は、通知音を切ってそのままベッドで横になった。
――夜19時30分。
12時間以上の眠りから覚めた晴也は、眠そうに目を擦りながら枕元においておいた携帯を手に取る。
しかし、待ち受け画面に表示された通知の量を見て、思わず目を見張った。
そこには、10000件をはるかに超える通知が表示されていたのだ。
(ふざけすぎだろ……)
晴也の正直な感想はそれだった。
DMの返事は思っていた通り半分に減っていた。それは良い、それは良いのだ。
しかし、彼が想定していなかったこと。それは、DMの連絡を見たフォロワーがその内容を拡散していた事だった。
その事に関して、他のフォロワー達が羨ましがり、自分も教えて欲しいと言う人が大量に発生し、収拾がつかないことになっていたのだ。
自分がランクマッチの勝率を初めて晒した時ほどではないが、それでもちょっとしたニュースになっていたのだ。
まぁ、そう頼んできている人間は見た感じ中堅プレイヤーや始めたばかりのプレイヤー、最近勝てないと伸び悩んでいるプレイヤーがほとんどだった。
予想通り、上位のプレイヤーはさほど食い付きが良く無い。
いや、そんなことはどうでも良い。
さっさとこの事態を収めなければ、この火種は炎上と言う大きなものとなって帰ってくる可能性があるのだ。
(とりあえずDMの返信をくれた人全員には譲って貰うと連絡をして、これはその後だな)
返信の内容を考えると同時に、この事態を上手く収める方法を考えなければいけない。
一見すると無理ゲーだが、彼にとってはいつもやっているゲームの方が難しいのだ。
これくらいは赤子の手を捻るように簡単な事だ。
実際、それでも構わないと言ってくれた53人宛てにお礼の内容を考えつく頃には、この事態を収める案を思いついていた。
VRゲームのプレイ動画を上げることのできるサイト。そこに自分のチャンネルを作ればいいのだ。
有料(プリン一個分の値段)で解説動画を公開すれば、不公平感もでないだろう。
このゲームの勝率が上がると言うのは、実質稼げる額が上がることに他ならない。
どうしても知りたいという人は、数百円でそれが知れるのであれば食いつくだろう。
あくまで炎上することを防げればいいので、儲けを出すことなど考えない方が賢明だろう。
〖今回の件、私事でお騒がせしてしまい申し訳ありません。
それで、後日動画配信サイトにて、自分なりの解説動画を公開することにしました。
今回の件での報酬という事ですので、無料での公開と言うわけにはいきませんが、その事に関してはお見逃しください〗
出来るだけ下手に出て、メッセージを発信することで相手の怒りを鎮め、これ以上の騒ぎになることを予防する。
炎上さえ回避すればこの件はこれで良いだろう。
解説動画を取るのは確かに面倒だが、結局は自分が撒いた種なので仕方ないと割り切るしかない。
解説動画を撮るのと、炎上して個人情報を晒されるの。どっちが良いかなんて、考える頭があれば分かるだろう。
――2日後の朝
「なんだこれ……」
気が付くと、晴也は送られてきた物を前に情けない声を出していた。
晴也としては、1個送ってくれれば良かったのだ。というよりも、春香の話を聞く限り、このプリンはかなりレアな物らしい。
そこまで大量に送られてくることは無いだろう。そう考えていた。
しかし、送られてきた物の1割が箱だったのだ。
つまり、件のプリンが40個入った箱が4つも届いたのだ。こんな情けない声が出るのも仕方がないだろう。
プリンが大好物である晴也でもここまではいらない。ということで……
「1箱やる!? なに!? 代わりに扉を直せって!?」
「いや、その件に関しては春香が壊したんだから当たり前でしょ……。それよりも、返せとか言ってたでしょ? その分」
「まさか……毒入り?」
「なわけあるか!」
思わず箱を開けて大量のプリンを眺めている春香の頭をひっぱたく。
普段はヒステリックなくせに、予想していない事が起こると途端にバカになるのは止めてほしい……。
「あいつらにも1箱ずつ渡しておいてくれ。僕はこんなにいらないから」
「……」
「聞いてる?」
「聞いてるよ! てか、どうやってこんなに手に入れたの!? ありえないんだけど!」
「気にしなくていいよ。ちゃんとお金は払ってるし、違法な手段で手に入れた訳でもないから」
「そういうことじゃなくて!」
なぜかまた怒りだした春香を放置し、晴也は自分の部屋へと上がる。
とりあえず1箱分手に入れられれば、最悪単体のプリンを数個食べられるくらいは水に流せる。
金はいくらでもあるし、稼げるのだ。少しくらい奢ったとしても問題無い。
一眠りしたら、今夜はプリンを送ってくれた人全員に講義をしないといけないのだ。
鬼陣営は経験が無いので、持っている知識を教えたり、子供側が常に考えていることと逃げるルート、そして大体どこら辺に隠れているかの伝授になる。
子供陣営に関しては、同じ説明するのは流石に面倒なので、教えて欲しいことを送ってもらい、同じだった人は纏めて教えることにした。
それでも今夜は8時間以上VRの世界にいることになるが……。
これからしなければならない事を考えると、思わずため息が出てくる晴也だったが、彼は思っていなかった。
この解説が原因で、もっと大事に発展することになるとは……。
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