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第31話 祝勝会

 分け前が決まった事を報告すると、ミナモンはとりあえずホッと一息ついた。

 自分が指揮官の言う事を一切聞かなかったのは事実なので、少し減額されるかもとヒヤヒヤしていたらしい。

 想定していたよりお金がかかってしまったので心配していたのだと。


「お酒やワインが足りない場合はご自分で買いに行ってください! お金は後で払いますので!」


 ビニール袋の中から缶ビールや高そうなワイン、お茶やジュースなどを取り出しながらそう言ったミナモンは、自棄気味ではあったけれど少しだけ楽しそうだった。

 右手のビニール袋には飲み物が入っていて、左手の袋の中にはお菓子やつまみが入っていた。


「お~い。肉が無いぞ~! ピザも買ってくれや~!」

「1度に買ってこられる訳ないでしょ!? 料理の類はデリバリーで注文してあるので、もうちょっとで来ますよ!」

「お~悪い悪い。早くな~」

「僕に言わないでくださいよ!」


 マチルダのいじりに対してミナモンが過剰に反応する。その結果、周りで大爆笑が起こる。これが、このチームでの日常になっていた。

 晴也も当初は喧嘩にならないかと不安がっていたけれど、本人たちも楽しそうなので放置している。


 なにより、チームの雰囲気がガラッと変わるのは悪い事ではないし、逆に明るくなるのは良い事だ。

 ミナモンにはイジラれ役としても頑張ってもらったと言っても過言ではない。


「じゃあネクラさん。お願いしますね」

「あ、やっぱり僕なんですね……」

「他に誰が居るんですか! お願いしますよ!」


 缶ビールを持ちながら笑っているマチルダにそう言われ、晴也も紙コップにオレンジジュースを入れて立ち上がる。

 晴也は高校生なので当然お酒は飲めない。

 VR世界でも、そこら辺はきっちり規制されているのだ。


 立ち上がると、チームメイト全員が各々ワインやビール、ジュースが入った紙コップを手にこちらを注視している。

 少しだけ不安だけれど、これはリーダーである自分がやるしかない。

 1度深く深呼吸をして覚悟を決めた後、前もって決めていたセリフを口にする。


「皆さん! 大会、お疲れさまでした! 乾杯!」

『かんぱーい!』


 全員が手を上にあげ、一気に手元の飲み物を飲み干す。

 それを皮切りに、いつもは静かな晴也のギルド内に賑やかな声が広がる。

 悪酔いした大人達がはしゃいでいるのだが、祝いの席なのだ。それを咎める人などいる訳も無い。

 騒いでいる男たちは頬を染め、全員が楽しそうに踊ったり歌ったりしている。


 一方の晴也は、そんな大人達を眺めながら苦笑し、隣で愉快そうに笑っている男に目を向けた。


「で、マチルダさんは混ざらないんですか?」

「私はもう少し酔いが回らないと混ざれませんて! それよりも、ネクラさんって、彼女さんとか居るんっすか!?」

「なんの話ですか急に……。もうかなり酔っぱらってるじゃないですか」

「良いじゃないっすか祝いの席なんですし! 実のところ、皆結構気になってると思うんっすよ~! あのネクラには良い人が居るのかって!」


 本来ならVR内で現実の話をするのは憚られるのだが、相手も酔っているのだ。そこまで気にする必要はないだろう。

 それに、自分に彼女がいるかどうかなんて、教えてもそこまで問題にはならないだろう。


「いませんよ。それどころか、出来たことすらありません」


 自嘲気味にそう笑った晴也に対して、マチルダの反応は分かりやすかった。


「え!? 彼女いない歴=年齢ってやつですか!? 今時そういうサイトなんて腐るほどあるじゃないですか! なんで使わないんっすか!?」

「え~? それ、言う必要ありますか~?」


 苦笑した晴也に対し、反応したのはマチルダではなく頬を少し赤くしたカナだった。

 紫の髪を短く後ろで纏めており、黒いパーカを着て、八重歯が特徴的な15歳くらいの少女が酔っている。そのギャップに一瞬だけ困惑する。


「気になりましゅ! ネクラさんの年齢もそうですけど、彼女いないってなんでですか!」

「カナさんまで……。ていうか、カナさんは知っていますよね? 僕、女性にあまり免疫が無いので、そういったサイトには手を出せないんですよ」

「本当でしゅか~!? 本当に、理由はそれだけなんです~?」

「まぁ、厳密に言えばそれだけじゃないですけど……って、これ以上はダメですよ~?」


 冗談っぽく笑った晴也に、望んだ答えが返ってきたからなのか、カナは他の女性陣に絡みに行った。

 具体的には、ソマリとAliceに絡みに行ったのだ。マイは今、晴也の横でその話を真剣に聞いている。


 晴也からしてみれば、そういうサイトには女性にあまり免疫が無い事という理由もあるけれど、恋愛をするくらいならゲームをしたいという考えが根本にあるからだ。

 というより、そもそも18歳になっていないので、登録さえできないのだ。

 まぁ、これを言ってしまうと実年齢がバレかねないので、話を切り上げたのだが……。


「私の話をしても退屈でしょう? 他の方のお話も――」

「そんな事ありません! むしろ、もっと聞きたいです!」


 これ以上現実の話をすると何か重大な事を口走ってしまう。そんな予感がした晴也が他の話にシフトしようとするも、それは横で話に耳を傾けていたマイによって邪魔されてしまう。

 最近は比較的おとなしかったので忘れていたが、この子は自分のファンなのだ。しかも、前に超が付く程の……。


「ネクラさんがどんな方なのか! もっと良く知りたいです!」

「……いや、私がどんな人なのかといわれてもですね……」

「趣味とか! ネクラさんの趣味が知りたいです! 出来ればゲーム以外で!」

「あ~自分も知りたいっすね! ネクラさんって基本、ゲームの事しか話さないイメージあるっすよね~。他に何してんすか?」

「マチルダさんまで……」


 出来れば止めて欲しかったのだが、酔っているこの男に何かを期待するだけ無駄か。

 早く酔い潰れて寝るか、あっちで騒いでいる男達に混ざってほしいのだが……。


「堅いこと言わず~! ほら、さっき届いた肉もある事ですし!」

「話が繋がってませんよ……。それにしても、趣味ですか……。そう言われると難しいですね」


 手元の骨付き肉を勢いよく食べているマチルダを無視し、晴也は自分の趣味について考える。

 

 自分の趣味なんて、考えた事も無かった。

 それこそ、暇さえあればゲームをしているような生活なので、他の事には一切興味が無いのだ。


「強いて言えばですけど、歴史について調べる事……ですかね?」

「歴史っすか? そりゃまたなんで?」

「このゲームのキャラって、実在する人物が元になってるものが多いじゃないですか。好きなキャラの元になった人物が誰で、どんな人なのか。気になりませんか?」

「そういう事ですか。えらく勉強熱心な趣味っすね」

「勉強熱心というより、このゲームに関して勉強するのが楽しいだけですよ。知識を身につければ、それだけ勝てるようになりますからね。どんなゲームも、負け続けたら面白くないじゃないですか。このゲームを面白くプレイするための工夫ですよ」


 頬をかきながら恥ずかしそうに言うネクラに対し、マチルダはこの人の強さの秘密を垣間見た気がして、さらに尊敬の念を抱いていた。


 どんな神ゲーでも、負け続けたら嫌になる。それは自分も同意する。

 しかし、この人は常人以上に知識を身に着けているからこそ強いのだ。そう理解した。


 今までは単純に地頭が良く機転が効くのかと思っていたが、決してそうではない。

 もちろん普通の人より頭は良いのだろうが、それでは越えられない壁も存在する。

 なので、このゲームに関して人一倍知識を身に着けているのだ。だからこそ、ランクマッチでの勝率が異次元なのだ。


(ほんと、このチームに来てからこの人に対する評価がめちゃくちゃ変わるな……)


 今までは自分も、他のネクラファン同様、この人の事を神のように考えていた。

 しかし、そうではないのだ。この人だって負ける事はあるし、弱点もある。


 完璧な人が弱みを見せた瞬間近寄りやすくなるのと同様に、雲の上の存在だと思っていたネクラが、実はそこまで大げさな存在ではないと知れたことが、この大会を通しての1番の実りだ。


「うっし! 俺もそろそろ向こうに混ざってきますわ! 後は若い2人……じゃなくて、今回の立役者どうしでよろしくやってくださいや!」


 このマチルダという男、酒癖は少々悪いが、女心や空気の読める男なのだ。

 この際、ネクラの気持ちなどどうでも良い。今回の大会で1番活躍したであろうマイに、ネクラを独り占めさせてやろうと思ったのだ。

 自分ももっと話したいけれど、2人の邪魔をするほど野暮な性格はしていないのだ。


「嵐みたいな人ですね……。まぁ、まだまだ会は長いので楽しみましょうか」

「……そうですね!」


 嬉しそうに頷いた少女は、自分の望みを察してこの場を去ってくれた男に感謝しつつ、横で楽しそうに笑っている男を見ながら体温が少し上昇したのを感じた。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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