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第30話 分け前の話

 優勝インタビューの後『今回は本気』のチームメンバーは、全員晴也のギルドへと集合していた。

 全員が優勝出来たことに喜び、今回の立役者であるネクラとマイにそれぞれ人が群がっていた。ただ1人を除いては……。


「あ、あの! やっぱり祝勝会って……やるんっすか?」

「私に聞いてますか?」

「ネクラさん以外に聞く人いないでしょう!? ま、まじで、します?」


 恐る恐る聞いて来たミナモンに対し、晴也の反応はこの場の全員が望む答えだった。


「もちろん! ミナモンさんの奢りでやりましょう!」

『よっしゃ~!』


 ミナモン以外の全員が喜びに震え、両手を上に掲げる。

 状況が飲み込めていないマイでさえ、流石にここは空気を呼んで皆に合わせていた。


 その中で、自分の軽率な発言が招いた事だと割り切る事にしたミナモンは、分け前をできるだけ多く勝ちとろうと心に決め、祝勝会の準備のために買い物に出かけた。


 祝勝会をするには、当然食べ物や飲み物を買う必要がある。

 その他飾りつけなどは、リーダーの好みによって決められることが多いが、今回はそこまでしなくて良いだろうとネクラの判断でそのまま行われる事になった。

 いくら晴也でも、流石に飾り付けにかかるお金まで払わせたいと思うほど残酷では無いのだ。

 せっかく優勝できたのだから、1人だけ楽しめないような会にはしたくない。


「あ、あのネクラさん……。私達は、ミナモンさんが帰ってくるまで、何をするんですか?」

「……そうですね。皆さん。1名いませんけど、賞金の分け前について話しませんか? ミナモンさんの分け前については後回しにして……」

『いいですよ~』


 ミナモンが到着するまで駄弁っていても良いのだが、時間を無駄に消費するよりは、先に分け前の話をしていた方が良い。

 この中には当然お酒を飲む人もいるだろう。楽しい祝勝会の後にお金の話など、そんな雰囲気がぶち壊れる事はしたくない。


 それに、賞金については優勝したその日に分けることがほとんどの大会で義務付けられている。これは、リーダーが全額持ち逃げする事を忌避しているのだ。

 1度そんな事件が起きてから、そういう事に関しては厳しくなったのだ。


「では、最初に鬼の皆さんです。私個人の意見としては、この大会を通して全勝してくれたので、子供の皆さんより多くしたいのですが……どうでしょう?」


 そう。この大会を通して、鬼側のチームは1度も負けなかった。

 子供側は強制試練中の仲間が捕まって何度か敗北する事はあったけれど、鬼側が全勝してくれたので勝ち進んでこれたのだ。

 晴也の意見としては、鬼側の捕まえた人数云々よりも、まずはこの事実を評価したいと思っている。


「もちろん構いません。今回の大会、何度か危ない場面はありましたが、その都度鬼側の皆さんに助けられたのは子供側全員の意見だと思います。最低200程度。そこから活躍度に応じてさらに増やす。という形で文句はありません」

「ま、待ってください! そんなに貰ってしまうと、皆さんの賞金が!」

「今回、子供側で大きく活躍したのはネクラさんとその他、ネクラさんの作戦に人柱として盾となった人達のみです。活躍度によって分け前は変わる。そう決めたのですから、文句は出ませんよ。実際、こちら側は目立った活躍などありませんでしたので」


 苦笑しながらそう言ったトウモコロシさんは、子供側全員の顔を見てもう1度うんと頷いた。

 自分が言いたかった事を全て言って貰い、なんだか複雑な気分になる晴也だったが、なんでも1人で決めているという印象が残るよりは良いだろう。


 マイさんが少しだけ不安がっているみたいだけれど、トウモコロシさんの言ったことに納得している人が多いのか、子供側から反対の意見はでなかった。


 まぁ、自分1人が「私(僕)も活躍しました!」と主張しても、その他大勢の同意が無ければ意味が無いので言い出せないだけかもしれないけど……。


「反対意見は無いようなので、4人の内訳について決めましょう。皆さんの中で活躍した人を上げてもらっても良いでしょうか? こちらよりも正確に分かっているはずなので」

「……私達の中で1番多く貰うべきなのは間違いなくマイ。次点で私かAlice。ミナモンは指示を聞かなかったし1番下で良い」

「私もソマリさんの意見に同意します。ただ、指揮官として引っ張ってくださったソマリさんの方が、私よりも活躍度としては高いかと思います」

「え!? いや、私より皆さんの方が多くもらってくださいよ! 私、そんなにお金もらっても……」


 分かりやすくうろたえるマイさんを横目に、ソマリさんとAliceさんはどちらが多くもらうべきかで話し合っているらしい。

 なんでも、指揮官としてチームを引っ張ってくれたソマリさんか、マイさんに続いて確保数の多かったAliceさんかで対立しているらしい。


 ミナモンさんに関しては、2人の意見もあるし最低額の200万円で良さそうだ。

 これは、分け前のルールとして適応できるので、後回しにすると言ったけれどもう決定で良いだろう。


「では、Aliceさんとソマリさんの額は同じく250。マイさんは一番活躍したとのことで300というのはどうでしょうか。2人に不満はあるかもしれませんが、お互いが認め合っているのであれば、こちらとしては異論ありません」

「え、ちょっと待ってくださいネクラさん! 私の分が多すぎませんか!?」

「マイさんがこの大会で一番活躍したのだから当然ですよ。前も言いましたよね? 自分がそこまで活躍していないと主張しても、周りが活躍したと言えば活躍した事になるんです。お金はあって困るものではないので、どうぞ貰ってください」


 ぎこちなく晴也が微笑むと、マイは少しだけたじろいだ後、結局折れてくれた。

 そしてAliceとソマリも、お互いが納得したのか力強く頷いた。


 ここからは子供側の分け前の話だ。

 自分が仕切る訳にもいかないので、自分の番に限ってトウモコロシさんに進行を任せ、晴也はマイの隣へと腰掛けた。


 少し恥ずかしい気持ちはあるけれど、なぜかここに座れとマチルダを始めとした他のメンバーに促されたのだ。

 流れに逆らって変な空気を作るよりかは、少しの我慢で場の雰囲気を重視するべきだとの結論に至った晴也は、渋々ではあるもののマイの横に腰を下ろしたという訳だ。


「では、ネクラさんの分け前ですが、皆さんのご意見は?」

「ネクラさんはずっと正確で的確な指示を出してくれました。そのおかげで私達は比較的安定して勝ち進む事が出来ましたし、ライのチームにも1回しか敗北しませんでした。その点から考えて、150~200が妥当なラインかと思います」

「私もそのくらいが妥当かなと。この中で一番頑張ったのはネクラさんですし、鬼側の最低ラインの金額を貰っても良いと思います!」


 そのマチルダとカナの発言により、賛成多数でネクラの今回の分け前は200万円という事に決定した。

 晴也個人としてはそこまで多くなくても問題無いのだが、皆が言うのであれば大人しく貰っておく。


 今回は活躍した人とそうでない人の差が大きいので、1人1人の分け前に大きな差が出るかもしれないが、そういうシステムだからと割り切っている人が多いのだろうか。

 まぁ、皆で話し合った結果決めている事なので、これがきっかけで燃えたりはしないだろうし、本来は各々の分け前からさらに祝勝会で減るのだが、今回はそれが無い。

 祝勝会が全てミナモン持ちだと言うことが影響しているのだ。本当にありがたい。


「では、ここからは私が進行しますね。私が人柱として使わせてもらった方ですが、全部で4名ほどになります。その全員が同額で、余った金額を残りの皆さんで等分する。という形でよろしいですか?」

『問題ありませんよ』

「では早速ですが、人柱をしてもらった方の名前を呼ぶので、その場に立ってください。『トウモコロシさん』『シーナさん』『馬の鼻さん』『段ボールさん』」


 晴也が名前を呼ぶと、野菜の格好をした顔優男、ネコ耳を付けたメイド姿の小さな少女、馬の頭を被ってケンタウロスのような格好をした30代くらいの男、そして段ボールを体中に張り付けて決めポーズをとっている髭面の男が立ちあがる。


 この人達のアバターを見ていると、本当に仮装パーティーと錯覚してしまいそうになる。

 しかし、ネコ耳のメイド少女以外は話した事があるけれど、全員面白くてお調子者の感じがした。

 いや、お調子者でもない限り、あんなネタに走った格好はしないんだろうけど!


「私が200貰うという事なので、皆さんへは100~150で考えています。他の皆さんの意見はどうでしょうか」

「150は少々多いかと思います。他の皆さんの分もありますし、自分は100程度で良いと考えています」


 格好に似合わず真面目な事を言ったのは、馬の鼻という名前のケンタウロス風の男だ。

 中々渋い声で、本当に30代くらいのおじさんに見えてくる。

 恐らく、格好がもう少しまともならイケイケのおじさんとして人気が出るのではなかろうか……。


「わ、わたしも……そのくらいで良いです。人柱になったのはたまたまですし……大した事もしてないっていうか……」

「拙者も異論はない! むしろ、人柱になっただけで100も貰うのはどうかと思うほどだ!」


 シーナさんは恐縮といった感じで周りを見ながらオロオロしている。

 メイド姿からは想像できない程人見知りらしい。ついでに言うと、彼女もネクラのファンだ。


 そして、妙な一人称でキャラを作っているのは全身段ボールの男だ。

 この人はネット上ではこのキャラで生きていくと決めているらしく、侍に憧れてこのキャラを貫いているのだとか。

 なんかちょっとズレている気もするけど、言わない方が良いだろう。


「トウモコロシさんはどうですか?」

「……確かに、たまたま選ばれた人柱というだけで他の方の2倍近く貰うのは少々気がひけます。単純計算ですが、私達の分け前がちょうどいい塩梅になるのは70程度です。その場合、他の皆さんは61程になりますが……どうでしょうか」

「あ~それは良いですね! 人柱になってくださった皆さんが良ければ、私はその案を採用しますが……?」


 幸いな事に、反対意見はでなかった。

 よって、トウモコロシさんの案が採用され、人柱になった人は各70万円。その他の15人は61万円という事で決定した。


 そして、ちょうど分け前の話が終わったところで、両手に大きなビニール袋を持ったミナモンが帰宅した。

 これから、祝勝会が始まるのだ。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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