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第289話 イベント 開始

 イベントスタッフさんも1日中働いてくれる人とそうでない人がいる事は把握しているので、とりあえずイベント終了までシフトが入っていない人が作業をしている場所を各担当者の人達に聞いて色紙を渡し歩いていると、あっという間にイベント開始の10分前になっていた。


 改めて会場の中を見渡すと、そこかしこに僕の公式グッズが並べられており、これまた大変な数の人が入れるんだろうなと他人事のように思ってしまう。


 少し会場の奥の方を見ると、そこにはとても立派なステージが用意されており、そこでアイドルの人やアーティストの人が歌うんだろうと思うと、とてもじゃないが現実味がない。


 まぁ、その出演者の人に未だに会わせて貰えてないのでそう思うのかもしれないけどさ。


「それで……僕はどこまでして良いんですか?」

「……どこまで、とは?」

「……ほんとに分かりません?」


 一応、僕は後で文句を言われたりしないよう、最後の確認とばかりにニコニコしながら隣を歩いているハイネスさんにそう言ってみた。


 公式サイトではもちろん明記されていないけれど、僕は午前中は会場内を自由に行き来している。

 簡単に言えば、そこら辺を普通にブラブラしているので、ファンの人に声をかけられる事だって当然あるだろう。


 時間で言えばステージが始まる4時間ほどになるかな。

 でも、一応音楽ステージの方も見てみたいのでその席を確保する時間を踏まえると、自由に会場内を歩けるのは2時間程度になるだろう。


 スタッフさんに色紙なんかを渡している最中に会場内を見て回ったけれど、要所要所に奇妙な設置物があったので、とりあえず最初はそれをもっとよく見てみたいと思っていたのだが……


「もしもそれがネクラさんが目にしたらマズい物だったら……と、それを心配されてるんですね?」

「そういうことです。マズいんでしたら、僕はここら辺を歩きながら来てくださった人達と話してますよ?」

「いえいえ、ドッキリとかは今回企画してないので大丈夫ですよ。ただ、ネクラさんの満足いく結果は得られないかもしれません」

「……? それはどういう――」


 そう言った瞬間だった。

 イベント開始のアナウンスが辺りに響き、一瞬会場内に流れているポップな音楽が消える。

 そして、すぐさま僕が普段作業用BGMとして聞いていると公表しているクラシックが流れ始める。


 なんで販売イベントでクラシックなんだと思わなくもないけれど、ハイネスさん達このイベントを仕切っている人達からするとこれで良いらしい。うん、僕にはわからない感覚だよ。


「第一回、ネクラ公式グッズ販売イベント開始です! 皆様、よい1日をお過ごしください」


 もはやどこからツッコめばいいのか分からないそんなアナウンスが流れると、外で行列を作って待っていたのだろう人達が雪崩のように会場へ突入してくる。


 コミケかなにかの販売イベントで、始発の駅がこれに近い状態になるとニュースで見た事があるけれど、本当にあんな感じだ。

 あの中で1人でも転ぼうものならたちまち大惨事になるのではないだろうか。


 まぁそんな事にはならない事を祈りつつ、目撃されると面倒な事になりかねないので、僕はサッサとハイネスさんと別れて会場の外へと足を向けた。

 会場と言っても正確には球場内と外、そしてその中間地点と言うか、ドームに入る前にある屋内のスペースがある。


 僕の公式グッズやらステージがあるのは当然球場内で、ネクラチョコなる用途不明……いや、僕が今さっきまで存在を知らなかったチョコやらその他飲食の出店があるのは球場の外だ。


 そして、僕が気になっていた謎の設置物があるのはそのどちらでもなく、屋内のスペースだ。

 恐らく普段は球場内で飲み食いする物を販売しているのだろうそこに、今はスタンプラリーのような設置物が置いてある。


「えっと……なになに? 謎解きゲームの回答用紙置き場……?」


 謎解きゲームってなんだ。そんなの知らないんですけど……。


 そう思って咄嗟に公式サイトを確認しようとするが、その前に僕を見つけたファンの人に声をかけられてしまい、数秒と経たずに囲まれてしまう。


 一応会場内でサインやら握手やらは求めないようにと公式のアナウンスで出ているのでその手の人はいないけれど、午前中は僕がフリーで動けるとは早々にバレてしまった。


 女の人ってこういう、こっちに都合の悪い時に限って妙に勘が鋭いんだけど、これってもしかして女の人限定の特殊能力だったりするの?


 全員が全員20代前半くらいの綺麗な人っていうのはなにかの間違いだと思うし、全員それぞれ落ち着く匂いを醸し出している……というか、十中八九香水だろうけど、それがまたいちいち僕の好みだから頭が破壊されそうになるんだよね。


 俗にいう、ネクラの好み事件で僕がどんな人が好きでどんな人が苦手なのか。また好きな香水の種類やら、女の人が香水をつけている事についての意見なんかもバッチリ書かされたので、この場にいる全員がそれを把握していると思って良いのだろう。


 まったく、あんなことを仕組んだのはどこの誰なんだろうね。

 いやまぁ大体予想は付いてるんだけど、綺麗さっぱり証拠を隠滅しているようで確証が持てないのだ。まぁ、その完璧な手腕のせいで容疑者が絞られてるんだけども……。


「あ、あの皆さん……来てくれてとっても嬉しいんですけど……その、僕はあんまりその……あれが、あれなので……」


 女の人に囲まれるのは、過去のトラウマもあってかなり苦手だ。

 いや、そもそも過去のトラウマなんかが無くても苦手なんだけど……ハイネスさんが言っていた通り、このイベントに来てくれる人達はそういう僕のことをしっかりと理解している人が多いようで、早々に退散してくれた。


 いや、助かったね。まぁ、グッズが早めに売り切れてしまうかもと危惧したって可能性もあるけどさ……。


「これで謎解きに集中できるな……」


 僕が気になったその謎の設置物は、どうやら公式サイトの方にも『ネクラ本人にも内緒の、豪華景品付き謎解きゲーム開催!』とだけしか書かれていなかった。


 詳細は不明だし、豪華景品の内容についても、絶対に損はしないしこれを貰って喜ばないネクラファンは絶対にいないとまで断言されている。

 そこまで言い切るとは、よほどの自信があるらしい。


 その案内によると、ちょうど僕がいる場所が謎解きゲームのスタート地点になっているらしく、サイトにアクセスして謎を解いていく形式らしい。


 どうやら最初に謎を解いた人にその豪華賞品とやらが渡されるらしく、謎を解き終わったらここにある折り紙のような小ささの回答用紙をSTAFFに見せてくれ。という事だ。

 STAFF間で謎解きの正答は共有されているらしく、その回答順番ももちろん共有されるそうだ。


 不正防止のためか、1着になった人には謎をどうやって解いたのかをSTAFFが直接確認するのであらかじめ了承してほしいとの注意書きも書いてある。よほど、その豪華景品とやらの価値は高いようだ。


 こんな、言ってしまえば一般人の公式グッズ販売イベントで不正をしてまで豪華景品を獲得しようなどと画策する輩が居るとは思えないね。


 流石に、謎の解き方についてはこれを設計したSTAFFしか知らないらしく、確認する人は問題の作成者になるらしい。まぁ、そりゃそうだろうね。


「いい、よね……?」


 ハイネスさんがダメと言わなかったことから考えても、僕がこの謎解きゲームに参加しても問題ないことは明白だ。


 もちろん豪華景品とやらに関しては辞退するし、解けたとしても僕をカウントしないでほしいとSTAFFさんには申し出るつもりだけどね。


「じゃあ、始めますか……」


 僕はその回答用紙と、念のためにルール説明のパンフレット、そして問題文が書かれているであろうサイトに繋がるコードをスマホで読み取りつつ、小さくそう呟いた。


 これで、もし僕より先に謎を解いた人がいるなら……それは、少しだけ悔しい思いをするだろうなぁ……。

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