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第281話 軍師の謀略 戯れ

 ようやくホテルに到着して荷物を預けた直後、ネクラさんから電話がかかってくる。

 ファンの人達にサービスをした直後に電話をかけたのだ。急ぎの要件と言えば、ホテルのチェックインが実は15時から開始でまだチェックインできないとさっき知った私と同じことを考えているか、それとも例の件がバレたのか……だ。


 チェックインの事については私も旅行の経験が乏しく、以前の紅葉狩りでは運営の人達が全て手配してくれていたのでチェックインとか諸々をすっ飛ばせただけだ。


 ここで荷物も預けられませんとか言われるとハイネスの名が泣くと言いたかったところだけど、どうやらその心配はないと思ったのもつかの間だった……。


 そんなことをぼんやりと思いつつ、私はネクラさんからかかってくる電話に出た。

 一応ホテルのエントランスには私と同じ目的――荷物を預けに来てる方――でホテルを訪れている女性客の姿がちらほらと見えるので、ネクラさんの名前を出すのは避けた方が良いだろう。


「はい、もしもし?」

「ハイネスさん、今どちらです?」

「ホテルに着きましたよ。でも、チェックインは15時かららしくて荷物を預けるだけになっちゃいました」

「そうですか……って、そんなことはどうでも良いんですよ。イベントの件、説明してもらって良いですか?」


 やっぱり、私とマイさんの合同で計画し、マイさんのファンクラブに入っていた頭脳派の人数人にも声をかけて一緒に計画を立てて来たんだけど、流石に打ち合わせまで隠し通す事は出来なかったらしい。


 やはりイベント会場を嘘だとしても伝えなかったのは失態だったか。

 ネクラさんは意外と抜けてるところがあるし気付かないと思ったんだけど、流石にここにきて気付いたらしい。


「ん~、どこから説明しましょう~?」


 クスクスと笑いつつ、ネクラさんがどこまで察しているのかを考える。


 単にイベントの案内を見ただけであれば私の計画にはさほど支障をきたす事は無い。幸いにも、キャリーケースの中には小型のクーラーボックスが入っているのでチョコが溶ける事も無いだろう。


 でも、バレンタイン=ファンの人からチョコを貰えるかも……という発想に至っているのなら、計画を変更する必要がある。


 もしも単にイベントの内容をしっかり読み込んでおらず、一番下の方に注意書きとして書いておいた“運営としての警告”である『チョコの持参は止めてくれ』という注意書きを見ていないのなら、まだ取り繕う事は出来る。

 大事なのは、ネクラさんの不意を突く事なのだから。


「色々聞きたい事はあるんですけど、どこまでハイネスさんが関わってるんですか?」

「ん~……一応、名探偵さんの推理を聞いても良いですか?」


 私から言う事によってネクラさんの知らない事まで知らないうちにベラベラと話してしまう恐れがある。


 当日出演してくれる人達も打ち合わせの段階でお披露目する事にしているし、ファンの人達にもその件については知らせていない。

 そこは当人達の強い希望なので、私から話すわけにはいかない。


 でも、一度嵌められたと自覚したネクラさんはこんな甘い手に引っ掛かってくれるような人ではない。

 私から自主的に話させることによって、自分が知る以上の情報を引き出せると分かっているので、私の提案は即座に却下してくる。


 こうなると、下手に会話を伸ばすとボロを出す可能性の方が高くなるので、さっさと必要最低限の情報だけを提示して様子を見る。


「マイさんと合同でイベントでやる内容を考えました。来てくださる方の規模から考えて、グッズそれ自体は午前中でほぼ売り切れになると踏んでいます。個数制限を設けたところで並び直す人までは対処できる可能性が低いですし、そこまで制限してしまうと不満が爆発する可能性までありますから。もちろん、マイさんにはそれなりの数を各種用意してもらっているので極端に足りなくなるという事はありません」

「……アーティストとか、バレンタイン特別イベントなる物はどう説明してくれるんでしょうか?」

「午前中に全てのグッズが売り切れてしまうと想定した時、残りの時間をただ終わりですとするよりも何かがあった方が良いと考えました。そこで、有名なアーティストさんに出演のオファーを出させていただきました。もちろんこの件は私とマイさんの独断ですので、お金はこちらで支払います」


 相手方からはむしろ出演させてくれと熱望されたのでお金はいらないと言われたのだが、流石にそれだと事務所が納得しなかったのでお金はちゃんと支払う事にした。


 今回のイベントに掛かる費用は人件費も含めてネクラさんが全て出してくれることになっているけれど、私達の独断で呼んでしまったので流石にこれまで払わせる気は無い。


 それに、バレンタイン特別イベントの方でも芸能人の方に出演してもらう予定なので、その出演料についても私達持ちだ。


 バカにならない額を事務所の方から提示されているし、危機管理や情報管理については私達だけでは無理なので専門家の人にも協力をお願いした。

 その分のお金でも、恐らく日本予選優勝賞金の分け前くらいは軽く吹き飛ぶだろう。


「ということです。大丈夫ですか?」

「だ……大丈夫ですけど……一番の問題は、僕がステージに立つみたいな事が書かれてることですよ。僕、午後はレジとかって話じゃありませんでした……?」

「いえ、先程も言ったようにグッズそれ自体は正午に入る直前くらいで売り切れると予想しているのでそれには及ばないです。むしろ、メイン役者がステージに立たずにファンの人達の前に姿を出さないと反感を買う恐れがあるのでそうさせてもらいました。お兄さんさんなら、来てくださった人達に自分の口からお礼を言いたいだろうなと思ったので、その場を設けさせていただいた次第です」


 これは、半分正解だ。


 実際のところ、この計画を一緒に考えたマイさん以外の人達から「協力する代わりにネクラさんをステージに出せ」という要望があったのだ。


 ネクラさんは私と毎日対戦していることから、私だけが中心になって進めてしまうとここまで隠し通せたかどうか分からなかった。

 それに、イベントを良くしたいという思いは本物だったので、それを止む無く承諾したのだ。


 無論、ネクラさん個人が自分の口からファンの人にお礼を言いたいだろうことは想定していたし、緊張する事はあってもその場のノリに合わせるのが上手な人なので、なんだかんだうまい具合に運んでくれるだろう。


 事前に何も知らせずドッキリのような形で急にコメントを求められれば話は別だが、事前にでもその話をしていれば、あの人の頭脳なら適応は可能だと判断した訳だ。


「……なるほど。なら、この計画に関わってる人の名前を教えてもらっても良いですか? ハイネスさんとマイさんだけじゃ、こんなことできませんよね? 少なくとも会場を抑えてくれた人の協力は必要不可欠だとして、当日を仕切ってくれる責任者の方も一枚嚙んでないとそもそも企画のGOサインが出ないはずです。他には、ハイネスさんと同等の頭脳を持った人が……少なくとも2人か3人は関わってると思うんですけど」

「へぇ? 参考までに、その、私と同程度の頭脳を持ってる人が関わってると思う根拠を教えてもらって良いですか?」


 自慢じゃないが、私ほどの頭脳を持つ人は日本にもそこまで多くないと自負している。

 勉強が出来るとかそういう話ではなく、ここまで正確にネクラさんの事を理解していて先を見通せる力を持っている人なんて、そう日本に何人もいないという意味だ。

 勉強を出来る人という括りで限定すれば、日本でも私以上に勉強が出来る人なんて絶対いるしね。


「明らかにハイネスさんの趣味じゃない……ハイネスさんらしくないイベントが複数組み込まれてます。ハイネスさんとマイさんだけじゃ、こんな案は出てきません。出てきたとしても、候補段階で弾くはずです。なら、なんらかのやむを得ない事情で通さざるを得なかった。そう考えた方が自然です」


 遠回しに「僕の事をあなたが分かってるように、僕もあなたの事は世界の誰より分かってる」と言われてるみたいで飛び上がるくらい嬉しいんだけど、絶対にそんなことは欠片も思っていないだろうから自重する。


 それに加え、わずかな情報しか手に入れていないはずなのにそれだけのことが分かるこの人はやっぱり異常だと言わざるを得ない。

 日本中で同じ状況に置かれた人が居たとして、ここまで完璧に見抜ける人はいないんじゃなかろうか。


「ちなみに私らしくないと判断したイベントはどれですか?」

「正直言うと、ステージイベント全てです。アーティストを呼ぶってよりは、ハイネスさんならファンの人達と僕を交流させるようなイベントを企画するはず。バレンタイン特別イベントも、僕を出演させるとなると、下手すると僕に精神的な負荷がかかる可能性があるので企画はしても通しはしないでしょう。僕をステージにあげる件も同様に却下されると思います。それに、多分ハイネスさんは僕とファンの方があまり……」


 その先は言わなかったけれど、多分タクシーの中なので言えなかっただけだろう。

 そして、今ネクラさんが言った事は全て綺麗に当たっている。私だって、何が悲しくて好きな人を大勢のファンの前に晒して見世物にしたいと思うのか。


 そりゃ、最低限のファンサは許すつもりだし、純粋に応援している立場から、してもらえたら嬉しいなというイベントを企画する事は出来た。


 それこそ、ネクラさんが言ったようなファンとの交流イベントなんてまさにそうだ。

 でも、今回は時間が無いという理由から却下されてしまい、実質ファンの人がネクラさん本人と触れ合えるのはあの人が自由に会場内を歩いている午前中と、ステージに上がっている間だけだ。


 それでも十分楽しんでは貰えるだろうけど、私としては納得がいってないというのも本音の部分ではある。

 まぁ、ネクラさんがそこまで私の事を理解してくれて、受け入れてくれてるのが分かったので全てチャラにしてあげても良いけどさ……?


「あ、着いたみたいです。話の続きはこの後に」

「分かりました」


 唐突に訪れた休憩時間の間に、私はさらに考える事を増やした。


 イベントの件が露見したことを協力者のグループで共有し、今後の計画の変更をどの程度に留めるかの判断を任せる。

 ネクラさんの対応は全て私に任せられているので、他のところのフォローは必然的に彼女達に任せる事になるのだ。


 後は、私がネクラさん相手にどこまで情報を隠せるのか……だね。うん、自信は無いけど、頑張ろう。

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