表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
296/322

第273話 指揮官の特色

 フランス予選決勝の第一試合が終わり、少しの間インターバルを挟むことになった。


 インターバルと言っても、勝った側のチームであるMAが早々に王城のマップを拒否したのでVictoria側のチームが戦うマップを決めれば今すぐにでも試合が始まるんだけど、恐らく前の試合の反省会なんかをしているのか、中々決まったという連絡は来ない。


 こういう時は実況解説、後はMCの人が会話をして場を繋げないといけないらしいんだけど、僕は話を振られるまでは基本的に話せないコミュ障なので、そこはネネさんに任せる。


 それに、この人も多分僕のことを分かってくれているだろうし、MCの人と同じで僕にいい感じで話題を振ってきてくれる……はずだ。


「は~い! 第一試合が終わってみていかがでした~?」

「……あ、僕ですか? え、えっと、そうですね……。構図が日本予選の決勝にかなり似てるなぁって手放しで感じましたね」

「日本予選の決勝ですか?」


 こう言っちゃなんだけど、Victoria側の指揮官は鉄壁の受けを誇っているような、決勝で戦ったソマリさんの下位互換のような指揮官だ。


 ソマリさんは圧倒的な状況判断能力と適応能力が武器だったけど、それに加えて元々の高いポテンシャルと僕の解説動画を経て知識面もしっかり身に着けている。

 いわば、相手の出方を伺ってから作戦を立てるタイプの指揮官としては100点に近い動きが出来る人だし、その動きを可能にする頭脳面のスペックも申し分ない。


 だけどVictoria側の指揮官は良くも悪くも王道。特別な事は何一つとしてせず、こうされるならこうするよというテンプレと言って良いのか、そんな行動しかとらない。


 もちろんテンプレの行動は、それがテンプレであるが故の強力さや安定感という物がある。

 しかしながら、当然細かな状況が違う可能性が随所に現れるような対人戦に置いて、そういう固定観念は命取りになりかねない。


 それに加え、MA側の指揮官は僕と同じ、未来を見通してあらかじめ対策を立てるタイプの指揮官だ。

 そういう人間にとって、相手指揮官の考え方の癖が分かっているというのは何よりの情報であり、それが王道を大事にするタイプだともなれば先手を読みやすくなる。


「ほほう? つまり……どういうことですか?」

「え、えぇと……Aという行動を取られたらBって行動を取るのがセオリーで一般的。そういう知識が両者共にある場合、子供側はAって行動を取ってるように見せかけ、相手がBの行動をしてきた時に上手い事かわせる様に別の、まったく新しい作戦であるCという行動を取ります。すると、Aに対する有効打でしかないBという相手の行動は空回りする……みたいな、その繰り返しをすることで、相手をかく乱する事が出来ます。あ、これって僕みたいな指揮官の場合ですよ?」


 もしも世間一般に、ここでいうCへの対処法も浸透しているのなら、僕やハイネスさんはCという行動に対するDという行動に対しても先手を打ち、それに有効なEという戦略を指示できる。


 それを頭の中で先々に考えられるので、ほとんどタイムラグなく時間を稼ぐ事が出来るし、相手を自分の想いのままに操る事が可能なのだ。


 僕みたいな指揮官が常に考えているのは、相手が『こっちがどんな行動を取ればどんな行動を返してくるのか』という、その一点だけだ。


 それをゲーム中永遠と続けているのでマップ上の動きにいち早く気付けるし、そこで自分の予想外の動きが出てきていれば相手の指揮官が何を考えてそんな行動をしているのかを読み解くのに初めて頭脳を使えるという利点がある。


 時々頭の中がこんがらがって訳が分からなくなるけれど、それは鍛え方と慣れで大抵何とかなる。

 ただこの考え方は、一度でも読みを外してしまうと一気に崩れかねないので注意が必要な部分でもある。


 たとえば……


「ある作戦の対処法が2つ以上ある場合……とかですかね。これっていわゆる読み合いって言われるんですけど、例えばネネさんならどうします? 自分のチームの子供が幽霊病院2階に全員揃っていて、鬼がどこにいるか分からない。でも、2階のフロアでは確認されていないとします。この場合、鬼側が取り得る行動はざっと2つです」

「えぇっと、1つ目はまず全員の子供が2階にいるんですし、2階に鬼を集結させる……。あ、でも逃げられる可能性もあるから、3つある階段に上手い感じに鬼を配置しますね! あとは……え、あと?」

「この場合、中央以外の2つの階段に鬼を配置して、一方が一方に追い込みをかけるのがセオリー……つまり、大会モードでは強いとされてます。その理由は、上手くいけば半数を挟み撃ちの形にして確実に捉える事が出来るからですね。もちろん中央の階段はガラ空きなので、そこを一か八かで全員に突破されると弱いんですが……」


 ちょうどフランス予選準決勝で似たような場面があったはずだ。


 あの時、Victoriaじゃない方のチームの指揮官が目指していたのはこの方法で、刺されば強かったよねと言ったのはこの為だ。

 そして、読み違えると大変な事になるいい例でもある。


 僕の場合はそういう読み合いをそもそも避けるために瞬間移動を持っている人を上下の階どちらかに移動させることを是としたんだけど、もちろん他の方法を取る人だっているだろう。


 相手の作戦を完璧に読み切るとか、相手の指揮官の考え方の癖が僕が試合前にやっているようなデータのまとめで完璧に分かっているならそもそも読み合いにすらならない。


「で、僕みたいに未来を予測する指揮官の場合、その先の展開まで既に読めているので、相手の鬼の指揮官が色々考えている間に、相手が次に取るだろう行動を先読みして、それに対抗出来る作戦を授けるって感じですね。何手も何手も先を読む、みたいな感じなのでめっちゃ頭使いますけど、MA側の指揮官も多分そんな感じの人なんじゃないかな。戦い方を見てる限りだと、多分そうです」

「異次元の戦いをされてるって事しか分かりませんね~。あ、ほら! コメントの皆さんも『ネクラの真髄を見た気がする』とか言って引いてるじゃないですか!」

「ひ、引かれてるんですか……」


 僕としては自分の中の常識を話しただけに過ぎないんだけどなぁ。ちょっと……いや、かなりショックだね。


 まるでクリスマスプレゼントでもらったものが、サンタさんにお願いした物とは若干ズレてて喜んで良いのか悲しんで良いのか分からないってくらいにはショックだ。


「その、絶妙に分かる気がするたとえなんですか~! あ、そう言えば皆さんって何歳頃までサンタさん信じてました? 私はねぇ――」

「あ、あのぉ……もう試合始まるみたいです……」


 世の子供達が聞いていれば衝撃を受けかねない話をしようとしていたネネさんを止めたのは、それまで必死に僕の話を理解しようと頭を悩ませていたMCの人だった。


 Victoria側もようやくマップを選択したらしく、2戦目の試合はテレビ局での試合になるらしい。


「お、ネクラさん出番ですよ! 問題出てきたら誰よりも早く解いてくださいね!」

「む、無茶振り辞めてください……」


 と、そうは言った物の実際に試合が始まるとフランス語を日本語に変換しながらその答えの解説をやるという、本当に意味の分からない事をさせられた。


 ここまで僕の性能をひけらかすのはあんまりよくないんだけど、ハイネスさんからの指令ではそのままで問題ないという旨が届いているので、セーブするなって事なんだろうな……。

 どうしましょうね、この仕事ほんとに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ