第270話 将来の予測
視聴者の人が僕に聞きたかったのは、結局脱出マップに関する総評だった。
僕個人的にはどう映ったのか、それを聞きたくて仕方がないらしい。世間的な評価は散々だったけど、僕はそこまで……みたいな評価をしてたしね。
「多分世界大会が始まる前に大規模な調整が入るんじゃないですかね。チームの人達が経験したマップはともかくとして、僕が経験したことのあるマップは屋敷とテレビ局だけだったのでその2つに対してしか意見できませんけど……」
そう、僕個人が経験したマップはその2つだけだ。
結局無人島はハイネスさん達鬼側しか経験していないし、監獄に関しては海外のプレイヤーから仕入れた情報しかない。王城に至っては情報ゼロだ。
しかしながら、経験済みのその2つのマップだけで言っても無数に改善点があるのは目に見えている。
それに、多分ほぼ確実に世界大会が始まるまでには大会のルールも含めて調整が入るだろう。
脱出マップが継続されるのか、それとも完全に廃止されるのかは運営の人の判断次第だ。
「屋敷に関してですけど、多分ほとんどの方が謎解き解けないんじゃないですかね。僕も決勝戦じゃ解けませんでしたし、あのレベルの難易度が普通に出てくるなら多分8割以上の人が解けずに終わると思います。なので、謎解きの緩和は必須じゃないかなぁって」
そう言うと、コメント欄でも賛同の声がチラホラと上がって来た。
僕はあまり可も無く不可もなく……というか、むしろ余裕で謎解きをクリアしていた節があるので難易度緩和に疑問を抱いている人もいるみたいだけど、これは偽らざる本音だ。
仮にあのレベルの謎解きがランクマッチ等の試練で実装されるなら、十中八九その難易度は10だろうし、たった30分の間に答えを見つけ出せるかと言われると難しいだろう。
それに、元々多くの人が想像していた謎解きというのは、今回のような探偵が殺人事件の真相を解き明かすような物ではなく、どうすればここから脱出できるのか頭を悩ませるタイプの謎解きだったのではないだろうか。
具体的に言えば、Aのボタンを押すと1枚の扉が開くけど別の場所の扉がロックされ、その扉を開くためには別のBのボタンを押さなければならない……。でもそうすると別の場所の扉が……みたいな、頭の中で正解を考えつつ、リアル脱出ゲームでもするみたいな謎解きを想像していたのではなかろうか。
ちょうど、ホラーゲームか何かで廃屋に放り込まれたプレイヤーが、様々な体験をしつつもその廃屋から脱出するために必要な何かを探す……的な、そんなのを期待していたと、僕は勝手に思っている。
「その観点から考えるなら、さっき説明したような案が採用されたマップがランクマッチで実装されても、協力やプレイヤー1人の力だけでもまだなんとかなると思います。でも、今のような形でランクマッチに実装されると、協力は大前提。それに加えて超難しい謎解きを出来るだけの頭脳と鬼から逃げる能力。その両方が必要になります。せめてどっちかに焦点を当ててもらわないとゲームバランスとしておかしいかなと思いますね……」
ここで重要なのは、謎を解いたらそこで終了ではなく、謎を解いた先に脱出するためのもうワンステップが必要な点だ。
そのワンステップが1人でも出来るような物なら僕も別に文句はないけれど、プレイヤー間での協力が必須な時点で“一般的には”子供が不利すぎるという結論に至る。
僕個人としてはゲームの難易度としてちょうど良いと思いつつも、これは僕の為のゲームではなく、皆が楽しめるゲームであるべきだ。
その観点から考えるに、この難易度は少々やりすぎだ。
謎解きが不得意な人は、恐らく貴族の屋敷で出てくる謎解きの問題の意味すら分からないだろう。
「それにテレビ局ですね。あれは、テレビ局の人に成りすます事があのマップで戦う事の大前提です。最悪クイズ形式の問題設置は良いとして、鬼側に貸された連絡先を交換しないといけない部分は不公平です。なら子供の方にも同じペナルティを与えてあげないと、いくらなんでも鬼が不利です」
そう。テレビ局の問題はそこに尽きる。
なんで鬼側は連絡を取るのに合流する必要があるのに、子供は合流の必要が無いのか。
仮に合流する必要があるなら、少なくとも決勝のように楽なゲームにはならなかっただろう。
もっと言うならテレビ局の人に擬態できるようにする必要は無いと思うし、位置情報を教えているという観点から考えてみても、連絡先のペナルティを与えるだけでかなり子供は苦しくなるはずだ。
「それに、テレビ局の人に化けるって方法がお互い取れないんだったら少なくともかなり拮抗した戦いになると思うんですよね……。ほら、位置情報の件もあるので子供が一概に有利って事にはならないでしょうし、お互いの連絡でかなり時間取られるでしょうから」
こういう場面では、否定の言葉だけを口にして改善案等を離さない人もいるだろう。
ただ、批判したいだけで、具体的な改善案も無いのにそれを口にするのは開発者の人達にとっても失礼だ。
なので、僕は具体的な改善案とかが無い限りはこういう不満な点は滅多に口にしないし、口にしたとしても必要最低限に留める。
今回は明確にこうしたらもっと良くなるんじゃないかなっていう改善案があるので、割かし好きに喋ってるけども……。
「あ、でもルールを配った段階からプレイヤーを試すって案は良いと思いますし、面白いと思いますよ! ルールだけを見ているだけだと見逃してしまう勝ち筋を用意してくれてるってだけでもかなりありがたいですし、戦略の幅も広がるので! ただ、どうしても初見殺し的な要素が強いので、いつまでも通用するものでは無いと思いますが……」
貴族の屋敷なんかでは、別の脱出口があるかもしれないという大前提が思い浮かばなければ、最初に戦ったプロチームのように脱出口の前で立ちふさがっているだけで良い。
それに、話を聞く限りだとその手の行為を防止する為に無人島では別のルールも設けられていたらしい。
でも、それらは一度戦って情報が出回ってくればプレイヤー間でも共有される。
そうすると、ルールに書いていない事もあまり意味をなさなくなってくるので、もう少し別の方法を模索しないといけないだろう。
たとえば、ルールには書いてない要素を複数用意しておいて、そのうちの何個かだけをランダムな組み合わせで試合ごとに実装する……みたいな感じで。
「っと、僕の脱出マップに関する意見はこんな感じですかね……。随分ダラダラ話しちゃったので、皆さん明日もお仕事や学校もあるでしょうしここら辺で終わりにしときましょう。遅くまでご覧いただいてありがとうございました」
もう、時間を確認すれば夜中の12時を少し回っている所だった。
最近変更したエンディングの映像には、日曜日に行われる販売イベントの告知なんかを織り交ぜているので、ここで話す必要は無いだろう。
もはや恒例となりつつある投げ銭機能の廃止について不満の声も上がってるけど、そんなの知らないね。
まだ2回しかもらってないのに、既に世界でもトップクラスに投げ銭を貰っている事になっている僕の恐怖が分かる人はいるだろうか。
「では、おやすみなさいー」
そう言って配信を切った僕は、カメラが切れたことを確認して、ちゃんとマイクも切れていることを確認すると、はぁと大きなため息を吐いた。
初めて2時間の配信をしたけど、これほど疲れるとは……。もう二度とこんな長時間の配信なんてしたくない。




