第26話 敗因
晴也は幽霊となって鬼側の試合を観戦し初めて数分後には、こちらが負ける事はないと安心していた。
1時間も経たずにこちらが敗北したと報告が入った時、流石に動揺していたようだったけれど、いつも通りマイさんを中心に子供を捕まえているので安心したのだ。
となれば、今考えるべきは先ほど自分たちの方で何が起こっていたかだ。
それを解かない限り、自分達は負け続ける事になる可能性がある。
ハイネスは、自分の事をネクラ以下だと言っていた。つまり、ネクラであれば考えつくようなことしか、自分は考えられないと暗に言っていたのだ。
晴也はその場に座り込み、先ほどの試合について考えを巡らせる。
こういう時は、誰かに相談することなく、1人で考えた方が集中出来る。
思い返してみれば確かに、状況が分からず混乱すれば、焦って状況を解明しようとする事は明らかだ。
そして、状況を解明するには、何がどう襲ってくるのか、ネクラ本人が無敵を使って検証するしかない。
森の中では敵の姿が見えない可能性もあるため、見通しの良い海岸へ。
それくらい、少し考えれば分かる事だ。
(あの時は焦っていたから分からなかったが、あの女王がベラベラ喋ってくれたおかげだな……)
あの女王が情報を出さずともいずれ答えには辿り着いていただろうけれど、時間が大幅に短縮されたと考えると、かなりありがたい。
こういう時は、消去法で考えていく方が合理的だ。
まず、ハイネスさんに指示されてあの場で待っていたという女王は今回の敗因とは関係ない。
狙撃手も、既に無敵を消費しているので、撃てば必ず銃声が聞こえる。敵の姿が見えないと仮定するなら、銃声が聞こえる狙撃手も除外して考えるべきだ。
なら、必然的に残ったのは弱いとされている使途と魔女だ。
(落ち着け……。こっちの試合が終わるまでに対策を考えないといけない。時間が無いのは分かるが、そういう時こそ落ち着かないといけないのは、お前が1番分かっているだろ……)
そう自分に言い聞かせ、焦る気持ちを必死で押し留める。
冷静に考えなければならない場面で、焦りは禁物だ。
焦る事で通常の思考が出来なくなり、謎が解けた気になっていても実は違っていましたじゃ話にならない。
使途と魔女が今回の騒動の原因ならば、この2人が出来る事を双方がやったという事だ。
なら、まずは2人のキャラがどんな事が出来て、どんなことが出来ないのか、改めて考える必要がある。
使途は蝙蝠の使い魔を出せる。
その使い魔は自動操縦で、鬼本人の意思とは関係なく子供を捕まえに行く。
欠点は、蝙蝠が近づいて来たとしても子供は視認できるし羽ばたく音が異常に大きいのですぐに気付かれる。
さらに、蝙蝠の飛ぶ速度は通常の鬼より遅いので、容易に逃げることが出来る点だ。
続いて魔女は、3匹の猫を同時に操ることが出来るが、所詮は猫なので索敵能力に不安があり、特殊能力なども持っていないため子供を捕まえる事は困難……。
猫の色までは覚えていないけれど、魔女=黒猫のイメージがあるので、とりあえずそれで仮定する。
確かに森の中で黒猫を視認するのは難しいので、マチルダが捕まったのはこの猫と考えた方が良いだろう。
(考えろ。自分なら、この2人をどう組み合わせて使うか……)
どちらも鬼にしては子供を捕まえる事に関して苦手だ。
特に使途は、単体で子供を捕まえることなどほぼ不可能だろう。
それが、最弱の鬼と言われている所以なのだから。
しかし、この場合そんな固定観念は謎を解く邪魔にしかならない。
今回は、その性能のみを見るべきだ。
まだ使途についてなにか、魔女についてなにか、見落としている部分は無いか。
索敵能力に長けている使途は機動力が無く、素早く逃げ回る子供を追う事は困難。
反対に、猫という機動力と素早さはあるキャラを使える魔女は、索敵能力が無い。
両極端な2人だからこそ、ハイネスは利用しているんだろう。
恐らくこの2人を組ませているのは、女王と探偵がペアを組むことが多いのと同じ理由だ。
足は速いが攻撃が重い女王と、足は遅いが攻撃が軽い探偵。お互いの弱点をカバーしあえるような、そんな関係だとすれば……。
(待てよ? もし仮に、使途の蝙蝠が好きなタイミングで解除出来るようなものだとしたら……?)
使途の蝙蝠は、召喚したタイミングで1番近い子供に向けて飛んでいく習性を持っていたはずだ。
しかし、羽ばたく音があまりにうるさいため、子供自身がそれを察知して逃げることが出来る。その点が使途の弱いところだ。
なら、蝙蝠が近くの子供の位置を割り出した瞬間に解除すれば?
そんなことが出来るのか、鬼側でプレイしたことが無い晴也は分からないけれど、もし出来るとしたらこの謎は解ける。
つまり、使途が蝙蝠を出して近くの子供の位置を把握する。
その位置を魔女に伝え、猫に向かわせる。
猫は同時に3匹操ることが出来るため、2人が一瞬で捕まった事にも説明が付く。
そして、森の中であればその姿が見えなくとも不思議ではないだろう。
しかし、これはあくまで可能性の1つで、仮にそうだったとしても回避する方法が無い。
(仮に種が割れても、海岸には狙撃手や女王を配置すれば、無人島という狭いステージなら対処可能ってことか。これがもし当たっているなら、無人島というステージを引いた時点で負けが確定するってことか……)
いや、無人島だけではないだろう。
比較的ステージが狭いマップであれば、狙撃手と女王の配置を工夫すればなんとでもなる。
もし考えている通りの真相ならば、魔女と使途を使う人間は恐ろしく神経を使い、大会モードのみではあるだろうが無双出来るはずだ。
練習会でこのカードを見せなかったのは、こちらに当たった時、初戦だけでも勝とうと思っての事か。
実際、答えが合っているのかは確かめようがないし、初見で対応出来る人など恐らくいないだろう。
しかもこれの恐ろしいところは、例え種が分かったとしても対処のしようが無いところだ。
近くの子供を自動的に追いに行く蝙蝠と、それを聞いて確保に向かう猫。どうすれば対応出来ると言うのか。
(所見殺しでありながら、対処不可能な策ね……。理不尽すぎますよ……)
思わず虚空へと愚痴を吐いてしまうほど、この策は見事なものだ。
ただし、これには致命的な弱点がある事も、晴也にはもちろんお見通しなのだ。
そうと決まれば、早速幽霊になっているチームメイトを全員集めての作戦会議だ。
「まだ推測の域を出ませんが、先ほど負けた原因が分かりました」
「本当ですか!? 流石ネクラさんです!」
数分後、無人島の北の浜辺に集まった20人は、晴也を囲むように座り込んでいた。
そして、晴也が己の推測を淡々と話すのを、ただ黙って聞いていた。
「え……? いや、そんなの、どう対処しろと?」
「ネ、ネクラさんなら、対処可能なんですか?」
晴也が話し終えると、予想通り動揺がチーム内に広がり、声を震わせた何人がその推測に辿りついた本人へと救いを求める。
それに答えるように晴也が力強く頷くと「おお~」と期待の声が広がる。
「ど、どんな風に対処したら良いのか教えてください!」
「……対処法というか、この案の致命的な弱点をお話しします。ですが、これはあくまで私の推測で、本当に合っているかは分かりませんよ? その点を踏まえて、話を聞いてください」
マチルダの期待に溢れたまなざしを受けた晴也は、少しだけビクッとしながらも、ハイネスの理不尽すぎる策の弱点について話す。
それを聞いていた面々の反応は様々だったけれど、ほとんどが感心したような顔をしていた。
その感心が晴也に向けられているものなのか、この策を考えたハイネスに向けられているのかは、晴也本人にも分からない。
「なるほど。確かにネクラさんの言う通りであれば対抗出来るかもしれません。ただ、それをするとなると懸念がありませんか……?」
「トウモコロシさん……。はい。私の対抗策にはいくつか懸念点があります。まず、これが本当に正しいのかどうか。そして、鬼側の皆さんが耐えられるかどうか……です」
「この際、間違っていると考えるのは話が進みませんので止しましょう。1番の懸念点は、ネクラさんが仰るように、相手の体力とこちらの体力、どちらが先に尽きるかです」
ハイネスの策が抱えている唯一の弱点。それは、魔女を使う鬼の精神的な限界だ。
3匹の猫を同時に操作して子供を捕まえる。これは神経をかなり使う行為で、そう長時間出来るものではない。
索敵をほとんど行わなくて良いとしても、それ相応の神経は使う事になる。
晴也の対処法とは、相手の限界が来るまで対処法が分からず混乱するふりをして負け続け、相手がこの作戦をとれなくなった時勝つというものだった。
しかしこれは、こちらの鬼が勝ち続けてくれなければ成立しない。そこが1番の懸念点だ。
「ライが相手ですからね……。マイさんがいくら強くても、ずっと勝ち続けられるかといわれると微妙でしょうね」
「マチルダさんの言う通りです。ですが、頑張ってもらうしかありません。私の予想ですが、この理不尽な策を使えるのは多くて後2回程でしょうし、この次の試合はあのペアは来ないかと思っています。そこで勝ってしまえば、後は鬼の皆さんが頑張ってくれるのを祈るだけです」
「……そう思う理由を聞いても良いでしょうか?」
怪訝そうな顔で聞いて来たマチルダに、晴也は出来るだけ丁寧に、それでいて素早く説明する。
「初日の日程では、よほどの遅延が無い限り3試合行われます。つまり、私達に勝ったとしても残り2試合、少なくとも1試合はあります。この策は体力と精神力を大きく消費するはずです。その状態で次の試合に行くのでは、どうしても勝率が下がってしまいます。その事を考えれば、無理をしてあの作戦を続けては来ないでしょう。多分ですが――」
「こちらが混乱している間に1度休憩がてら普通のキャラを使い、勝てればそれで良し。負けたとしても、子供側が勝ってくれれば問題はないというわけですか」
「そういう事です。流石ですねトウモコロシさん」
その説明を終えたところで、1時間24分が経過し、ライのチームの子供が1人を残して確保された。
「引き分けとなりましたので、第2試合が行われます」
空から女の人のそんな声が聞こえ、晴也達はまた待機画面へと移動した。
2本先取なのは準決勝と決勝だけなので、1回勝てばこの試合は終わる。
ハイネスさんが今後の試合の事まで考えているかは分からないが、そこは相手を信じよう。
そう決意を新たに、晴也は第2試合に挑む。
投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>
やる気が、出ます( *´ `*)




