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第257話 崖っぷち

 ネクラさん攻略同盟の鬼側指揮官を務めているソマリは、今まさに女子高生のコスプレを楽しんで……いや、それは現実逃避だ。

 今現在の状況はもう絶望的とも言っていいほどで、3回戦に何もさせて貰えず負けてから、その理由を色々考えたのに何も分からないままこの第4試合が始まってしまったのだ。


 このマップを選んだのは、ネクラが準決勝で敗北を期していたからという単純な理由からなのだが、自分達もこのマップでは勝てる可能性が高いと踏んでいた。なにせ、このマップの謎解きは他のそれと違って比較的簡単だし、テレビ局のスタッフに変装すればそうそう捕まる事は無いからだ。


(でも、このままじゃ私達が早々に負けちゃう……!)


 そう。この脱出マップは仮に引き分けた場合は時間勝負で決着が着く。

 つまるところ、先に子供が脱出した方が勝利か、先に子供を全員捕まえた方が勝ちという、試合時間が短い方の勝利になるのだ。


 それを考えるのであれば、最悪の場合を考えたとしても出来る限り試合時間を引き延ばさなければならないのだが……。


(子供が全然見つからない……。位置情報だと目の前に居たとしても不思議じゃないのに、ここらでブンブン攻撃振って、もし違った場合すぐ逃げられる……!)


 ソマリを始めとして、上の階に索敵に来ている2人の鬼は、位置情報を元に子供の確保に動いていたのだが、それでも全然確保が出来ていなかったのだ。


 ゲーム開始15分時点で既に6階付近まで解放されている現状では位置情報が分かるプレイヤーは限られるが、それでもあまりに捕まえられていない。


 もちろん相手もこのマップの大前提は分かっているので、テレビ局のスタッフに化けている事は想像に難くない。

 しかしながら、それでも位置情報さえ分かっていればなんとか捕まえる事は可能だろうと思っていた彼女は、今まさにその考えが甘すぎた事に打ちのめされていた。


(どうしようどうしようどうしよう! 今私達が持ち込んでるのは機動力を高めるための瞬間移動と加速と意表を突くための貫通……。この手札を使って、どうやってこの状況を打開する……!?)


 この各箇所解放スペースは、十中八九ネクラさんが各所で指示なり謎解きの手伝いをしているからだ。


 なら、ゲーム開始直後から一切動いていないあの人を確保しに行き、瞬間移動で3階まで戻ってから作戦を立て直す? いや、そんなことをしても、あの人が無敵なんかの能力を持っていれば何も変わらないし、そもそもそんな簡単に捕まってくれるとは思えない。


 それに、そもそも子供が見つからなくて迷っているのに、隠れるのも逃げるのも上手いあの人を他の人より見つけやすいと思う方が傲慢だ。まず見つからないと思った方が良いだろう。

 なら、この作戦はダメだ。


(相手がこの状況を作り出せているのは、ネクラさんという圧倒的に謎解きが得意な人がいるから……。でも、あの人が動かないのは前の戦いで頭を使いすぎたことによる弊害だとすれば……事細かい指示は出してないよね)


 ネクラさんが、たった1戦頭を使いすぎたという理由だけで休まないといけない程疲弊するとは思えないが、今はその前提で話を進める。


 そうすると、あの人が取れる行動は限られてくる。

 他の人に指揮を任せるか、事前にある程度作戦を決めておいて各々の判断で好きに動いてもらっている。


(どっち……? いや、考えるまでもないね。後者だ)


 こんな、日本予選の決勝戦という舞台で、ただでさえ負けたら後がなくなる……みたいな大一番で、あの人が他の誰かにそんな重荷を背負わせるほど残酷な人ではない事を、私はよく知っている。

 もしも負けるようなことがあれば、代役を任されたその人が責任を感じてしまうだろうから、そんなことをするくらいなら無理をしてでも指揮をするはずだ。


 なら、ネクラさんが今やっている事は、事前に決めた策を実践し、細かい所は各々の判断に任せている……くらいの、必要最低限の事だ。

 そして、言い換えればそれは、このマップではその必要最低限の事さえしていれば勝てるという事に他ならない。


(それはなに……? 私達が全く子供を見分けられないとするなら、それは相手も同じはず。このマップじゃ軽くその人に触れただけでも攻撃判定になるから、ネクラさんがそれを知らないと仮定するならこっちの鬼の位置がバレてるとしか思えない……)


 そう。実はこのマップでは、ルールに書いていない特殊ルールとして『軽くタッチするだけでも攻撃判定になり確保したことになる』という物がある。

 一度このマップで鬼をやっていて、偶然にもその発見をした私達だからこそ共有している事実だけど、ネクラさんがこの特殊ルールに気付いていないのなら……。


 この状況は恐らくだけど、私達鬼の姿が、子供側に筒抜けであり、その傍をわざと避けていると仮定すれば説明がつく。

 そして、そんなことを出来る方法は1つしかない。


(こりゃ、ダメだ……。索敵を持ち込んでる人がいない以上、私達が無暗に索敵しても勝てないや)


 少し考えれば分かったはずだ。

 ネクラさんが、一度負けたマップの事について考えていないはずがない。

 2回連続で王城を拒否してきたのは、恐らくこの大会を通してあのマップで戦った経験が無いからだろう。


 私は、3回戦の敗北の理由を考えるのに精いっぱいでそこら辺の事を考えるのを疎かにし、少し考えれば分かる事実を見逃してしまった。

 なら、このマップで次にやらないとダメな事は……変装を変える事だろう。


(うん、こっちの姿がバレてるなら変装を解除して、2階の階段とかエレベーターの前で待ってるしかない。そこを突破されたらもうどんまいってことで諦めるしかないか……。ネクラさんの事だし、どうせ全員を索敵にするみたいなことしてるだろうからね……)


 というより、索敵を子供側で設定するならそれくらい徹底しないと意味が無い。

 あの人はそういう中途半端な事は絶対にしないので、この場では3階に待機している1人以外は全員一度その場に戻って変装を大幅に変えなければならない。


「あ~もう! せっかくネクラさんに良いところ見せられると思ったのに!」


 思わずそう叫んでしまい、慌てて周りを見回す。

 プログラムか相手の子供か分からないけれど、一斉に視線を向けられて気まずい思いをしつつ、携帯を操作して3階へと戻る。


「ネクラさんの隣は、そう簡単に渡さないからね」


 瞬間移動する直前、さっきまで目の前にいたアイドル風の格好をしたメガネ姿の女の子がそう言った気がしたけれど、能力を解除する事は出来ず――


「あれ、帰って来たんですか? 早かったですね」

「……」


 ゲーム開始19分時点でまだ1人も捕まえられていない事実を噛み締めつつ、妙に色っぽい声でそう言ったあのアイドル風の女に対し、私はその場で罵詈雑言を吐いた。


「うっさいわ! ネクラさんの隣なんて激戦区、そう簡単に取れると思ってないんじゃ! あんたにだけはぜぇぇぇぇったい渡さん!」


 数秒後、目の前でドン引きしているチームメイトに必死で謝ったのは言うまでもない。

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