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第253話 反撃の狼煙

 相手がやってきている行為がいつもの行動と逆である。その前提で考えるのであれば、こちらがするべきことは簡単だ。つまるところ、相手のいつもの考えという物を全く考慮しない動きをすれば良いだけだ。

 そして、幸いにも相手の鬼の内4人の行動指針……というか、どうやって行動すれば良いのかを決めている基準という物を、僕は既に知っている。


 相手の鬼の内2人が行動の指針にしているのは、紛れもなく僕の解説動画だろう。

 そのおかげで腕前が急激に上がったというのはそうだろうが、それだけじゃない証拠に、さっきの試合ではこちらの面々が何もさせてもらえずに確保された。それは、相手がマイさんとまったく逆のタイプであるという証明に過ぎない。


 マイさんは、僕と会うまでは“索敵は出来るけど捕まえる能力がない”タイプのプレイヤーだった。

 対して今僕が相手している鬼は、恐らく“捕まえる能力はあったけど、索敵の能力が無かった”タイプのプレイヤーだろう。


 僕の解説動画ではどちらのタイプでも一定の成果は上げられるように動画の構成を考えていたので、今回の相手は後者のタイプだと仮定して話を進める。


 そうすると、相手は超一級の確保能力はあるけれど、索敵能力それ自体は一般のプレイヤーのそれと同じか、僕の解説動画を経て上位プレイヤーでも下位……もしくはプロ並みの物を手に入れた。そう仮定するべきだろう。


(そして、その索敵方法を見破られたから1戦目は何もさせてもらえなかったけど、2戦目ではその裏をかいて来た……。つまり、今回も初めはその戦い方で来るはず……)


 幸いと言って良いのか、このマップは日本予選が始まってから公開された新マップなので、僕の解説動画では触れていない。

 しかしながら、索敵に必要な能力や、探すポイントなんかは教えているので、普段であればこの新マップでもそれを中心に探すはずだ。あくまで“普段なら”という一文は付くが。


「最初の試練が出るまでは、各々これがランクマッチだという想定で動いてください。出来れば僕の解説動画で触れたような感じで隠れていただけると助かります。ですが、絶対ではないので自分の感覚で大丈夫です」


 初めの30分はこう指示を出しておくことで、そもそも鬼に追われる人の数を減らす事が出来るだろう。ただでさえ鬼に捕まりにくいマップなので、こうしておけば捕まる人数はかなり減るはずだ。


 そして、相手は初戦の事もあるので最初の試練が出たタイミングくらい……もしくはその少し前にはこちらがやっている作戦に当たりを付けてくる。

 そうなれば、この試合を落とすなんてことはしてこないはずなので連携を取らないという前提を崩して仲間と連絡を取るだろう。


(次に相手がする行動は……恐らく、いつも通りのプレイに戻してこちらの反応を待つってところかな?)


 これが、僕やハイネスさんになると相手がそこまでやってくると読んでもう1手先の事を考えるのだが、今回の相手に関してはそこまで考える必要はない。

 なにせ、相手は僕やハイネスさんみたいな“異常な”指揮官ではなく、普通の指揮官なのだ。普通の指揮官は、こっちがやる選択に対してそれを打ち破るための作戦を瞬時に考えるだけで、その先を読んで来ようとするわけではない。


 というよりも、変に対応が早いソマリさんを相手にする時は、何手も何手も先を読んだうえで行動すると、それが結果的に墓穴を掘る結果になりかねない。

 少なくとも、相手がこちらの手を読んでくるだろうな……みたいな、ハイネスさんを相手にする時の前提は覆さなければいけないだろう。


「相手がその行動を取ってくれば、多分確保ペースが一時的に早くなるはず……。そのタイミングを待つ……? いや、僕ならそのタイミングすら完璧に予測できるはず……」


 この手の指揮官に対して僕みたいなタイプの指揮官が有利なのは、この先起こる展開をあらかじめ先読みし、選択肢を広げる時間が普通の指揮官の何倍も取れる事にある。


 なら、相手が行動を起こしてくるその時すら完璧に読むことが出来れば、今度は相手に何もさせずに勝つことが可能だろう。

 そして、確実な勝利を手にするためには、そこまでの事をしなければならない。


「事前の調べから考えて、ソマリさんの思考をそのままトレースしたとして……異常に気付くのに早くて10分……? いや、僕の予想なら、この状態が5分も続けば気付く……。でも、しばらくは自分の勘違いだと後ろ向きに考えて放置する……。そこで、頼りになる人……例えばくりーむさん辺りに指摘されてようやく作戦の方針を考え直す……」


 僕の事前の調べでは、ソマリさんは僕と同じように自分の考えに自信が持てないタイプの人だ。なら、多少違和感があっても自分が先走って考えているだけ……もしくはただの勘違いだと思って見逃す可能性が非常に高い。

 そして、自分より信用できる相手からその事を指摘され、初めて自分の考えが正しかったと悟る……。ソマリさんは、多分そういうタイプだ。


 さらに言えば、1戦目で僕の解説動画通りに残りの2人が動いていることを気付いているという点から、2人の事をあまり重要視していない可能性が高い。

 いや、重要視していないというよりも、まだまだ育ち盛りの子供……みたいに考えているはずで、解説動画を出す以前からランキングに乗る事もあったくりーむさんの意見をより重要視しているはずだ。


 くりーむさんほどのプレイヤーなら、この異常に気付くのは、1戦目のような囮部隊がいない今回の場合だと早くて7分……序盤の索敵時間も加味すれば10分ってところだろう。

 ただ、人は違和感を多少覚えたくらいではすぐに誰かに頼ろうとはしない。ソマリさんじゃなくとも、自分の勘違いかもしれないという思考が働いて、しばらくは自分だけの力でその問題を解決しようと足掻くはずだ。


 そして、上位プレイヤーになればその違和感の正体を1人で考えるより誰かに頼る方が早く解決できるかもしれないと知っている。なので、どうしてもという場合は迷わず誰かに頼る。


 その速さが早ければ早いほど強いと言われるのだが、本当にただの勘違いという可能性だってもちろんあるので、くりーむさんがどれだけの時間1人で考えるのか。今回の場合、真に考えなければならないのはそこだ。


(……序盤14分は少なくとも問題ないね。なら、作戦を考えて仲間に通達する……17分頃までは多分大丈夫だな。……いや、ソマリさんなら作戦を考えた時点ですぐに伝えるか。そこで迷ってるほど、あの人は無能じゃないもんな。15分って考えた方が良いね)


 ソマリさんのスペックは僕やハイネスさんに迫る物。僕がそう思ったのは、あの人の異常とも言える反応速度の速さだ。


 多分、違和感に気付くのだって人一倍早いけど、違和感が違和感のままである時は自分の性格が邪魔して完全な力を発揮できないはずだ。

 でも、それは違和感が“異常”というものに変われば、そこからは僕らとほぼ同じ速度で作戦を立てられる。


 なので、そう考えるなら作戦を立てる速度とそれを実行に移すまでの時間は僕やハイネスさんの基準で考えて良い。

 そして、総括して15分は絶対に安全で、それを超えると確保ペースがおかしくなり始める。

 つまり、作戦を変更するならそのタイミングだ。


「ミルクさんとミラルさん、両名は鬼の動向が良く見える位置まで移動して、逐一僕に報告してください。特にゲーム開始13分から15分の間はくどいほど報告してください」


 そうと分かれば、索敵班の設定にしてもらっている2人を見晴らしの良い位置に配置して相手の出方を伺えば良いだけだ。


 何事にも保険という物は必要なので、次に取るべき作戦を考えながら相手の出方を伺う。こうする事で、予想以上に相手の動きが早かったり遅かった場合でも柔軟に対応する事が出来る。


『ネクラさん、こっちから確認できる2人がどこかに電話をかけているみたいです。内容は、こちらの子供がまったく見えないという内容です』

『ミラルちゃんと同じで、こっちも2人の鬼が電話しているとこを確認しました。多分、話してる内容的に指揮官の子じゃないかなって気がします』


 2人からそんなチャットが届いたのは、ピッタリ僕の予想通り、ゲーム開始14分の地点だった。

 ここからが、僕らの反撃の時間だ。

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