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幕間 盲点

 決勝戦第一試合を終えた『ネクラさん攻略同盟』の面々――特にソマリとクロキツネは、まさしくお通夜のような暗くよどんだ空気を控室内に充満させていた。


 自分達の作戦をここまで綺麗に読まれ、対抗され、しかも何もさせてもらえずに敗北を期した。その事が、彼女達の勝てるかもしれないという自信を木っ端微塵に破壊したのだ。


「……どうしましょう」

「……どうしましょうね」


 ソマリは、隣で青い顔をしている黒い狐の面を被った女に向けてそう言った。

 無論、彼女が考えた作戦が破られた事は少し考えれば納得がいく。答えは1つだ。


(ネクラさんは、この答えにあらかじめ辿り着いていて、その対策もすでに済ませ、自分達で新たにこの設定を書き換えていたからこそ、私達に何もさせなかった……)


 その証拠に、私達がこの第一試合で捕まえた人数は一桁だったけれど、その実は8人ほど無敵を発動させて、さらにそのうちの何人かを再び捕まえる事に成功したから片手で数える程度ではあっても確保する事が出来たのだ。


 だけど、それはそれとして、捕まえた人達の設定を考えれば、私達がハイネスさん達と同じ設定を使ったとしてもここまで綺麗に勝てたかと言われると、その答えは否となるだろうことはすぐに分かった。


 ネクラさん達が行っていたのは、全員が逃げる設定にした上で無敵を所持させるという物で、あくまで見つかる時間を最低限でも稼ぐために身を隠していただけに過ぎない。

 反対に、私達がやっていたのは全員が隠れる設定にした後に無敵を設定するというかなり単純な物だ。


 これは、あらかじめ来ると分かっていれば鬼の全員が索敵を設定し、索敵班のような聴覚と視力に全振りしたような設定で来られた場合、為す術もなく敗北する。

 今回子供側がやられたのは、まさしくそれだ。


(予期できなかった……。1戦目は、そもそもこっちの情報集めに徹してくると思ってた……)


 ネクラさんならば、私が彼と同じ土俵で戦わない事くらいは読んでくるだろう。そのうえで何かしらの対策をしてくることは読めていた。

 しかし、連携を取らない作戦がどの程度の効力を生むのか分からない1戦目は、敗北覚悟で様子見してくると読んでいたのだ。

 それが、こちらの作戦を綺麗に読まれて何もさせてもらえないなんて……。


「この後どうします……? これが通じなかった以上、他に打つ手ってあります?」

「……」


 クロキツネさんの問いに、すぐに答える事は出来なかった。なにせ、連携を取らない作戦でどうしようもなかった場合の事なんて考えておらず、当然、それに完璧に近い形で対策されることなど考えていなかったのだ。

 無論最終戦になれば対策くらいは打ってくると踏んでいたが、それがまさか1試合目に起こるなんてことは予期できるはずがない。


 それに、今回の試合は相手が全員無敵を所持していたとか云々以前に、そもそもこちらの動きが読まれているかのように目にする子供の数それ自体が少なかったのだ。

 前回の失敗も踏まえてか、ネクラさんを発見する事は愚か、こちらの2名の鬼はそもそもゲーム中1度も子供を見ていないと来た。

 これは、一体どういう事だと……。


(まずこの問題を解かないと……。なんでランキング入りしてるはずのこの子達が相手の鬼と一切会ってないのか……)


 それを解かない限り、少なくとも通常のマップでは今後も同じことが行われるだろう。

 ただでさえ勝率の悪い脱出マップで1勝を収めないといけなくなったのに、通常のマップでも勝てませんとなれば、もう状況は絶望的だ。


 勝ちを諦めるなんて、そんな選択肢は当然ながら私達にはない。

 特に、私は日本予選を優勝したら叶えたいと思っている野望があるのだから……。

 その為には……当事者から話を聞いて、原因となりそうなものを聞くしかない。


 控室の隅の方で縮こまっている2人の肩を叩き、自分も同じような泣きそうな顔をしているんだろうなと予想しつつ、ドラマの刑事を参考にしながらゆっくり話を聞いていく。


「なにか、試合中に妙な事は無かった? あと、あなた達のプレイスタイルをもう一度教えて?」

『妙な事?』


 2人揃ってそう言うと、うーんと難しそうに考え「妙な事は別に……」と、また揃って口にする。

 まぁゲーム中子供の姿を確認できなかったことが妙な事と言えば妙な事なのだが、それはこの際どうでも良い。問題は、なんでそんなことが起こったのかだ。


「じゃあ、あなた達のプレイスタイルを教えて?」

「……プレイスタイル、ですか? ん~、別に他の人と変わりはありません。ただ、私とこの子は索敵が苦手なので、ネクラさんの動画を見て索敵の方法を丸暗記して、ようやく一人前に戦えるようになった......くらいです。ね?」

「う、うん……。前までは全然子供を見つけられなかった……みたいな展開もあったんですけど、ネクラさんの動画見てからそれが全然なくなって……。アイちゃんも私も、捕まえる能力についてはあまり問題視しなくていいレベルなんですけど、索敵の能力が如何せんよくなかったので、結果が出てなかったんだなと最近分かりました」


 それは分かる。私だってそんな人の1人だし、ネクラさんの解説動画を見たおかげでランキング入り出来るようになったというプレイヤーは他にも数多く存在しているのだから。


 しかし、そうなると余計におかしいではないか。

 ネクラさんの解説動画を見て索敵の能力を底上げしたのであれば、余計に子供が見つけられなかったというのはおかしい。

 これが反対……索敵の能力はあったけど、捕まえる能力が無かったとかなら話は変わってくる……のかもしれない。自信は無いけどね……?


(私とくりーむさんはキッチリ見つけられてるから、索敵能力が云々の問題じゃないんだよね、きっと……。そして、連携していない事も、多分関係ある……)


 準決勝でのネクラさんのチームの戦いぶりを見ている限りだと、味方の子供の人が隠れる能力に長けているとか、そんな特徴は無い。

 少なくとも、ゲーム中ずっと見つからずにいられる能力はなく、そんな変な事が出来そうなのは彼らの指揮官くらいだろう。


(つまり、これにはネクラさんの指示が入っていると考えるのが妥当……。なら、ネクラさんはどうやって鬼の目を2時間も誤魔化したのか……)


 いくら鬼の位置情報を共有しようとも、鬼を目撃した子供は遅かれ早かれその鬼本人に見つかってしまうはずだ。なので、鬼の位置情報共有くらいではこの現象の説明は付かない。

 この現象を可能にするのは、まさしく彼女達がどこを探すのか逐一先読み……それも、寸分の狂いもなく正確に予測するしか……ん?


「あの……もしかしてさっきの試合って、ネクラさんの解説動画の通りに動いたりしました? 探す場所とか、行くエリアとか能力の設定まで、全部」

『……? もちろんです』

「あぁ……それだ……」


 そりゃそうだ。あの人が自分で出した動画なんだから、その内容は誰より頭に入っているだろう。

 もし覚えてなくとも、あの人の頭脳があれば、過去に自分が言った事くらいはすぐに思い出せるはずだ。


 つまるところ、彼女達に鬼を発見させないようにするためには、解説動画とまったく別の事をすれば良いだけであり、子供がよく隠れるとしていたエリアに立ち入り禁止命令を出せば良いだけだ。

 なにせ、その2人の鬼は解説動画通りの場所しか探さないのだから。


(狭いマップならまだしも、あの広いマップじゃ他のエリアなんてホイホイ探しに行く余裕ないし、子供が見つからなかったら余計にネクラさんの知識に頼りたくなるもんね……。わかる、分かるよ……)


 大概は指揮官にどこどこを探してほしいという命令を貰うので深くは考えないだろう。

 しかしながら、今回はその指示を出してくれる指揮官がいないので、間接的にではあってもネクラさんの指示に従う事になってしまう。

 そして、その指示を出しているネクラさんが相手にいるのだから、そっくりそのまま逆の指示を出せば良いだけではないか……。こんな簡単な事を忘れていたなんて……って、いや――


(むしろここか……? 相手が取りえる行動が分かってるんだったら、それを利用すれば良いだけじゃない……? 次は脱出マップだけど、謎を解かせないようにネクラさんを封印……いや、そうじゃないな。ネクラさんが出す行動は私達が連携を取らないという前提に成り立っているはずだから……)


「いける!」


 幸いにも、今回のマップ選択権はこちらにあるのだ。

 そして、相手が今考えているだろうことは幸いにも簡単に分かる。なので、今回は子供側がなんとか勝ちを拾ってくれさえすれば、1勝はすることが出来るだろう。


「え……? ね、ネクラさんに勝てる案、あるの……?」

「はい! なので、クロキツネさんはなんとか子供側を勝利に導いてください。あ、でもネクラさんの解説動画で語られてることは一切やっちゃダメです。やるなら、そのまったく逆の行動をしてください」

「……?? ど、どゆこと……?」

「いや、あの、説明するのめっちゃ難しいんですけど、とりあえずお願いします!」


 説明もそこそこに、ネクラさん側が拒否してきた王城以外の脱出マップを選択し、相手に考える時間を与えない為に即座に待機画面へと移動する。

 そこに揃った、キョトンとした顔をしている3人へと今回の作戦を伝える。


「あ~……なるほど?」

「そういう手段が......」

「……勝てるかも!」


 私は、半ば勝ちを確信しながら第二回戦へと挑んだ。

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