第24話 初戦
無人島。
広さはステージの中では最も狭く、ネズミの遊園地がすっぽり入ってしまう程度の大きさだ。
しかし、マップ全体が海で囲まれ、中央には森が広がっている。
遊園地のような人のプログラムが施されていないため、試練の難易度が高いか低いかの2択の状態になることから、嫌う者も多い。
通常であれば、通行人を利用する試練は難易度5~8となるのだが、このステージにはそれが無い。
つまり、難易度1~4、9~10の試練しか出ないという事だ。
試合の始めから終りまで、難易度9以上の試練が出続ける場合も十分ありえるという事だ。
その代わりと言ってはなんだが、森の中で鬼ごっこをするのに等しいので、子供が隠れやすく、鬼の索敵能力で勝敗が決まるとも言われている。
無人島の基本的な説明はこんな所だ。
(海岸……。ということは無人島か。ハイネスさんを相手にするのに、この狭いステージは少し心配だな……)
目の前に広がるエメラルドグリーンの海を見て、初めに晴也が考えたのはそんな事だった。
マイさんの異常とも言える索敵能力があればこのステージで勝つのは容易だろう。だけど、問題はこっちだ。
このステージは、せまいが故に索敵能力を持った鬼が1人いるだけで、大会モードの場合は事足りる。
それを、あのハイネスさんが理解していないはずが無いのだ。
ステージは始まるまで分からないけれど、鬼側が異常なほど強いこっちのチームと戦うのだ。
練習会の初戦のように、癖の強い編成では来ないだろう。
(とりあえず誰かと合流だな……。しばらく海岸を歩いていれば誰かとすれ違うはず……)
歩きにくい砂浜を長時間歩くのは愚策だが、このマップも鬼と出会うのは最低でも5分はかかる。
4分以内に他の子供を見つけられなければ、森の中に避難すれば良いのだ。
(で、本当に見つからないんですね分かります……)
結果、3分程砂浜を歩いた晴也は、子供の影も形も見え無いことからさっさと森の中へ避難を始めた。
既に索敵能力を持っている鬼が砂浜に近付いていた場合、これ以上この場に留まっていると、早速無敵を使う事になってしまう。そんな結果は避けたいのだ。
「ネクラは孤立。他の情報をください」
とりあえず近くの木に登り、浜辺を含めた一体を見渡せる位置に着いた晴也は、落ちないように注意してチャットを送信した。
すると、意外にも孤立している人が多く、序盤は良い出だしとは言えなかった。
「では、いつも通り、鬼を発見次第報告を上げてください」
恐らく、孤立している人が多いのは練習不足だ。
鬼側の練習を優先しすぎた為、無人島や子供不利とされるマップでの練習は疎かにしていた。
その弊害が顕著に表れている。
森の中で生まれた子供は、ある程度周りを歩けば誰かと出会えるだろう。
しかし、海岸に生まれた子供は、森に向かうか、砂浜を進むかの2択を突きつけられる。
近くの子供同士が同じ選択をした場合は出会えるだろうが、違う選択をした場合はどちらも孤立してしまう。
半数以上が孤立しているのはこのためだろう。
(失敗したな……)
晴也がそう後悔を募らせた瞬間、少し上の方から鈍い銃声が響く。
それと同時に、手元に確保情報が届く。
(また狙撃手かよ! しかも近いし!)
すぐさま仲間へと報告し、自分もその場を離れよう……そう思ったのだが、晴也が思い出したのは遊園地での出来事だ。
(あの時は、狙撃手の位置が分からず仲間を犠牲にした。このマップでこんなに早く捕まえられるという事は……一応確認しておくか)
狙撃手には自分の無敵は効かないが、無人島では狙撃手の狙撃スポットとなる場所は限られている。
木が邪魔にならず、子供を容易に撃ち抜ける場所など、森が広がっているこのエリアではそう多くないのだ。
狙撃手の位置が分かれば、射程範囲外から射程内に入る子供は減り、逆に射程内から射程外に出る事も少し楽になる。
狙撃手の位置を割り出すのはそれ相応のリスクを伴うが、それ相応のリターンもあるのだ。
(上手くいけば、無敵を使わせながら逃げる事も可能か……。練習の足りていないこのマップで勝つには、博打を打つべきか)
強制試練中の仲間が捕まる等は仕方ないとして、先ほども言った通りこのマップに狙撃手は向いていない。
ならば、位置さえ割り出してしまえば実質鬼は3人となるのだ。
これは、後々効いてくるはずだ。
「北の海岸に女王単独。近くの森で隠れています」
「南の海岸に能面発見。離れます!」
晴也が狙撃手の居場所を探る事を知らせようと携帯を見ると、既に他の2人の鬼の目撃情報が届いていた。
女王は分かる。どのステージでも使い方次第では強いからだ。
しかし、能面と言うのは予想していなかった。
(最弱の鬼って言われている能面連れてくるって……どういう事だ?)
能面こと魔人の使途は、能面のようなお面を被っており、背はとても低く、下手をしたら子供陣営のキャラよりも低い。
しかし、この鬼が最弱だと言われているのはその能力の使いづらさからだ。
魔人の使途は、四君子と同様瞬間移動などの能力は使えないけれど、使い魔召喚という特殊能力を使うことが出来る。
蝙蝠のような使い魔を複数召喚し、吸血鬼が血を吸うように子供を確保しに来る。
しかし、その使い魔とは視界を共有したり自分の考えを伝えたりすることはできないため、完全に自動操縦なのだ。
近くの子供に自動的に向かって行き、何も考えずその血を吸おうとしてくる。
(何を考えているんだ……? ハイネスさんの事だから無策とは考えにくい……。一応用心するように伝えとくか……)
晴也の中のハイネスは、天然ではあるけれど、意味のない事はしない人だ。
そしてその行動は、自分以上におかしく変な事をする。そう、妙な確信がある。
一応、ライが落ち着いたと連絡は貰っているけれど、それきり会話は無く、情報を引き出す事はできなかった。
「ネクラは狙撃手の位置を割り出してきます。もし失敗したら申し訳ありません」
狙撃手にやられた仲間の位置と、銃声が聞こえてきた位置はなんとなく覚えている。
そして、この辺りで狙撃手が構えるとしたら、少し登ったところにある縄文杉の辺りだろう。
第1試合が始まって15分、最後の鬼が魔女だと報告を貰う頃には、晴也は縄文杉の近くまで足を運べていた。
後数歩足を進めれば、縄文杉に狙撃手が居た場合の射程内に入る事になるという位置だ。
靴は泥まみれで、フードを被っていないため髪に小枝が数本ついているが、そんな事は気にしない。
(狙撃手は恐らくハイネスさんには扱えない。という事は、射程内に入れば即撃ち抜かれると思って良い。こちらの姿を見せれば確実に無敵を使って排除しに来る……。なら、あれを試す価値はあるか……)
縄文杉に狙撃手が居る場合の射程距離ギリギリまで足を進めた晴也は、そこで一旦足を止め、手頃な大きさの石を探し始める。
小さすぎてはだめだ。大きすぎても駄目だ。ちょうど、6歳くらいの男の子の手にすっぽり収まるサイズの、そんな大きさの石だ。
これも、相手がライ率いる精鋭相手ではできない作戦だ。
ハイネスには相手を過信しすぎだと言われてしまったけれど、これは過信では無い。
ある程度経験のある狙撃手であれば、誰もが条件反射的にしてしまう行為なのだから……。
(あった……。後は、枝だな。枯れ木が1番いいんだけど……ごめんね)
目の前の木に軽く謝った晴也は、そのまま手頃な枝を1本折った。
アニメや漫画で良くある、枝を踏んだ音で相手にこちらの位置を知らせる、あれだ。
本来は枯れ木の方が望ましいのだが、無いものはしょうがない。
(狙撃手が運よくこちらの方向を見ていなければ、この作戦は意味が無い。ならば、あえてこちらを向かせればいいだけ……)
晴也が枝を勢いよく踏んだ事で、バキッと枝の折れる音が周囲に広がる。
これだけ派手に音を立てれば、よほど鈍感な狙撃手でない限りこちらの方向を注目するだろう。
そしてその直後、晴也は目の前の適当な木に向かい、手元の石を投げつける。
すると、狙い通り枝についていた葉へと命中し、その葉は地面にヒラヒラと舞落ちる。
その葉が落ちきるのと、晴也の数センチ前の足元が打ち抜かれたのは同時だった。
(……あっぶな! 何でこっち狙ってくんの!? あいつ変態じゃん!)
晴也の想定では、石を投げた数メートル先の木の方向を撃ち抜くと思っていたのだ。
しかし、その予想は外れ、相手の狙撃手は晴也が居た方向へと弾丸を発射してきたのだ。
銃声がしなかったことから、無敵を使わせることには成功したようなので、急いでこの場から離れる。
縄文杉から段々と遠ざかる晴也は、内心めちゃくちゃ焦っていた。
予想通り相手が縄文杉にいたので良かったけれど、後数センチ狙撃手が前にいれば、自分は撃ち抜かれて確保されていたのだ。
心臓の高鳴りがまだ収まらない中、晴也は仲間に狙撃手の正確な位置を教え、1度後ろを振り返ると大きな安堵のため息を吐き、再び前を向いて走り出した。
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