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第249話 全能神たる所以

 我ながら言葉足らずだったかなと少しだけ不安になってしまう。

 無事にチームの人達に作戦を伝えて遊園地に放り込まれたのは良いけれど、ハイネスさんに中途半端にしか情報を伝えられなかったのは失敗だった。もう少し分かりやすく情報を纏める事が出来れば……と、そう思わざるを得ない。


 相手が僕らに勝てないと思っている可能性については前もって分かっていたけれど、そのうえで相手がどう勝ちを目指してくるのか分かったのはついさっきだ。


 ほとほと自分の浅はかさに嫌気が差すけれど、試合が始まるまでの1分でハイネスさんが、僕が思っていたことをすべて理解してくれることを祈るしかない。


「まぁ、僕でも多分厳しいし……あんまり期待しすぎるのは良くないか……」


 あれだけの情報で僕が言わんとしている事を考えろと言われるのは、恐らく不可能ではないだろう。

 ハイネスさんほどの頭脳があれば数分もあれば分かるだろうし、明確にとるべき行動は導き出せるはずだ。そこは疑っていないし、心配もしていない。……というか、あの人なら確実に導き出せるだろう。


 だが、それも“数分”かければの話だ。


(考えても仕方ないか……。そもそも、僕達が勝てば良いだけの話だしね)


 いくら全員無敵の作戦を取っているのだとしても、マイさんを中心に試合を組み立て、シラユキさんの予測で相手を追い詰めていけば半分くらいは相手を減らす事が出来るだろう。

 今回、僕らは初戦から例の最終兵器を投入し、この1試合だけでも確実に勝ちを拾うための作戦を取っている。


 僕が試合の開始直前にチームの人達に言った事は2つだ。

 まず、この試合だけは絶対に負けられないということ。

 そして、出された試練はどんな高難易度の物だろうが絶対にクリアしてくれという物だ。

 その最中で捕まったとしても無敵の能力で1度はその身の無事が保証されているので、無敵を発動した状態で無いのなら無茶をしてでも良いから試練をクリアしてくれと。

 なにせ、そうでもしないと引き分けた場合ポイント差で負けてしまうからね。


「さて……ここから僕が考えるべきは相手の作戦じゃなく、個人がどういう動きをしてくるか……だな」


 当然チーム全員に相手チームの詳細を全てデータ化して送っているし、ある程度目を通してもらってはいる。

 でも、それはあくまで補足であって基本的な指示は僕が出す。幸いにも、相手が連携を取らないという前提が分かっているのであれば、考える事が増えるだけでそう難しくはならない。


 要は、いつもは相手指揮官の行動を先読みするだけで良いけれど、今回は相手の個人の動きを先読みし、そのうえで全員に指示を出せば良いだけだ。


 行動を先読みしなければならない相手が“指揮官”から4人全員に変わっただけだ。それを全て同時並行で処理するなんて、別に難しいことではない。

 もちろんこれは、相手の性格やプレイスタイルなんかが全て分かっている前提ではあるけどね?


「よし。まず考えを整理しよう。相手の鬼のメンバーは指揮官のソマリさん、声優か何かの仕事をされてるくりーむさん、最近名前を変えたハルさんとアイさん、だったよね……」


 クロキツネさんもそうだけど、相手のチームはなぜか最近になってプレイヤーネームを変えた人が数多く存在する。その理由は分からないけれど、今考えるべきなのはそこではないのでとりあえずスルーする。


 全員のプレイスタイルは、事前調べの結果で言えば、ソマリさんが直感で動くタイプの天才肌。

 くりーむさんはどちらかと言えばミナモンさんのように、指示が無ければ扱いにくい変な場所を探すような特異なプレイヤー。

 ハルさんとアイさんに関しては、最近になって実力をメキメキ伸ばしてきたプレイヤーなので情報が少なく、最近初めてランキング入りした……くらいしか分からない。


 でも、今回の場合はそのおかげで相手の取りえる行動が非常に読みやすい。


『事前の作戦通り、僕が解説動画で子供が良く隠れると解説した場所……例えば恐竜エリアや絶叫エリア、海賊エリアは極力使用しないでください。現時点でそこにいる方は無理しない範囲で移動を開始してください』


 そう。最近になって腕前が変化した。

 そんな人達に共通するものが何かと言われると、このゲームをプレイしているほぼ全ての人が答えるだろう。

 僕の……ネクラの解説動画を見た事だ。


 もちろん僕の動画を見ただけで実力が上がるかどうかはその人次第みたいなところはあるし、上り幅も人によって違う。

 しかしながら、その2人のSNSを見た限りだと僕の予想は正しく、その2人は良くも悪くも僕の教えを忠実に守っている結果、実力が上がったのだ。


 言うなれば、テストで出る範囲があらかじめ分かっているのでそこを猛勉強してテストで良い点が取れた状態なのだ。


 無論僕の動画はあくまできっかけになったにすぎない事は理解している。でも、そういう人に限って共通している事があるのもまた事実だ。

 それは――


(解説動画で解説してない事態に対しての対処は、まだ上位プレイヤーのそれに追いついていない)


 そう。あくまで彼ら・彼女達は僕の動画で基本的な知識の底上げをされただけに過ぎない。

 解説動画で説明されていた部分に関しては完璧な回答を持ち合わせているし、少しくらいならその応用で状況の変化にも対応できるだろう。


 しかし、例えばかけ算しか勉強していない人が、急に割り算とか分数のかけ算を出題されても分かるはずがないように、応用の応用をその人達に投げかけても回答は出せないのだ。

 割り算も分数のかけ算も、普通のかけ算が出来ていれば解く事は出来るけれど、そもそも答えを導き出す方法が分からなければ答えの出しようが無い。


 僕のアドバンテージは、相手が勉強してきた内容をすべて理解しているので、その人達が決して解けないだろう問題を用意出来る事にある。


 日本史しか教えてこなかった教師が、テスト当日になって「やっぱ世界史のテストするわ」とか言うような暴挙であり、解けるはずの無い問題を出すことが出来る。それが、情報を与える側の最大のアドバンテージだ。


「春香に分かりやすいけど分かりにくいたとえって言われる訳だよなぁ……」


 自分の頭の中でもう一度作戦に見落としがないかどうか。おかしなことをチームのみんなに言ってなかったかを確認しつつ、少しだけ肩を落としてしまう。


 自分で言ってても思ったよ。なんだよその微妙に分かりやすいような、分かりにくいようなたとえってね……。

 しょうがないじゃん。誰かに勉強を教える時みたいな時間的余裕のある状態じゃなくて、すぐに作戦の説明をしないといけなかったんだから……。


 ハイネスさんならここまで説明しなくとも「あ~そういう事ですね」で分かってくれても、皆が皆理解できない作戦なら伝える意味がない。

 伝えるなら分かりやすく、それでいて出来るだけ簡潔に伝えなければならないのだ。


(ソマリさんとくりーむさんに関しては、鬼の目撃情報から判断してそこを遠ざけていけば良いだけ……。鬼2人が機能停止している状態だと分かれば、ソマリさんでもこの作戦が難しいことは悟って作戦を練らないといけなくなるはず……)


 2人に関しての対策が甘いのは、あえてこちらを追わせることで、鬼側のの確保ペースが異常に遅いことを悟らせないためと、仲間からの連絡に出られない状況を作り出すのが目的だ。


 相手を追いかけている時に電話がかかって来たとしても、トッププレイヤー同士の戦いであれば、そのわずかな隙は致命的な物になる可能性がある。

 それは僕もそうなので、ソマリさん達がこちらの作戦を見抜くのにもかなりの時間を要するはずだ。


(初戦は、絶対に勝たせてもらいますよ……。うちの軍師さんがあなた達の作戦に気付いてるかどうか分からないんでね……)


 この最終兵器だって、理論上は使ってくると分かっていれば攻略は可能なので、そう何度も出して相手に攻略の糸口を見せる訳にはいかない。なので、使えるのは多くてもあと1回だろう。

 ギャンブル漫画で出てきたような皇帝と奴隷をぶつけ合うカードゲームみたいだな……。いや、それは良いんだよ。


(ハイネスさん、勝ってくださいね……)


 届くかどうか分からないその願いは、どうやら無事に届いたらしい。

 僕達は、引き分けにすらならずに決勝戦の第一試合を3人確保されただけで勝利を収めた。

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