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第248話 その軍師、まさに異才

 ハイネスはネクラに対する恋心とそのモヤモヤを一旦心の奥底に押し込み、ライのアドバイスに従って彼を信じる事に決めた。

 だから、決勝戦前にネクラがかつてないほど近距離で鬼気迫る表情を浮かべながら「話がある」と言ってきたときでも「あ、試合の事ね」と冷静に考えられたのだ。


 しかしながら、流石の彼女でも今回の謎解きに関しては流石に苦戦を強いられていた。

 なにせ、ヒントが少なすぎる上に、その回答時間が諸々の設定や作戦を伝えなければならないという時間を考えても30秒程度しかなかったからだ。


(考えろ考えろ……。なんでネクラさんは相手が選んでくるステージが当てられたの? そもそも、遊園地とショッピングモールに共通する点と言えばなに……? 早く考えろ、私……)


 ネクラさんが慌てた様子で伝えてきたという事は、これが解けなければ私は確実に敗北を期すという事だろう。

 少なくともこの1戦目は確実に落としてしまうだろうし、逆に言えばネクラさんは「この作戦さえ見抜けるのなら、ハイネスさんなら勝ちを拾える」という心境の上で話をしてきたに違いない。


 そんな理由がなければ、謎が解けてもなんの役にも立たないのに、あの状況で見る人が見れば勘違いしそうな距離で話そうとはしない人だから。

 いや、それはそれで残念というか、もう少し近くで話してくれても私個人としては別に問題ない。むしろウェルカムだ...という本心をさらに心の奥深くへ押し込んでから改めて考える。


 ミナモンさんを始めとしたマイさん、シラユキさんの3人が私に期待の視線を向けて作戦が出るのを今か今かと待っているみたいだけど、とりあえずネクラさんが言わんとしていたことを考えるのが先だ。


「遊園地とショッピングモール……そして、ネクラさんが言おうとしていた解説動画という言葉……」


 これらを総合すると、まずネクラさんが言いたかったのは自分の解説動画の上で遊園地とショッピングモールの2つのマップについて語っているという事だろう。


 その2つに共通するものと言えば、ネクラさんが解説動画で語っていたのは「鬼が勝ち難いマップ」と「子供がかなり有利で、逃げる場所にも事欠かない」ということ。

 後は……「余計な作戦を弄するよりも各々の好きに動いた方が、元々のマップの広さもあって捕まりにくい」だったはずだ。


 それ以上のことになると他のマップにも共通するので、この2つのマップにだけ合致している条件で言えばその3つだけのはずだ。


 そして、相手が勝ちに来ないという先のネクラさんの発言と、私に急いでその事を話そうとしていたことを考え、相手が鬼側でネクラさんに勝てると思っていないのではないかと仮説を立てる。


(ソマリさんの腕前なら不可能ではないけど、ネクラさんの予想通りの性格ならそう思っていても不思議じゃない。ここは、あの人の直感を信じるべき……)


 後、試合が始まるまで50秒だ。もっと早く思考を回転させるんだ。

 中間試験や期末試験の時、私はサッサとテストを終わらせるために頭をフル回転させてそれらを終わらせる。その時よりさらに早く、この問題を解くのだ。


 ネクラさんが言いたかったことは、つまるところこういう事だろう。


 相手の指揮官は自分に勝てるとは思っていないので、引き分けを取るために子供側で絶対に勝てるよう画策してくる。だから、逆に言えば子供側は絶対にハイネスを下す作戦を考えてきているはずだ……と。


(いや、私が相手の立場なら、私の特性は十分知っているはず……。なら、それは連携を取らないという作戦一つで相殺可能なのも十分よく分かっている……。なら、警戒するべきは……)


 私は、目の前でまだ作戦を告げようとしない私を心配そうな目で伺ってくるマイさんを見つめる。


 相手目線、私を抑えたとしてもマイさんがいる限り、私達に勝てる可能性は五分五分ってところだろう。

 なら、逆に言えば私とマイさんを抑える事が出来ればほぼ勝てる……そう考えるはずだ。

 実際は、ミナモンさんとシラユキさんもいるのに、2人はいない物と考えているのかもしれない。


 どっちもネクラさんが集めた人だぞと言いたいのをグッと堪え、マイさんを潰すために有効な設定はなにか、それを考える。

 この場で今考えなければならないのはそれだ。


 2つのマップに関しての共通点は『子供が特別有利なマップ』という事であり、『指揮官がいなくとも問題なく勝てるマップ』という2点だ。

 なら、これは子供側が勝てるようにする補足……というか保険と考えれば良い。ネクラさんが直前に言いたかったであろう言葉は、この事だろう。


 試合開始まで、残り40秒。


「マイさんでも捕まえられる人数には限りがある……。でも、それをもっと万全にするには……」


 急げ。もう、設定をあれこれ指定する時間を考えれば、使える時間は長くて20秒程度だ。

 苦手だとしても、いくつものことを並行して同時に考えるんだ。ネクラさんならそのくらいのことは平気でやるし、それが平然と行えるからこそ、あの人は凄いのだ。


 私が必死で頭をフル回転させてやっているようなことを常時やっているなんて化け物かと言いたいけれど、それでもあの人は頭を働かせた後は死んだように寝るので、その代償が来ているのだろう。

 カレーを滅茶苦茶甘口にしないと食べられないのだって、甘いものが大好きなのだって、その弊害だろう。


 残り、36秒。


 いや、今考えるべきはネクラさんの事じゃないでしょ私! さっさと答えを導き出さないと!


(私なら、マイさんの効力を出来る限り失わせる作戦を考えるとして、現状あの人たちが入手可能な情報からどんな手段を組み立てる……?)


 あの人たちが気付いていて、ネクラさんがその可能性について考察できなかったとは考えられないので、彼女達が取ろうとしている作戦は『ネクラさんが以前に考えていた物』という前提の元考えるべきだ。


 ネクラさんの強みは、他の誰も追いつけない程の思考力とその速さだ。

 常人なら、確実にその後をついていく事になるので、ネクラさんが思いついてもいない設定を考え出すのはほぼ無理だ。

 そもそも、そんな設定を思いついているのであれば、なんで準決勝で使わなかったのかという疑問が出てくる。


 残り、30秒。


 今現在ネクラさんが使用している、もしくは考案している作戦の中で、対マイさんだけを考えるのであれば……最適なのは“全員無敵のスキルを設定した最終兵器”だろう。


 いくらマイさんでも、全員が無敵の能力を持っていればゲームを通して脱落させることが出来るのは10人にも満たないはずだ。

 なにせ、全員が無敵の能力を所持しているので2回ずつ捕まえないといけないのだから。


 そんな状況で10人を捕まえるのは、普通のゲームで20人捕まえるのと同義だ。なので、現実的に考えれば8人とかそのあたりになるはずだ。


 だが、これはネクラさんも懸念していた通り、対策しようと思えばいくらでも対策が……


「そうか! だからネクラさんは私に!」


 そう。この作戦は、相手が使ってくると分かっていれば容易に対策が可能なのだ。

 そして、彼女達がもしもネクラさんの最終兵器の存在に気付いて“ただ真似しようとしているだけ”なら、そこには致命的な弱点がある。


 もちろん相手がその設定を知っていて、使ってくることが分かっていなければ絶対に設定しないだろう設定を使われなければ、子供が絶対に負けないのは言うまでもない。

 しかし、逆に言えばそれが分かっていてちゃんと対策をすれば、逆に鬼が絶対に負けないようにできる諸刃の剣でもあるのだ。


 残り、23秒。


 ようやく正解に辿り着いた私は、急いで全員に索敵の能力を設定するよう指示し、全員を索敵班のような聴力と視力に全振りした設定にしてもらう。

 そのうえで、シラユキさんの予測を使いながら相手を殲滅しにかかるという脳筋戦法を伝える。


(正解……だよね?)


 全ての設定を終えた丁度その時、私達は第一試合のマップへと放り込まれた。

 その結果……相手に何もさせず、第一試合はアッサリと勝利を収める事が出来た。


 後は、ネクラさんの方がどうかだけど......。

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