幕間 最後の試練前の作戦会議
準決勝を終えたネクラさん攻略同盟の面々は、疲労困憊の中自分達のギルドへと集まると、誰からともなくヘナヘナと座り込んではぁと深いため息を吐いた。
今このギルド内にいるのは試合に挑んでいた24人だけだし、ここしばらくは日本予選の作戦会議の場として1室を使わせてもらっている。
そのうえで、鬼側の指揮官を務めているソマリがヨイショと立ち上がった。
「皆さん、とりあえずお疲れさまでした……。決勝戦は1週間後なので、まずはゆっくり休んでください」
この場のリーダーが誰かなんて決められては無いのだが、子供側の指揮官がかなり疲弊しているようなので仕切りを引き受けたのだ。
しかし、ソマリがそう言うや否や、その場の面々が複雑そうに微笑んで「気は遣わなくていい」と口を開いた。
「次ネクラさんとこっしょ? ヌクヌクしてる暇ないって」
「うんうん、あんま気にしないで良いよ。それにほら、決勝戦終えた翌週にはもうイベントだし、ゆっくり休む暇なんて無いんだから~」
誰かからそう声が上がると、ソマリ自身もそう言えばそうだったなと苦笑してしまう。
このギルドに所属している面々でネクラさんのイベントに参加しない人は恐らく両手で数える程度だろう。
その人達は仕事の休みが取れなかったり、現実のネクラさんを前にすると死にそうって言ってる人達なので、グッズそれ自体はオンラインショップの方で購入するのだろう。今回ばかりは、彼女達にもグッズが行き届くことを祈るしかない。
それはそれとして……そう言ってくれるのであれば、作戦会議をしなければならないだろう。
明日から仕事があるというメンバーもいるので、やれることは今のうちにやっておいた方が良い。
正確には、私達はまだネクラさんの方の試合が終わっているのか、終わっているならどっちが勝利したのか。
その結果は知らないけれど、あの人が負けるはずが無いという根拠のない自信があるのでそこは心配していない。
「私の経験からするに、ハイネスさんやネクラさんのような、頭脳では絶対に勝てない人達を相手にする時、策で上回ろうとするのは愚かとしか言いようがありません。あの人達と同レベルの頭脳を持つ指揮官であれば別ですが、私やクロキツネさんはあの人達には及ばない……そう思ってます」
「ま、そりゃそうよね。ソマリちゃんがハイネスさんに敵ってるのかどうか、そこを私は知らないけど、過信しすぎは良くないしね」
ちょっと言いすぎだったかもしれないと、言った傍から後悔したソマリだったが、子供の指揮官をしている黒い狐の面を被っている女性からそう言われ、内心ホッと胸をなでおろす。
私はハイネスさんと戦った事もあれば同じチームで大会を優勝した経験もあるので、あの人の強さは知っている。それに、あの人の傍にはネクラさんというこの世界最高峰の指揮官がいるので、そのレベルだって何段階も進化しているはずだ。
そんな人と頭脳戦で戦うなんて、そのレベルの頭脳を持っていて初めて許される行為だ。なら、そもそも頭脳戦で戦う事はしない方が賢明だろう。
「なので、こっちはこっちで今までしてきた作戦とは全く別の事をしましょう」
「別の……? 具体的には?」
「各々、好きに動いてランクマッチのように動くんです」
私がそう言うと、部屋の中に少なからず動揺が広がる。
確かに、大会モードでの一番の利点は連絡がお互いに取り合えるので円滑なコミュニケーションが取れるというところにある。
だがしかし、ネクラさんやハイネスさんのような異次元の頭脳を相手にする時は、その有利な点が逆にそのまま相手の有利な点に変わってしまうような気がしているのだ。
「あの人は賢すぎるので、相手の手の内を完璧に読んできます。それは、こっちがどんな作戦を立ててどんな風にチームを動かすのか。その全てを怖いくらい完璧に」
「……そうね。ネクラさんの凄い所は、それをかなり早い時間で、それも的確に行える事。そして、それを知らないプレイヤーはいないから、あの人のチームメンバーも、指示された事にはなんの疑問も持たずに従える事にあるよね」
「はい。クロキツネさんの言う通りです。なので、連絡を取り合ってチームを動かそうとするこっちの作戦を綺麗に読めるあの人なら、大会モードの利点がそっくりそのまま向こうの有利な点、こちらの不利な点に早変わりするんです」
少し考えればわかる事で、あの人はランクマッチではまだ一度も負けた事が無いけれど、それはあの人がゲーム開始後に出会った1人のプレイヤーをゲーム終了まで守り抜くから達成出来る事であって、大会モードであればあの人の勝率はあまり高くない。
もちろんそれは強制試練の関係だったり予想外の作戦を取られた際に対応する術がない場合に敗北しているだけだけど、この差はなんなのか。
基本的に子供側は連携が取れる大会モードの方が勝ちやすいと言われているのに、あの人に限ってはそれが全く逆になっている。
その理由を考えると、必然的に相手の策が全て読めている故の弊害なのではないかという結論に至ったのだ。
「つまり、ランクマッチでは自分ともう1人を守るのが精一杯なのに、大会モードでは全員を守りながら戦えるのはなぜか……という事です。その答えが“相手の取りうる作戦が、連携が取れるという前提で考えれば全てわかるので守り切れる”という事になる訳です。ランクマッチでは連携が取れないので、相手の取りうる策が分からない。だからこそ、自分ともう1人を守るだけで手一杯……ということではないでしょうか」
「ん~……なんかそれだけじゃない気もするけど、確かにそれはあるかもね?」
「まぁそれだけじゃないって言うのは私も同感ですけど、それならネクラさんの強みとしている連携あり気の前提を覆せば、少なくとも何もさせてもらえず負ける事は無いかと」
無論この“大会モードで連携を取らない”というのは、鬼の目撃情報の共有や無敵や瞬間移動を行った際にどこに移動したかなどの報告もしないという意味だ。
こうする事で、完全にランクマッチでの状況に引きずり込んで相手のペースを乱す事が出来るのではないだろうか。
一見自殺行為に見えるこの行為だが、前提条件に“相手も連携をしているはずで、どんな作戦を考えているのか”という読みが入るのであれば、これはかなり刺さる。
なにせ、そもそも連携を取ってないんだから相手の読み通りに行動する人が少なく、仮に動きが読まれたとしても被害が最小限で済むし、下手に小細工を要する訳では無いので相手の罠にハマって一網打尽にされることも、恐らくは無いからだ。
「相手のフィールド……つまり、頭脳戦に持ち込まれると負けは必然。なら、こっちのフィールドに引きずり込みましょう。ランクマッチの勝率だけで言えば皆さんだって全然負けてないですし、ハイネスさんに関してはランクマッチのような連携が取れない場面だとそこまで脅威にはならないはずです」
そう。この作戦の肝はネクラさん対策ではない。
ネクラさんはこの状況だって1戦目が終わる頃には対応してくるだろうし、少なくともこっちが頭脳戦を諦めている事には気付くはずだ。
しかし、ハイネスさんはどうだろう。
もちろん気付くだろうし、こっちの目的にも簡単に辿り着けるだろう。でも、策を弄するのがあまり意味をなさないと知った時、彼女はどうするか。
(策を講じてそれを実行してくれる人がいないと、あなたは輝けないはず……。マイさんという化け物をどれだけ上手く扱おうとも、所詮1人の力だけで確保できる人数には限界がある)
無論マイさんだけで10人以上捕まる事態は想定するべきだ。
でも、逆に言えば19人全員がマイさんに捕まる訳じゃないんだから、残りの数人が頑張れば勝機が十分にあるという事だ。
頭脳戦で勝てないなら、他の部分に勝負の行方を任せる。
絶対に勝てないという部分がある相手に挑むなら、他に勝てそうな部分を見つけ、そこに勝機を見出す。これは、あなたが昔SNSに書き込んでいた必勝法……ですよね?
(勝って、イベントで褒めてもらうんだから……)
結局のところ、このギルドの面々のやる気が凄まじいのは、ネクラさんの公式グッズの販売イベントで、本人に「おめでとうございます」と褒めてもらいたいからだ。
他の人からの賛辞なんて本当にどうでも良いけれど、現実で顔を合わせてお祝いの言葉をネクラさん本人からもらえるなら……。
その思いでここ数日やる気を燃やしている人が、この場に何人いる事か……。
「頑張りますよ!」
『は~い!』
こういう時、真面目に貯金しといたおかげでお金を気にすることなくイベントを楽しめる事を天に感謝したくなる。
もし負けても、ネクラさんが世界で戦う姿を見られるし、勝てたなら褒めてもらえる……。最高じゃないか。私達は得しかしない。
(世界大会で優勝でもしたら……世界大会優勝チームの指揮官だし……あの人に告白してもし付き合えても……誰も文句言わないよね?)
誰にも言っていない自分の密かなる野望の為にも、次の戦いでは負けたくない。
そう自分に言い聞かせ、私は1週間後に迫った決戦に向けてもう一度気を引き締めた。




