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第236話 答え合わせ

 図書室で目的の本を探し始めて数分後、私達は早くも挫けかけていた。


 前回ここで本を探した時はある程度その場所のヒントがあったのですぐに見つかっただけで、今回は『あるかもしれない』という希望的観測の元に探している。

 それに、ここには図書館にあるような検索用のタッチパネルやPCがないので、目的の物がある本棚を探そうとする行為そのものも出来ないのだ。


「ないっすねぇ……。目論見通りって言うかなんていうか、心理学とかそっち系の本はありますけど……」

「ミミミさ~ん、ほんとにあるんですか~?」

「ん~……」


 私だって完璧に自信がある訳では無いし、ネクラさんがやっていた方法を使ってこの場所にその入門書のような物がある事に賭けている。つまり、この部屋に確実にそれがあるとは限らないのだ。


 そもそも前提が間違っていれば見つからないし、仮にこの場所にあったとしても数冊故に見逃している……もしくはそもそも見つかっていないのどちらかである可能性もある。


「砂漠で砂金を見つけるような行為って言うんだっけ……こういうの」

「まさしく、木を隠すなら森の中って感じっすねぇ……」


 思わずはぁとため息を吐きたくなるけれど、今はそんな事よりもこの状況をどうにかする方が先だ。


 神崎さんの読みが正しければ、鬼側もそろそろこちらの意図に気付いてこの場所に鬼を向かわせる頃だ。

 3つ目のヒントが出るまではあと6分ほどあるけれど、そもそも私達はこのマップの出入り口の捜索すらできていないのだ。


「いや、それは神崎さんなら指示出してるんじゃないっすか? ネクラさんとサカキさんが鬼を引き付けてくれてるんで、1階フリーで探せますし」

「……それもそうね。機動力のある人に個別で指示を出してると期待して、私達は捜索を……」


 いや、それが本当に最善だろうか。

 万が一予想が外れてこの部屋に例の本が無い、もしくはこのヒントは知識あり気じゃないと解けないような類の物なのだったとすれば……?


 ネクラさんがいない時の指揮官は決めていないし、その時は各自で考えて行動してほしいと言われている手前あまりあの人に頼りたくはないけど……


(ネクラさんだって、5戦目に突入するのは避けたいはず……。サカキさんが時間的にそろそろ限界だろうし、またギャンブルで聞き出すしかない……?)


 いや、それは最後の手段だろう。

 私達だって、まだ図書館の半分も調べられてないし、予測が外れて3つ目のヒントでその謎が解き明かされるかもしれない。それでもダメだった時に、ネクラさんに頼る……?


(いや、それだとゲームの残り時間的にかなり厳しいことになっちゃう。決断するなら早い方が……いやでも、なんでもかんでもあの人に頼るのは……)


 ゲーム開始時、何かあれば助けてほしいといわれた手前、子供のようにあれも教えてこれも教えてなんて、そんなことはあまり言いたくない。


 何かあれば……そんな事は無いだろうと心のどこかでは思っていたし、今回もネクラさんがなんとかしてくれるだろうという甘えがあったのは認めよう。

 それでも、簡単に助けを求めてしまってはあの人に選んでもらったという自信が失われてしまう。


 私も含め、このチームにいる全員はネクラさんが集めた。言い換えれば、数多くいる日本人の強豪プレイヤーの中から、彼に『選ばれた』人達なのだ。


 世界最高峰レベルの人に、戦力として認められた事はこのチームの全員が少なからず誇っているだろうし、自信にも繋がっているはずだ。

 でも、いざ試合となればあの人が大抵のことは解決してくれました……なんて評価になっちゃえば、そんなの私達じゃなくても良かったという事になってしまうではないか。


 鬼の方はマイさんやハイネスさんなど、あの人達じゃ無ければここまで楽に勝ち残って来れてないだろう事は想像に難くない。

 あの人達がほぼ確実に勝利を収めてくれるというある種の安心感があるので、私達は気負わずにプレイできるのだ。


 でも、じゃあ子供側は……? 全てをネクラさんに任せるのであれば、そんなの子供は誰でも良かったとならないだろうか……。


(もう一度考えろ……。問題文をよく読んで、知識なんてなくとも解けるヒントがあるはず)


 国語の問題と同じだ。問題の大筋だけ見ても分からない時は、その前後の分に答えやそのヒントが隠されていることがある。

 文章問題は苦手だし、作者の意図を答えろみたいな意味わかんない問題は本当に嫌いだったけど……落ち着いて考えれば、分かるはずだ。


「私は……あの人に選んでもらったんだから……。誰でも良かったとか、言わせない……」


 大体、まだ小さくて可愛らしい男子高校生に、20を過ぎた大人が頼りきりになるなんて恥ずかしすぎるではないか。

 少なくとも、ネクラさんには答え合わせで確認の電話をするくらいに留めるべきだし、問題を解くうえで頼るべきではない。


 あの人が言っていた『何かあれば助けてくれ』という部分は、きっとそういう事だ。

 自分に頼りきりにならず、自分達で物事を考えて勝利してほしいと、そういう事だろう。


 謎を解く最初の段階で頼ってしまったのは必要最低限。あくまで謎を解くために必要なステージに上がったに過ぎない。

 言い換えれば、ステージにはあげてもらったんだから、そこから先は私達が自力でなんとかしなければならないだろう。


「どこか……なにか、ない? 問題文に、おかしなところ……。どこだ……どこ……」


 たっぷり1分ほど問題文とにらめっこしていた私は、ある一文に目が留まった。

 それは『“とそにととらすと”で脱出口にあるチェーンを切断すれば良い』という部分だ。


(切断? という事は、その謎の物体は前回みたいな本型のカギとかじゃなく、文字通りチェーンを切断して扉のロックを外すもの……?)


 そう考えると、この屋敷にありそうなチェーンを切断できそうなものという新たな視点から物事を考える事が出来る。

 そして、これはキーボードのカナ文字入力で物品の名を表していると考えるのが自然であり、その通りにキーボードの文字を入力すると8文字のアルファベットが浮かび上がるはずだ。


「8文字……それがローマ字である可能性……いや、8文字でローマ字なら、それは4文字の日本語になる。扉にあるチェーンを切断できる品で4文字の物なんて……」


 いや、落ち着くんだ。こういう時、ネクラさんならどうするか。

 できるだけ文字数の少ない刃物やそれに類するものを次々に挙げて、その中から候補を見つけるのではないだろうか。


 そうと決まれば……


「キリス! アルファベット8文字か日本語4文字以内の刃物で、物を切断できそうなもの!」

「……はい? あぇ~……ナイフとか包丁っすか?」


 ナイフはアルファベットで書くと『knife』だったはず。包丁もknifeではあるけれど、より正確に言えば『kitchen knife』とかだったはずだ。

 英語は、話せはするけどスペルとなると怪しいので自信は無いが、どちらも条件には合致しない。


「他は!?」

「ほ、ほかぁ!? のこぎり、刀、ハサミとかっすか?」


 のこぎりは確かに4文字ではある。英語にすると『saw』とかだったかな……。もう少し真面目に勉強しておけば良かったと今更ながら後悔する。

 刀は『sword』でどちらの条件にも合致しない。……というか、どっちもこの屋敷にあったら違和感が半端ないので恐らく違うはずだ。


 だったらハサミ……?

 ハサミのスペルは確か……『scissors』だったっけ?

 何文字だろこれ……。2、4、6……8!?


「わかったぁぁぁ!」


 そうだ。なんで切り裂きジャックの話をしたのかって1文がその先に書いてあるじゃないか。

 おまるさんの情報で、切り裂きジャックの犯人は理髪師とか言ってなかっただろうか。理髪師とはつまり、現代で言う所の床屋さんや理容師と呼ばれる人たちの事だ。その人達の仕事道具は……


「ちょ、キリスナイス! 今すぐハサミ探して! ほら早く!」

「は、はぁ……? あ、いえ、分かりました!」


 困惑しながらもそう言ってすぐに全体チャットにも協力を要請しだしたキリスに少しだけ感心しつつ、私は神崎さんに電話をかけた。

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