第233話 全能神の不在
今回からしばらくミミミさん視点でのお話になります。
さて、どうしたものか……。
ネクラが2人の鬼に追われていると全体チャットに投下した時、チームの頭脳派でもあるミミミ、サカキ、神崎の3人はうーんと同時に首をひねった。
この脱出マップは、子供がマップから脱出するのを防ぐだけでも最悪勝利を掴めるので、謎解きの肝になるネクラを時間の無駄覚悟で追いかけて考える時間を与えないというのは賢い選択だ。
実際、テレビ局のマップではほとんどの謎を彼が数秒で解いていたので時間に余裕をもって作戦を遂行できたのだから。
(不味いわね……。ネクラさんがいないと、このマップの謎解きはかなりしんどい……)
偶然図書館に生まれ、そこから切り裂きジャックの事件に関する資料を探していたミミミは、内心少しばかり焦っていた。
無論自分だって多少謎解きの自信はあるし、最初にこのマップで戦った時はネクラに遅れる事30分というかなり微妙なタイミングで答えに辿り着いた。なので、彼無しでも解けないレベルの謎では無い事は証明されているのだが……。
「どう、ありそう?」
「いや、資料とかそういったもんはここにはなさそうっすね。あるのは物語とか伝記系の書物ばっかっす」
「そうよね……」
偶然か必然か、同じ図書館内で生まれた現実世界でも部下として働いてくれているキリスにも調べてもらっていたのだが、やはり資料の類はここには無いらしい。
一応念のためという事で書斎なんかについても、見つけ次第資料がないかどうか探してもらっているのだが、そっちの方も成果は望めないだろう。
「ささや……ミミミさん。どうします? ネクラさんが追われてるってなると、俺らだけで謎解きしなきゃなんねぇっすけど……」
「……まぁ解けない事は無いんだろうけどさ? かなり厳しいものになるってのは間違いないだろうね」
うっかり現実の癖で本名が飛び出しそうになっていた部下をジト目で睨みつつ、ミミミはその頭脳を必死でフル回転させる。
無論、このゲームはネクラを中心に設計されている訳では無いのであの人じゃないと謎解きが出来ないなんてことは無い。
ただ、あの人にとっては数秒で解けるような問題でも、私達にとってはそうじゃないのだ。
ネクラには劣るまでも、ライやおまるなど博識なメンバーはいるし、その人達もネクラが追われていると全体チャットで報告して来てからは知恵を必死に振り絞っている。
それでも、サカキと神崎含め、未だ謎の答えが半分も分からず次のヒントの時間を迎えようとしていた。
「一旦私以外の子の意見も聞いた方がよさそうね。ネクラさんを2人がかりで追ってるって事は、相手はこっちを捜索するのを半ば諦めて、このマップから出さない方向にシフトしたんだろうし……」
「っすね」
念のため電話中に鬼に見つかっても良いように、ネクラと同じく逃げる設定にしているはずのサカキに電話をかけたミミミは、ワンコールでブチ切られ、その直後に「僕も追われてます」と全てひらがなで打たれたチャットが流れてきたことで全てを悟った。
つまり、相手はこちらが取り得る作戦を全て分かったうえで謎解きの肝となるだろう人物を的確に潰しに来ているという事だ。
ここで神崎さんや私を追ってこないのはそもそも姿が見つからないという事もあるだろうが、元プロの司令塔であるサカキさんは相手も一番に警戒する位置だということだ。
(あの人は1人で追ってたら連絡する隙くらいありそうだしね)
こうなると、ネクラさんの方を1人で追わずに2人で追っているというのも上手い。
あの人は1人の鬼を相手にする程度では同時に謎解きくらいは出来るし、なんなら平気で味方に指示を出しかねない。
そんな事をされるくらいなら、最初から2人……多くて3人で追うのがベストだろう。
「神崎さん、お疲れ様ですミミミです。謎、どうにかなりそうですか?」
しょうがないので、電話したことで彼女が確保されたら後で詫びようと神崎さんに電話をかける。すると、彼女はいつものように朗らかな声で「どうにもなりません~」と言ってくれる。
大人の女性のはずなのにホワホワしているというか、和むというか、そんな感じの人だけど、もう慣れてしまったのでそこはスルーして本題に入る。
「サカキさんとネクラさんが封じられてるので、今回はあの人達に頼れません。もうすぐ2つ目のヒントが出るはずなので、一緒に知恵を絞りませんか?」
「そう言われると思って、ネクラさんが追われ始めた頃からライちゃんと合流しようと個人チャットの方でやり取りしてたんですよ~。今隣で、一生懸命頭を悩ませてくれてます」
「流石です。ライちゃんも、今のところはなにもって感じですか?」
「ですねぇ~。おまるちゃんの方も、まだ何も分かんないって言ってました~」
ヒントが配られて数分で多くのの事が分かったのは良かったけれど、相変わらず4つの数字の意味と切り裂きジャックが何を意味しているのか全然分かっていないのだ。
幸いにもあと数分で2つ目のヒントが出るはずなので、そこで何か掴めることを期待するほかないのだが……無理だったら、ここで勝ちを拾うのはかなり絶望に近くなる。
「ネクラさん……はともかくとして、サカキさんは3つ目のヒントが出るまでには捕まっちゃうでしょうからね。そうなれば、ネクラさんの負担が増えるか、私かミミミさんの方に鬼が行くかのどっちかですね」
「あの、お兄ちゃんが捕まらない前提で話してるのはなんでなんですか……? いや、まぁ私もそう思いますけど……」
「3人に追われてるならまだしも、2人なら能力なしで40分ちょいは稼ぎそうですよね、あの人」
子供と鬼の運動性能には差があるので、両者ともに足の速さを最速にしていた場合でも徐々に距離は縮まっていく。なので、本来は曲がり角やマップの高低差を利用して時間を稼ぐのだ。
それで、相手の攻撃が届く距離になれば攻撃を避ける、避けないの駆け引きが生まれ、そこでさらに数秒稼ぎ、普通の子供は鬼に捕まる。
だがネクラさんに限ってはその限りでは無いのだ。
マイさんが相手ならまだしも、その他の鬼には彼女ほどのプレイヤースキルが備わっていないのを良いことに、曲がり角やマップの高低差の使い方が上手すぎるせいでまったくと言っていいほど距離が縮まらないのだ。
それに加え、もし加速などで無理やり追いついたとしても駆け引きが異常なほど上手いので、結局攻撃を当てられずにまた距離を離される。
正直、どうやったらそんなプレイヤースキルが身につくのかと言いたいほどだ。
「あの人に呆れるのは今は止しましょう。前回に習えば、2つ目や3つ目のヒントはそこまで難しくない傾向にある……というか、1個目のヒントの補足のような感じで出題されるはずなので、あの人がいなくてもなんとかなるでしょう」
「そう信じたいですね~。あ、言ってたら来たみたいですよ」
私は携帯を耳に当てているのでキリスにその画面を見せてもらいつつ、電話の向こうで同じくライに画面を見せてもらっているはずの神崎さんと共にうーんと唸る。
どうやらネクラさんの推理が当たっていたらしく、1つ目のヒントが言いたい事は切り裂きジャックの事件だったらしい。
そして、やはり2つ目のヒントは、1つ目のヒントを補足する形で出題されるようだ。
「……分かります?」
「サッパリですねぇ……」
電話の向こうから聞こえてきた苦笑に、私は改めてネクラさんの凄さを再確認した。
今度生放送で謎解きゲームでもやってもらおう……。少なくとも、そのリクエストくらいは匿名で送ってみようと心に誓った。
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やる気が、出ます( *´ `*)




