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第232話 全能神の憂鬱な推理

 脱出マップというより、謎解きマップになりつつあるこのステージだけど、そんなことを言っても仕方ないので真面目に鍵のヒントに目を通す。

 だけど、それは僕が思っていた通りちょっとだけ内容が怖く、それでいて前回のように訳の分からない英語の長文のようなもの……では無かったけれど、それでもかなり長い物だった。


『彼のシャーロックホームズは、19世紀後半に活躍した小説家の創作した推理小説の主人公だ。

 ところで、19世紀後半の1888年には凄惨な事件が起きたと言われているが、結局犯人が捕まる事なく迷宮入りしたという。ホームズがその場にいれば、解決してくれただろうか……。

 それは誰にも分からないが、ともかく、それを題材にした映画があったような気がするのだが、それはいったい何だっただろうか。数日前に見返したのだが、もう忘れてしまうなんて情けない限りだ。

 そうそう、これはついでに調べておいてほしいんだが……101と104、106と109とは、一体何を表している数字なのか……。私は忘れてしまったよ』


 あのさ、これを作成した人は僕らに何を求めてる訳?と、心の底から言いたいね。


 もちろん推理小説が好きな僕は、読んだことは無いけれどシャーロックホームズシリーズについては知ってるし、問題文にある19世紀後半に起きたとされる事件についても、あれだろうなってのは分かる。

 でもさ、それがなんで鍵のヒントになるのか。それが全然分からないんですけども……。


「だいたい、ホームズは架空の探偵なのになんで実際の事件現場に居たら……なんて言えるのさ。意味が分からないんですけど……」


 思わずそうぼやいてしまうが、ここでそんなことを言っても仕方がない。

 この問題を作ったのがもしもAIではなく人間だったとすれば、その人は重度のミステリーオタクか、現実に友達がいなくて陰湿な事ばかり考えているに違いない。

 なぜって? 性格が悪すぎるから。


 だって、この屋敷にはシアタールームのような映画を見れる部屋は存在していないし、テープやDVDの類が設置されている部屋も無い。どころか、テレビらしき物すらここにはないのだ。映画云々の下りは果たして必要だったのか……。

 それに、最後の4つの数字の意味もちょっと意味が分からない。


「ネクラさん、19世紀後半に起きた凄惨な事件って何のことですか?」

「4つの数字の意味も理解不能ですね~」

「ついでに調べておいてほしいって事は、次のヒントはこの4つの数字に関係する事なのかな?」


 まるでネットの掲示板かのように次々とヒントについての疑問や質問が全体チャットに投下されていく。

 初戦のようなマヌケは晒せないので周囲を警戒しつつ、それに丁寧に1つずつ答えて行こう……としたところで、代わりにおまるさんやミミミさんが、自分が分かるところは答えてくれる。


「香夜さん、19世紀後半に起きた事件で迷宮入りしている。それでいてかなり有名な事件と言えば切り裂きジャックの事件だと思いますよ!」

「4つの数字についてもネクラさんはそんなにすぐには分からないと思います。もう少し考える時間をあげてください」


 ミミミさんの言う通り、僕はそんな短時間で謎を解ける程超人ではない。少なくとも、なんの脈絡もない4つの数字の意味を瞬時に答えられるような超能力は持ってないのだ。


 これがなんらかの法則性があったり、前や後ろの文章に考察に至る何かがあればその限りでは無いのだが、まるで母親が子供におつかいを頼むような文面で書かれているのではお手上げだ。


 一応問題文が何を言いたいのかは半分くらいなら分かるので、その事だけでも伝えておこうと現時点で分かる事を纏めて全体チャットに投下する。


「シャーロックホームズは1887年~1927年頃に発表された作品で、彼が住んでいたとされる場所はイギリスのロンドンだったはずです。で、おまるさんの言う切り裂きジャックの事件も、起きたのはイギリスのロンドンとかじゃなかったかなとおぼろげながら記憶しています。ホームズの下りは、多分それを補足するためで、そこまで気にする必要はないかと」


 19世紀に起きた凄惨な事件で、それも未解決の物となればかなり数は絞られるまでも、一番有名なのが切り裂きジャックの事件というだけで、探せば他にもあるかもしれない。


 なので、この問題の制作者は、正解が『切り裂きジャック』ですよというのを強調する為に、事件が起きた場所を拠点としていた世界的な探偵を引き合いに出したのだろう。

 そう考えれば、映画の下りも恐らくそれを強調するための物なのでこの際分からなくともさして問題はないはずだ。


「で、次の4つの数字についてですが、ミミミさんの言う通り僕にもまだ分かりません。ただ、図書室にいる方はそこに切り裂きジャックに関する資料があるかどうか探してみてください。前回と違って鬼がそこら辺をうろついていると思いますので、くれぐれも注意してください」


 書物が並んでいる場所に未解決事件の資料があるはずがないけれど、一応探してもらうだけ探してもらう。

 仮にそれが無駄に終わったとしても、そこに資料が無いという事は、切り裂きジャックの事件について改めて調べろ。みたいな意味の分からない物ではないという事が分かるしね。


 それにしても、まったく関連性のない4つの数字が何を意味しているのか……。それが分からない限り、今回はカギがどこにあるのか、それがなんなのか分かりそうにない。

 普段ならその4つに共通するものをパッと上げていくのだけど、そもそもそれが分からないのでまったく手の打ちようが無いのだ。


「思うけどさぁ……ここ最近謎解きが複雑化して来てない……? これじゃ鬼ごっこってより謎解きゲームじゃん」


 確か子供向けのゲームにそんな謎解きゲームがあったなぁと思い出しつつ、前からちょっとだけやってみたいと思ってたんだよね……みたいなくだらないことを考えそうになるほど、このマップでの謎解きは難易度が高い。


 大会が終わったら参加者全員に脱出マップや新ステージについてのアンケートがなされるらしいけど、そこには絶対こう書くべきだ。


『全体の評価は50点だからもう少し改良しろ。特に、逆転要素のさらなる追加と各ステージに配置された謎の難易度緩和を要求する』ってね……。


 いや、僕からしてみれば楽しいなぁくらいで終わるんだけど、このゲームをプレイしている人が全員僕のように謎を解くのが得意なわけじゃないのだから。


 それに、もしもこのマップが今後ランクマッチに実装されるとなれば、確実に暴動が起きるだろう。

 さっきのテレビ局もそうだけど、謎解きが難しすぎて連携が取れない状況じゃ、このマップから脱出するのはかなり至難の業だ。

 今のままのバランスだと、ランクマッチで子供が勝てる可能性なんて0に等しいし、謎が緩和されたとしても初見殺し性能が高いテレビ局なんかには絶対対策必須だろう。


(はぁ……また30分待機かなぁ……)


 この状況下では何をすることも出来ないので、図書室で資料が見つからなければ次のヒントが出るまで派手な動きは出来ない。

 幸いにも相手に索敵のスキルを持っている人はいなそうなのでまだ1人しか捕まっていないけれど、それもいつまで続くか分からない。


 今回のマップでは僕が主軸になって謎を解かないといけないので、相手が3人……ないしは2人で追いかけて謎解きの時間を与えてくれない。みたいな作戦を取られるだけでかなり嫌だ。


(って、待てよ? 僕が嫌って感じるって事は……)


 チラッと下の階段をのぞき込むと、ちょうど下に着いたらしい携帯を耳に当てた鬼2人がニコッと微笑んだ。

 こんな状況でなければ可愛らしい女の子のアバターがそんなことをしてきている状況に思わずビクッとなってただろうけど……


「知ってた! ですよねぇぇぇ!」


 それから、僕とその2人の鬼ごっこが始まった。

今回謎解きにはかなり話数を使いますので、よろしければ一緒に考えてみてくださいm(_ _)m

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