第231話 全能神の保険
貴族の屋敷に生まれ、以前となんら変わりないルール説明が送られてきた事で一応ホッと胸をなでおろし、自分の現在地がどのあたりなのか大体検討を付ける。
以前のマップから大々的に改修がされている……もしくは屋敷そのものが違うとかであれば少し困った事態になるところだったけれど、どうやらそうでは無いらしい。
僕がいるのは2階の階段近くで、左手に進めば前回鍵を発見したかなり大きめの図書室が現れてくれることだろう。
それを証明するかのように、図書館に生まれたという報告が2件……いや、ちょうど3件目が来たので3人がそこにいるらしい。
ここからやるべきことは、まず本来の脱出口の場所の当たりをつけ、相手の鬼がどうしてくるかを見極める事だ。まぁ、ハイネスさんと同じくらい賢い相手の指揮官が、前に戦ったプロチームのようにこちらを自由に行動させてくれるはずがないけれど、このマップが初見なのであれば最初の数分間はルールの確認で忙しくなるはずだ。
『こっちも今のうちに動きましょう。カギのヒントが出るまでは、各自で脱出口を探しつつ、必要最低限の移動で』
今回僕らが挑むのは、僕を含め数人が逃げるのに特化した編成で、残りの半数以上の人が隠れる設定だ。まぁつまるところ、僕らが囮役のような役割を果たすのだ。
この屋敷というマップは、かなり隠れる場所が多くてそれに特化させた場合は索敵のスキルが無ければまず見つからない。
これは、1回しかこのマップで戦った事が無いので、理論上そうだろうという予測の元だけど、たぶん間違ってない。
かなり大きめの屋敷に幼稚園児くらいの子供がいて、しかもその全員がこの国でもトップクラスに賢くて、本気で隠れているような物だ。ヒントが無ければ探しても見つかる可能性はかなり低い。
その代わり逃げるのはかなりしんどいので、この屋敷から脱出する際に重要なのは、その時何人生き残っているかという点だ。
仮に別の脱出口が無いパターンがあったとして、今回はそっちに当たってしまった場合、恐らくだけど鬼が待ち構えているだろうその脱出口に全員で突撃する……事になるかもしれない。
その時、生き残っている人が多い方がこちらの有利に働くし、勝率もかなり高くなる。
僕と数人が囮役を担っているのは、少しでも隠れる人達の負担を減らす為と、相手が索敵のスキルを持ち込んできた場合の保険だ。
全員隠れる編成にして相手がそれを読んで索敵のスキルを持ってきた場合は何もできずに負けになる可能性がある。
いくら僕でも、隠れる編成でガッツリ追われてしまえば逃げ切れるわけがない。運動性能の差で、それは絶対に不可能だ。
(最悪別の脱出口があるパターンなら、僕1人が残っていればなんとか……)
そういう思惑が無かったかと言えば噓になる。
最悪に最悪を重ね、カギを入手した時には僕1人になっていましたという状況も、別になくは無いのだ。
その場合、僕が隠れるのに全特化している設定であれば、多分だけど勝ちに行けない。
その代わり、逃げるのに特化した物なら多分だけどなんとかなる。
これ以上ないほど発動してほしくない保険だけど、万が一のことも考えたうえで作戦を立てるのが一流の指揮官という物だ。
前に読んだ作品で、暗殺者がターゲットを殺す時に立てる作戦は複数あると見た事がある。
本来の作戦が上手くいく事なんて稀だから、もしもの時の為に無数に予備の作戦を考えるそうだ。やっている事は、それとなにも変わらない。
本命の作戦がダメでもリカバリーが可能な作戦を保険として用意しておき、その保険がダメでもさらに別の保険を……という感じで策を練っておくのだ。
まぁ、この保険うんたらっていう考え方も、調整の時に散々知恵比べをしたハイネスさんから学んだのであの人に助けられてるんですけども……。
そうこうしているうちに20分が経過し、かなり有力な情報が黒猫さんから出てきたのでその時点で脱出口の捜索を止めてもらう。
鬼の目撃情報も当然ながら上がってきているけれど、僕を含め逃げる設定にしている人達は追っても数十分稼がれるのがほとんど確定しているような面々だ。
ルールを読んでも分かるように、僕らは圧倒的に不利な立場にあるので、最初の1時間は無理してそんな人達は追ってこない。
相手の鬼が廊下で軽く会釈してきたのには……少しだけびっくりしたけども。
それで、黒猫さんからもたらされた情報とは、以前このマップで戦った時に脱出口があった場所にそれがなく、学校の音楽室のようになっているという物だった。
なんでそれが有力な情報か。
黒猫さんは、ゲーム開始時から階段を上り下りていないのだ。
まぁつまるところ、今回の脱出口は1階にあるか、そもそも最初から脱出口が存在せず、僕らが3つ目の謎を解いたタイミングで初めて場所が分かる類なのかのどちらかだ。
「なので、とりあえず最初のヒントが出るまでは待機で。瞬間移動を持っている方も、無理して1階に行こうとしなくて大丈夫です」
このマップでは、極論カギを入手しなければ脱出口から外に出られない。そして、カギの入手には1つ目のヒントを解いただけでは無理だという事くらい、前回の戦いで学んでいる。
なら、今焦って隠れるのに特化した人や囮部隊の人を1階に送り込んで捕まるリスクを取るよりは、ある程度時間が経過してから捜索させた方が効率的だ。
「鬼に追われて1階に行った場合や、無敵発動時に1階に行った場合にちょろっと捜索するのはもちろん構いませんが、それも必要最低限で大丈夫です。本格的な指示は、最初のヒントを解き終わったタイミングで改めて」
そう全体チャットに入力し、メンバーから次々に了解の意を示す返信が送られてくる。
前回の訳の分かんない英語の長文みたいなヒントじゃ無ければいいなぁと思いつつ、さっきの脱出マップでの謎解きを思い出す。
クイズ形式のようになっているというのは予想の通りだったのだけど、日本予選以前に試練で出されていたような怖い内容の物が一切なかったのが少しだけ気になる。
(考えすぎ……かな)
どこかでその分のツケ……つまり、滅茶苦茶怖い内容の物が来そうな予感がするけど、多分気のせいだ。
たった今例のカギのヒントが送られてきて、その最初の文面に「彼のシャーロックホームズは……」って書かれてるけど、多分気のせいだよ、うん……。
その予想が見事に外れたことを知ったのは、それが送られてきて僕が現実逃避を止めた3分後だった。
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やる気が、出ます( *´ `*)




