第229話 軍師の手中
今週は土日もいつもの時間に更新します。
よろしくお願いしますm(_ _)m
鬼有利のマップで、階段に鬼を配置されれば各階の移動がかなり困難になるとなった時、大抵のプレイヤーはどうするだろうか。答えは、子供の全員に瞬間移動か無敵を採用させる、だ。
私だって事前に戦う場所が海底神殿だと分かっていれば必ずそう指示を出すし、実際にネクラさんだって最初に思い浮かべるのはそうだろう。
だが、今回の作戦は相手がそうしてくるという前提の下で建てた作戦だ。
私が調整の為にネクラさんと何度も戦って無駄に時間を潰し、その圧倒的な頭脳に劣等感を抱いていたと思っているなら大間違いだ。それなりの対策だって思いついているし、あの人だってそれは多分同じだ。
すなわち、相手の一歩先の行動をしないと、ネクラさんには勝てないということだ。
ネクラさんほどになると多分もう何手も先を読んでいるんだろうけど、私がするべきはそんな劣等感を増すような事じゃ無い。ネクラさんならどうしてくるのかを推理し、それに対抗する策を編み出していけばいいのだ。
相手はネクラさんであってネクラさんじゃない。
ネクラさんみたいに賢いけれど、ネクラさんほど対応能力は高くないし反応速度も速くない。言ってしまえば、そこがあの人たちの弱点だ。
ネクラさんは、私が相手であれば瞬間移動と無敵は必要最低限にしたうえで、全力で隠れる編成にしてこの勝負を挑んでくる。
なぜなら、今回のように飛翔によってワンフロアを実質的に占拠され、その他のフロアを固められれば終わると分かっているからだ。
そして、相手が私となればそのワンフロアを占拠するのは十中八九マイさんだ。
なら、飛翔相手に逃げる事が無意味と分かっているあの人は、そもそもその索敵を逃れるために隠れる編成で来るはずだ。
そして、私は相手がネクラさんならそこまで読んで、シラユキさんとミナモンさんに索敵のスキルを持ち込んでもらう。そのうえで、マイさんには飛翔で同じことをしてもらうだけだ。
ただ、相手はそこまで考えてこない……いや、考えが回らないのだ。なにせ、私に……いや、ネクラさんに勝てて有頂天になってるのはずだから。
油断というのは天才を凡夫に変える。
いや、まぁ油断してなくともここまで短時間で思考できるのはあの人だけだろうけどさ……。
そんなわけで、私は今回、相手がネクラさんだとは思わず、普通のプレイヤーを相手にしている感覚で作戦を立て、実行に移した。
仮にネクラさんがこっちの策を見破れずに相手と同じ設定で来たとしても、あの人なら私を2階で見かけて1階に2人の鬼がいる時点で大体察するはずだ。
その時点でどうするか……
(1階と2階にいる瞬間移動を持ってる人を、一番手薄な3階に集めて時間を稼ぐ……。その後、飛翔を無駄うちさせた後に3階にいる人を数人犠牲にして無理やり階段を下りてくる……。うん、間違いないね)
ネクラさんなら、間違いなくこの作戦を取る。
理由は、3階に全員を集めてもそれを察するのは簡単なので早々に鬼が3階に集まる。その時、能力を持たない人が一か所に集まっていれば袋のネズミになるだけだ。
なら、ある程度の犠牲を割り切って全員で特攻を仕掛けつつ、再び各階に散らばる作戦を取るはずだ。
この作戦のメリットは、飛翔を無駄うちさせた後に盤面を数人捕まっただけのフラットな状態に戻せることにある。
飛翔で捕まる人数と階段に特攻して捕まる人数を比べれば確実に後者の方が少なく済むし、何階に何人いるのかを再び索敵させる時間が作れるのも大きい。
(あの人なら絶対にすぐ実行に移すけど……無理だよね、あなたには)
私が相手に動き出しますよーとわざわざ伝えたのは、この行動を取るかどうかの最終確認だ。
それでも、相手はどうしようと迷っている様子だったのでサッサと作戦に移る事にしたのだ。
まぁ、ほぼ無理だとは思ってたけど、保険というのは大事だからね。
ちなみに、仮に相手が今言ったような作戦を取ってきた場合、それは飛翔の能力を使う前であれば十分にリカバリーが可能だ。
なので、仮にネクラさんがこれをするとしても相手が飛翔を使ったタイミングでするだろうけど……こんな短時間でそんな(以下略)
「油断大敵ってね~」
ボソッと呟いた次の瞬間、2階に集まっているであろう子供の携帯が猛烈な勢いで通知を鳴らす。
もちろん聴覚を最大限有効活用できるよう設定している私だから聞こえるんだけど、それだけで私の作戦はほぼ成功と言えた。
これまでの2回、私は特にいい所も無く戦いを終えていた。
1回目は辛うじて相手に勝てたけど、それはマイさんの力があってこそだし、2回目は何もできずに負けた。
正直、相手は私……いや、鬼側の指揮官を若干舐めているだろう。まぁ、気持ちは分からんでもないけど……。
(もう、さっきまでの情けない私じゃないんだよ……。今後一切、あんな情けない姿を晒すわけにはいかないんだから)
今回で、相手は私の本当の実力を思い知ったはずだ。多分、次回からはネクラさんを相手にする気分で挑んでくるはずだ。
そうなれば今回みたいな甘っちょろい作戦は通じなくなるだろう。
でも、それで良い。弱い人に無双する程度の指揮官であれば、あの人の隣に胸を張って立っていられない。強い人相手にいい勝負する程度の指揮官でもダメだ。
強い人相手に何もさせず、完封勝利する指揮官であってこそ、あの人の隣に胸を張って立つことが許される。
いつか、ネクラさんと結婚するとかなった時、相手は誰だと言われるだろう。
その相手が『弱い奴相手に無双して天狗になってる指揮官』と『ネクラさんに勝るとも劣らない世界最高の指揮官』では周りを納得させる説得力が違う。
世界最高のゲーマーと付き合い、そのお嫁さんにしてもらうには生半可な覚悟じゃ……って!
「私、何考えてんの!? け、結婚とか……いや、違くて! いや、違くないけど……したいけど! ねぇ、違うじゃん! そうじゃなくてその……ほら、もしもだよ!? もしも、する事になったらって話で!!」
誰に聞かれている訳でもないし、そもそも頭の中で考えていただけなのに必死に弁明し、後にネクラさんに鬼側の準決勝の視点を見られて悶絶する事になるのだけど、この時の私はまだ知らない。
いつもご愛読ありがとうございます。
皆様のおかげでいつも楽しくお話を書かせていただいてますm(_ _)m
拙い文章かもしれませんが、今後ともお付き合いよろしくお願いします(*`・ω・)ゞ




