第226話 第2試合 結果
日本予選準決勝の第二試合が終わってまた部室のような控室に戻ってきた僕らは、誰からともなく疲労に満ちたため息を吐いた。
結果から言うと、僕達子供側もハイネスさん達率いる鬼側も敗北した。つまり、現時点での勝敗は1勝1敗になったという事だ。
僕らは最後の決死の作戦が通じなかったせいで負けて、ハイネスさん達はそもそも子供をほとんど捕まえられず、ゲーム終盤になってそのからくりに気付いたせいで負けた。
まぁ相手が2階へ辿り着いたのはゲーム終了5分前だったらしいのでまだ勝てる可能性はあったみたいだけど、なにせ残っていた数が多すぎたせいで対応できなかったらしい。
滅茶苦茶に凹んでいるハイネスさんはかなり珍しい気もするけど、僕らも敗北してるんだから別段責める気は無い。というか、まだ1敗目なんだし、僕らが勝っていたとしても別に責める気は無かった。
「でも……もう少しうまくやっていれば勝てたかもしれないんです……。ネクラさんみたいに非常階段の存在に気付いてなかったのは私も相手も同じでした。私がもう少し早く相手の思惑に気付いていれば……」
「僕の方だって、それに気付いたのはゲームが始まって1時間ちょっとしてからでしたよ。そう気を落とさないでください」
「はい……。すみません……」
ハイネスさんが何事も重く受け止めてしまうのは前からなので、正直この場はライあたりに任せたい。
ただ、春香も春香で自分のせいで作戦が失敗したと思い込んでいる節があるので、今は気軽に話しかけたくはない。
ライが相手に捕捉され、非常階段組の方の指揮を任せていたというのもあり、今回の作戦が上手くいかなかったことに責任を感じているらしい。
正直僕の見通しが甘かったせいで作戦が失敗してしまったので、春香が責任を感じる必要なんて全然ないのだが……。
「今回の敗北は、相手の策を見抜けなかった僕に責任があると思うんですけどね……。指揮官やってるのに情けないです」
「ネクラさんはその……あくまで想像ですけど、各所の謎解きに関して多大な貢献をしてるはずです。なら、何でもかんでもネクラさんに頼りきりになるのは良くないって思ってるんじゃないでしょうか……。実際、私もライの立場ならそう思いますから……」
「そういうもの、なんですかね……」
僕はそういう人の気持ちがあまりよく分からない。
指揮官がいなくて自分のせいで負けたというのなら、負けた責任を負う気持ちも分かる。
でも、指揮官の人がいて、その人が自分のせいで負けたと言っていれば、僕なら「そうなのか」で気持ちの整理を付ける。
自分から「お前のせいだ!」って言うのは気が引けるけど、本人がそう言ってるなら自分の精神の安定のためにもそうする。
まぁこのチームのメンバーで学生なのは僕を含めて5人くらいだったはずなので、大人な人は責任感が強いって事なんだろうか……。
いや、凹んでるのはどっちも学生の人だけども……。
「あ、運営から情報が来ましたよ。相手が拒否したマップは……ショッピングモール? これまた意外ですね。あそこ、意外と鬼と子供のバランス良い気がしますけど……」
「前に、ネクラさんがプロの人相手にかなり時間を稼いだので、それを危惧したんじゃないですか? ネクラさんじゃなくとも、あそこ、逃げるのが上手い人だと無限に時間稼がれますし……」
まだがっくりと肩を落としているハイネスさんを何とか元気づけたいけど、僕にはそんなコミュ力はない。
僕らの関係も、まだ公に公表している訳では無い。だから、チームメイト以上の態度で接するわけにもいかないので、どうした物か一瞬考える。
「ハイネスさん、こういう時、なんて言ったら良いのか僕には分かりません。ただ一つだけ言えるのは……あなたは、僕以上の指揮官だって事です。僕に出来ない事も、あなたなら出来る、そう思います。脱出マップじゃもう負けるつもりはありませんけど……こういうマップじゃ、僕らは強制試練の関係で即負けになり得ます。なので、言っておきますね」
「……?」
滅茶苦茶ぎこちない気もするし、言葉が全然足りない気もする。でもそこは、コミュ障故に仕方がない所なので今日のところは見逃してもらおう。
大体、僕はこんなカッコつけてるような事を言うのはあまり好きじゃないし、女の子じゃなくともこんなことを誰かに言った事なんて一度も無い。
でも、この先勝ち上がっていくためには、どうしても彼女の力が必要だ。
「信じてます、ハイネスさん。世界一頼りになる指揮官さんは、これからも僕らの事を助けてくれるって」
この言葉が正解だったかどうかは分からないし、結局僕がステージを選択した後も顔を上げてくれることは無かったのでハイネスさんの心が動いたのかすら分からない。
でも、一つだけ確かな事はある。
(もう、負けられない……。これ以上、僕のせいで誰かに責任を負わせるわけにはいかない……)
僕は、指揮官を採用している試合で子供が負ければ、それはその指揮官が悪いと思っている。
じゃあ、鬼が負けた時は鬼の指揮官のせいなのかと言われると、100%そうでは無いと思う。
鬼は相手の策を上回り、自分達のプレイヤースキルが相手より勝っている事で初めて勝ちをもぎ取れる。そのバランスは時に曖昧になるけれど、基本的にはそうだ。
ハイネスさんが今回負けたのは、相手の策を上回れなかったのもそうだけど、何より初見のマップのせいでプレイヤースキルもくそも無かったからだ。
マイさんとミナモンさんが9割がた相手を捕まえてくれるのが常だけど、逆を言えば、その2人の動きを封じられればハイネスさんが相手の策を圧倒的に上回らないとしんどいはずだ。
なら、今まで助けられてきた分、今度からは僕ら子供側が勝ち続けて鬼をサポートするべきだろう。
それに、今回のライみたく、僕のせいで負けたのに、自分のせいで……そう落ち込んでしまう人を、今後一切出したくない。
その為にも、今日と次の決勝戦くらいは、今まで以上に気合を入れて、相手の策を何手も読み切るんだ。その後は、数か月単位で休みがあるはずなんだから。
(よし、行こう……)
ステージを選択して運営に伝えた数十秒後、僕らはいつもの待機画面へ転送された。
もう、絶対に負けは許されない。これ以上、ハイネスさんや他の誰かに負担を強いりたくはないから。
次のステージは一般的には鬼有利とされているマップである海底神殿だ。
次回からしばらくハイネス視点でのお話になります




