第222話 事態の把握
おまるさんが短時間のうちに2回も不意打ちで捕まった事に関してサカキさんと一緒にあれこれ話している時に、僕らも綺麗に不意打ちで捕まった。そんなの、笑い話にもならない。
ここで無敵が無ければ僕は捕まっていたことになるし、実際配信のコメント欄は今頃大盛り上がりになっているだろう。多分……。
「……見ました、サカキさん?」
「相手の鬼ですよね? 見てないんですよ、それが……」
「僕も携帯見て考え事してたので見てないんですよね……」
何が起こってるのか、冗談抜きで何も分からない。
こんなことは、ハイネスさんと初めて会った頃にシステムの穴を付いた索敵を利用して僕らをボコボコにした時以来だ。
それくらい、何が起こったのか一切理解不能だった。
僕が考案した飛翔による確保だったとしても、室内で低空飛行をして相手を捕まえるなんてことは容易じゃないし、そもそもあれについては誰も気付いていないはずだ。
いや、仮に気付いていたとすれば、さっきの無人島でやってこなかった意味が分からないので、気付いていないと結論付ける方が自然だ。
そしてここで考えるべきは、5階でおまるさんを捕まえた鬼と9階でおまるさんを捕まえた鬼がいるという事実だ。
ウルフさんもおまるさんと同じで5階と6階のどちらかにいたはずなので、捕まった状況としては僕らとまったく同じだろう。
(それにしても……ここまで誰も相手の姿を見てないってなんでだ?)
いくら相手が僕の想像の上を行く設定を見つけていたのだとしても、それで相手の姿が見えないというのは少し考えにくい。
僕だけならまだうっかりで見逃しましたというのも無くはない話だけど、比較的しっかりしているサカキさんやおまるさん、ウルフさんまで見逃したとなると、そもそもの前提を改めなければならない。
鬼側には、子供のような透明化や幻影のような能力は無いので、視認できないということは絶対にないはずだ。
飛翔はさっき述べた理由から除外して良いとして、それ以外の方法で姿を消せる方法なんてあるのか。
「偶然……ってのは、流石に上手くいきすぎですか?」
「無いですね。現に5階に降りた面々が、次々に無敵を発動させて7階や8階に戻ってきてますし」
そう言いながらサカキさんに携帯を見せると、個別チャットに無敵を使用したという報告がずらーっと並んでいる事に驚いたのか、少しだけげんなりする。
気持ちは分かる。なにせ、その全員が僕らと同じく鬼の姿を認識していないのだから。
「発想の転換が必要なのかもしれないですね……。ネクラさんやハイネスさんが考えているような論理的な作戦ではなく、もっと単純な作戦を取っている可能性があるって事じゃ無いですか?」
サカキさんの言葉に、一理あると僕も改めて頭の中を整理してみる。
そもそも、失念していたけれど相手がこのマップを選んだことには必ず意味があるはずだ。
僕らと同じく初見のマップをやりたくないという思いはあちらにもあるだろうから、1敗している現状、初見のマップをわざわざ選んでくるとは思えない。
なら、このマップを、相手は一度経験していると思った方が良いだろう。
そのうえで、子供か鬼のどちらか(このルールだと恐らく後者)は絶対に勝てるだろうと踏んでの選択のはずだ。
であれば、なぜそう思ったのか、それを考える必要がある。
もちろんこのマップは鬼が断然有利な事に間違いはないけれど、僕が楽に勝たせてくれると思うほど浅はかじゃないはずだ。なら、僕の抵抗も込みで、一番勝てる可能性が高いと踏んだマップがここだという事だ。
僕らが初見であろうという予想から投げてきているという事も、そう考えてみれば分かる。
「……? なぜですか? 僕ら、配信卓では一度も脱出マップで戦ってるところ見せてないですよね?」
「無人島を拒否したじゃないですか? でもここ、ハイネスさんの話を聞く限りだとあそこよりも有利不利が露骨なんですよ。このステージのこのルールを知っていれば、僕とハイネスさんは間違いなく無人島よりここを優先して拒否してます。それをしなかったという事は、このマップの性質を知らないって事になります」
相手の指揮官の事だ。僕らが無人島を拒否した理由もある程度推測はついているだろう。
でも、こんな子供がほぼ無理ゲーというマップを拒否しないのは流石におかしいという思考は必ず働くはずだ。
そして、相手が既にこのマップを経験していれば、数秒でその考えに至る。
僕らは、このマップをそもそも知らないと。
事前情報のアドバンテージを存分に生かす為、今回はこのステージを選んだのだろう。
子供側も、僕のような考え方をする指揮官がいるのなら多少の不利は乗り切れるだろうし。
「だから多分、新ルールの項目に書かれてない情報が、まだ何かあるんですよ。それを僕が見落としてるか気付けていないだけで、相手はそれを利用してるんです」
「そうだとして……それは一体何なんですか?」
「いや、それは……」
それが分かれば苦労はしないんだよなぁという愚痴を飲み込み、改めてこのマップのルールについて目を通す。
僕がここに書かれていないと思ったのは、まずテレビ局員の人に聞けば、鬼の情報や子供の情報が得られやすいのではないかという物だ。
なにせ、普段見ない顔やテレビ局にいては不自然極まりない格好をしている人達がそこら辺をうろついているのだ。プログラムと言えど話しかけたら会話は出来るはずなので、それも可能ではないかという物だ。
そして、階段やエレベータなどの各所に設置されている謎は、どちらかと言えばクイズのような簡単な物ではないかという物。
これはマップの不自然さを消すために用いられているもので、実際にその通りだった。
ちょっと難しいクイズ番組なら出題されるだろう物が多く、謎解きというよりはクイズだ。
その他に隠されている物と言えば……
「きっと、誰も鬼の姿を見ていないっていう部分がある種のヒントなんですよね……。僕らの目に留まらないようなものになってるのか、それともまったく新種の方法で捕まえに来てるのか」
「ネクラさんでも、これは流石に瞬時に答えは出せませんか?」
「僕をなんだと思ってるんですか……。流石に無理ですよ。そもそもそんな透明人間みたいなことされ……いや、待てよ……?」
透明人間。それで思い出した。
数年前に読んだミステリーか何かで、ちょうどこんな感じの話が出てきた気がする。
それに、言われてみればここはテレビ局であってそれらしい人がいたとしても不思議ではない。
試しにドラマの撮影をやっているらしいそのスタジオにある“それ”をひょいっと手に持ってみると、まるで実物かのように触る事が出来た。
多分、身に着ける事だって出来るだろう。
(なるほど……。そりゃわからん)
はぁとため息を吐いた僕は、近くでポカーンとしているサカキさんに向かって、笑顔で言った。
「制服を着た人間は透明人間になるって話、御存じないですか?」
そう、謎が解けたのだ。
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やる気が、出ます( *´ `*)




