第214話 日本予選準決勝 初戦
何の問題もなく準々決勝を勝ち抜いた翌日、僕らは準決勝の場に呼ばれていた。
試合の様子を中継する配信の視聴者数は20万人を超えているらしく、僕らの方とは違うもう一方もそれなりの人数を集めているらしい。
正直視聴者数なんて自分が配信をするとき以外は興味ないのでどうでも良いんだけど、ライがなぜか教えてきた。
その理由を尋ねようとしても「自分で考えろ」という返答しかもらえなかったので考える事を辞めた。なぜって? いや、だってどうでも良いもん……。
どれだけの人が僕らの戦いに注目し、その作戦を情報としてその頭にインプットするのかは気になるけれど、出し惜しみをして負けましたなんて無様な事をするつもりはない。
なので、与える情報は必要最低限にしつつも確実に勝利を掴めるよう努力するつもりだ。
肝心の準決勝の相手だけど、意外な事に第二回ネクラ杯優勝のあのチームだった。
チーム名はあの時から変更なしで『Moon light』だ。
ここまでは配信卓に映ることなく順調に勝ち進んできているらしく、もう一方の準決勝では『ネクラさん攻略同盟(本気ver)』という一件危なそうなチームと、都内の企業がスポンサーを務める有名なプロチームが残っていた。
どちらもネクラ杯優勝経験者という事もあってかなり緊張感がある……というか、そんなことある?って思ったね。
(どんな偶然……いや、普通に実力か)
ネクラ杯はそれなりの規模で行われていたという事もあり、そこで優勝経験のある2チームは運だけで勝利を重ねてきている訳では無いだろう。
実際、どちらのチームも実力者揃いで決して油断して良いチームではない。
だからこそ、ハイネスさんも最近は気合が入っていた。
「最初のマップ選択はこっちですけど、どこを選ぶつもりですか?」
「そうですね……。最初に勝ちを拾われると精神的にかなり厳しくなるので、最初は手堅く勝ちをもぎ取りに行きます」
準決勝と決勝は今までの戦いとは違って先に3勝した方の勝ちとなるルールだ。
だけど、最初に勝ちを拾われると精神的な余裕がかなり失われてしまうので、初戦だけはどうしても勝利を収めておきたかった。だからこそ、最初のマップ選択権を貰えたのは幸運だった。
「ハイネスさんから意見が無ければ無人島を選択します。大丈夫ですか?」
「もちろん! 無人島って事は、全員隠れる編成ですか?」
「と、思うじゃないですか。そこを突きます」
ニヤリと僕が笑うと、その一言だけで全てを察したのか「あー」と悪そうな笑みを浮かべる。
ハイネスさんはここら辺も僕が相手なら完璧に読んでくるだろうけど、相手はどうだろうか。
一応相手チームのデータは纏めてチーム全員に共有しているけれど、相手指揮官の考え方の癖については、情報が少なすぎて纏めきれていない。
普段であればどんな考え方をするのかとか、その考え方の癖を完璧に読み切れるけれど、Moon lightは最近作られた新生のチームなので情報があまりないのだ。
「じゃあ皆さん、準決勝頑張りましょう!」
学校の部室のような簡素な待合室で試合が始まる時を今か今かと待っていたチームメイトにそう声をかけ、僕は運営側に選んだマップを伝える。
そこで諸々の操作がなされた直後、いつもの食堂のような待機画面へと移される。
「無人島……。って事は、隠れる設定にすれば良いですか?」
ミミミさんがハイネスさんと同じような事を聞いて来たので、今回の大まかな作戦を伝える。
具体的には、僕らは全員が逃げる設定を使い、全員が瞬間移動を設定するという物だ。
相手は当然、隠れやすいマップという事でハイネスさんやミミミさんが最初に思った通り隠れる編成を警戒してくるはずだ。という事は、1人ないしは2人は索敵のスキルを持ってくるだろう。
全員逃げる編成にしておけばその2人に捕まる事は絶対になくなるし、瞬間移動にすることによってもし相手がこちらの動きを読んできたとしても対応が出来る。
「無敵を誰も設定しないのはなぜです? そちらの方が、動きに制限がかからないと思うのですが……」
「誰かが無敵を設定してしまうと、ある一定の条件が揃ってしまった時に即負けに繋がってしまう可能性があるんです。なので、確かに小回りは利くようになりますけど、負ける可能性を限りなく0にするために無敵は設定しません」
「あ、ある一定の条件……?」
ミミミさんが怪訝そうにそう聞いてくるが、そんなことが起こるのは1%にも満たない確率だし、話が長くなるのでとてもじゃないが待機画面にいる間に説明はできない。
その事を簡潔に伝えて納得してもらったところで、ちょうど転送が始まった。
無人島の浜辺に生まれ落ち、とうとう日本予選の準決勝第一試合がスタートした。
(で、相手が取り得る策は大体3つか……)
その場から動くことなく老人のようにどっこいしょと腰を下ろした僕は、顎に手をあてて考え始める。
こんなに暢気な事をしていられるのは、この設定の僕はまず捕まる事が無いし、そもそも追われる可能性が少ないからだ。
日本予選の準決勝。そんな大事な試合の初戦で僕を追ってこちらの策を何も見抜けずに敗北するなんてことは避けたいだろうしね。
で、相手が取り得る策は次の3つだ。
まず、ハイネスさん達が想定していた従来の隠れる設定に対応するべく、索敵を多く持ち込んだ編成。
次に、僕らが全員逃げる編成にしてくるだろうことを読んで、逆に追う事を前提とした加速等のスキルを持ち込んだ編成。
最後に、どちらの設定にも対応できるように索敵と加速を1人ずつ入れて、他の2人は小回りが利くように瞬間移動や無敵の能力を設定している編成。
正直どれが一番来る可能性が高いかと言われると1番最初の物なんだけど、次点で最後のどちらにも対応できる編成が来ると思っている。
少なくとも、ハイネスさんならこの最後の編成を選ぶだろうし、実際今回もそんな感じの設定で挑んでいるはずだ。
だからこそ、僕はそうされてもいいように全員に瞬間移動の能力を設定してもらった。
(我ながらやりすぎだとは思うけどさぁ……負けられないじゃん……)
数日前、配信で販売イベントを行うと言ったのは絶対に過ちだった。なにせ、優勝しようがしまいが、イベントは行わなければならなくなったからだ。
元々旅行のついでにイベントを行うという話だったのに、あんな風に告知してしまえば必然的に『イベントついでに旅行』という体で福岡に行くことになる。
なら、イベントをしないといけないのだからそこに日本予選優勝という称号はいらなくなる。絶対、ハイネスさんの計画だろう。
まぁ、ハメられた僕が悪いんだけど……。
で、それに気付いた僕が春香に口を滑らせたのだ。日本予選で優勝できなかったらどうするつもりなのかと。そしたら、彼女は笑顔でこう言った。
「何言ってんの? 勝つでしょ?」と……。
その時に感じた恐怖はどれほどのものだったか想像できるだろうか。
確かにここ最近……というよりハイネスさんと付き合い始めてから暴力を振られることは全くと言っていいほど無い。それよりも、以前より優しくなった気さえする。
それでも、以前から春香に対して植え付けられているある種のトラウマは簡単に拭えるものじゃない。
だから、万が一にも負ける可能性がある手段はおいそれと取れない。
1%にも満たないが、無敵を設定している人がいると負ける可能性があるというあの発言。それは、2番目の策を相手が取ってきた場合に発生する可能性があるのだ。
1番目の索敵編成と、どちらでも対応できる編成では起こり得ないが、唯一2番目の策を取ってきた場合は極低確率で即負けになってしまう可能性が発生する。
(まぁ滅多に起こらないだろうけどさぁ? いや、それでも負けられないんだから仕方ないじゃん……)
その可能性とは……まず、追いかける前提の編成では加速を持った鬼が2人、無敵が1人、後は自由枠となる事が多いという前提がある。それを念頭に置いてほしいのだが、無敵を持った子供が強制試練に当たった時、偶然無敵を持った鬼に追われる事態が起こるかもしれない。
瞬間移動という能力がない以上、追われ続ければ20分そこそこくらいで捕まるだろう。
ただ、無敵があるのでその時ばかりは問題ない。だけど、相手に無敵の能力を使われる……ないしは、無敵の能力を発動した直後に別の鬼に見つかって強制試練が達成できなくなる……。というわずかな可能性があるのだ。
全員が瞬間移動にしていれば、確かに他の能力が無い分自由に動けることは無いけれど、とりあえずそんな不幸な事故で負けになる事は無い。
なにせ、瞬間移動後5秒ほどは相手から自分の姿が見えなくなるし、この無人島は隠れやすい性質上、目の前に鬼が居たとしても逃げたり隠れたりすることは容易だ。そんな側面があるからこそ、このマップを始めに持ってきたのだ。
もちろん不測の事態が起こって危機に陥る事はあるかもしれない。だがしかし、そこは僕が持ち前の頭脳でなんとか切り抜ければ良いだけであって、即負けに繋がる地雷のような編成で挑むより良い。
そんな薄い確率は割り切って小回りの利く編成にしろって言う人もいるかもしれない。
だけど、僕はそんな薄い確率でも、運で負けるよりは自分の実力が及ばずに負ける方が良い。
どんなに薄くとも『一定の確率で負ける』よりは、小回りは利きずらいけど『負ける時は実力不足』という方を選ぶ。ただそれだけだ。
(さぁ……どうかなぁ……?)
久々に相手の指揮官との頭脳勝負が出来ると少しだけワクワクしながら砂浜で待っていた僕は、最初の確保情報が届いたゲーム開始15分後に、相手が持ってきた設定を察する。
相手は、僕の罠を読み切って2番目の編成で迎え撃ってきたのだ。
(楽しくなりそうだ……)
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やる気が、出ます( *´ `*)




