第212話 グッズ販売イベント
「結果から言いますね? 会場は何とかなります。スタッフの方も、まぁネクラさんなら何とかなると思います。ただ問題は、先方からこの日にしてほしいと指定があったんです」
「指定……ですか?」
「はい。2月の2週目の日曜です。その日しか会場が抑えられないらしいんですよ」
「2月の2週目の日曜……あ~、14日ですね。日本予選次第なので正直正確な事は言えませんけど、多分大丈夫だと思いますよ」
日本予選の決勝がいつ終わるか分からないので正確な事はもちろん言えないけれど、今が1月の3週目の水曜日で、日曜に準々決勝がある事を考えると、2月の初週には終わるだろう。
1月の4週目の土日に準決勝があったとしても、2月の初週の土日で決勝を終わらせられれば何とかなる計算だ。
まぁ、万が一ダメだった場合は……その時は仕方がないので諦めてもらうか別の場所で急遽開催という事にしてもらおう。それが通るかどうかはともかく……。
「良かったです! なら手配してもらいますね! それと、先方から会場を取るうえで条件を提示されたんです。良いですか?」
「まぁ、会場費とかを出せというならもちろん出しますよ。元々払ってもらおうなんて思ってませんでしたから」
会場を抑えてもらっただけでありがたいのに、金銭面まで援助してもらおうという厚かましい気持ちはない。僕だってお金に余裕があるのは同じなので、それくらいなら全然何とかなる。
増やそうと思えば多分まだいくらでも増やせるので、最悪全財産をはたくことになったとしても問題はない。
「いえいえ、そんなんじゃないですよ! ただ、その資産家の方が前回グッズを買えてないそうで……それに、福岡に住んでらっしゃるので中々ネクラさんにも会いに行けないと嘆いてまして……。その、サインとかグッズを貰いたいと……」
「あ~、なるほど。それくらいで良いなら喜んで!」
「良かった! じゃあ、その方に当日スタッフとか諸々の手配も任せちゃいますね! 私のファンクラブから集めるのじゃバッシング受けそうですし」
まぁ確かに、マイさんのファンクラブに入ってなくともイベントがあるなら手伝いたいと言ってくれる人達はいるだろう。
ありがたいことだけど、仮にファンクラブ内だけでスタッフさんを募ってしまうと不公平感が増してしまう。
都内でもイベントは行う予定だけど、それとこれとは別だ。
一応、そこら辺は配信かSNSを使って改めて伝えるつもりだけど……。
最近グッズだの配信だの、果てにはイベントを開催するだの調子に乗りすぎている気がするので自重したいんだけど……なんか知らない間に外堀を埋められてるんだよね。
僕が断らないだろう理由をあらかじめ作っておいて……というか、そもそも断らないだろう状況をあらかじめ用意してそこにはめ込まれてるというか……。
事実、今回のグッズ販売についてもそもそものイベントについても、僕には断る理由がない。
芸能人みたいな事はあまりしたくないけれど、皆が望んでいるからと言われると、イベントをやりたくないのが僕個人の感情なので断りにくい。
それに、応援してくれている人には何かしらお返しをしたいと思っていたので、なら相手が望んでいることを……となるのは自然だ。
サインとか握手とかに関しても、街で求められることが多いので段々抵抗が無くなって来たし……。
(まさかと思うけど、これ全部ハイネスさんの策とか言わないよね……?)
キッチンの方でクスクス笑っている少女の裏に恐ろしい影を見出した気がしたのでピッと顔を逸らす。それ以上踏み込んではいけない気がして、これ以上は考えないようにする。
僕に危害が及んでいるならともかくとして、何も危害は受けていない……どころか、なぜか世間的な僕への評価はここ最近上がっているのだから。
(この前見た時、ようやく皆の前に頻繁に顔出してくれるようになったとか言ってる人いたしなぁ……)
前まではランクマッチやSNSでたまに浮上する程度のレアキャラだった僕が、解説動画を出したり配信をしたり、さらにグッズを出すようになったのは、ファンの人からしたら大変に嬉しい事らしい。
僕と関わりが増えるのはもちろん、グッズを出してくれたことで貢ぐことが出来るようになったと危ない事を言っている人も少なくない。
「香水の件はどうしますか? 都合が付く日ならいつでも行けますよ」
「あ~、その件ですね! イベントの事が決まってから話そうと思ってたので、まだ話はしてないんですよ。近日中には答えが出せると思うので、その時はよろしくお願いします!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、ずっと膝の上でゴロゴロしていた手毬が僕に習ってかマイさんにペコーっと器用に頭を下げた。
それが可愛くて頭を優しく撫でると喉をゴロゴロ鳴らしてくれるので、やっぱりこの子は僕の癒しだと強く実感する。
正直、今の僕にはグッズとかお金よりもこの子の遊び道具とかおやつの方が欲しい。
「可愛いですね……。そう言えばネクラさん、新しい子を飼うとか言ってた話はどうなったんですか?」
「あ~、配信の件ですか。それが、まだこの子が納得してなくてですね……」
新しい子は欲しいけれど、それは手毬の機嫌を損ねて……いや、手毬に嫌われてまで欲しいという訳では無い。
それに、いずれこの家を出る時に手毬は連れて行くつもりなので、その時に拒否されると泣きそうになるので、その時まではずっと大好きでいてもらわなければならない。
僕が1人暮らしをするのか、それともハイネスさんと住むのかはともかくとして、そこには絶対に手毬が必要だ。
春香は……うん、何とかするだろう。
最近手毬が構ってくれなくて機嫌が悪いみたいだけど、暴力の面もなぜか落ち着いてきてるし。
「そうなんですね……。手毬ちゃん、やきもち焼きなんですかねぇ?」
「さぁ……。でも、なんだかそんな気はします。ハイネスさんには全然懐いてくれませんし……」
前に春香が言っていた気がするけど、新しい子を迎えるとその子に僕が取られるのではと心配しているのではないかというあれ。多分、それは当たっている。そしてそれは、なにも猫相手だけに向けられたものではないらしい。
ハイネスさんも、手毬にとっては僕を奪おうとする敵の1人……のような認識を受けているのではないだろうか。
あの、うん……怒るとこそこ?って気がしないでもないけど。
「どうしたら良いか、やっぱり相談した方が良いですかね……」
「まぁ、ネクラさんが今後ハイネスさんとの将来を考えるならその……聞いた方が良い気もします……」
「あはは……」
なんで僕はこんなことをマイさんに吐露しているんだろうか……。
ハイネスさんに聞かれてないとはいえ、将来とか言われると少しだけ意識してしまう。
何もしてないし、付き合ってからも僕らの関係性は特に進展なんてなかったけれど……僕はそれでいいし、ハイネスさんも多分それで良いんだろう。
だからこそ、急にそんな話をされると戸惑ってしまう。
まぁ……聞かぬは一生の恥っていうし、聞くだけ聞いてみようかな。
手毬がハイネスさんを好きになってくれると良いんだけども……。
「にゃ~?」
僕の内心なんて知る由もなく、腕の中で子猫がもっと撫でろと鳴いてくる。
うちのボスは、僕を他の人に譲っても良いと思ってくれるのだろうか……。って、なんで子猫にうちの主導権が握られてるんだろ……。
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