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第204話 軍師の失態

 最終兵器を晒したとはいえキッチリ勝利を収めた僕達は、その次の最終戦でも念には念をという事で最終兵器を投入してキッチリ勝利を収めた。

 まぁ、試合後にネットで僕らの作戦が広まるかもしれないけど、無敵を使わされたのがそもそも2試合含めて7人もいなかった(被りは考慮済み)ので、ちょっと無敵の能力を設定している人が多いかな程度で感じてくれるかもしれない。


 なんでそもそもそんなに捕まらなかったのかと言えば、それは僕らが隠れることを前提にしていて街中をうろついていないせいもあるけれど、僕が子供の目撃を出来る限り少なくしようと頑張った結果だ。

 この2試合中、僕はずっとマップ上を走り回って鬼の面々の意識を僕だけに向けていたのだ。


 なので、皆が隠れている中僕だけが鬼の視線を集めているので、鬼の面々はネクラしかいねぇ!ってなっていたかもしれない。

 そのせいもあって、1試合目に確保された人は3人、2試合目に至っては2人とまぁまぁ意味の分からない成果が出た。


 強豪相手とは言え、僕が指示を出さずに鬼の目を引いて、さらには追いかけられても無敵の能力があるおかげで早々捕まらないのでこんな成果が出ているのだろう。


 その後は試合の模様が配信されるという事だったので、一番見せても良い手札である、全員が隠れる編成で、絵面的には地味だけど着実に勝利を掴み、無事に日本予選3日目も切り抜けた。

 そして、今日の僕らの試合は配信があったという事もあってそれ以上は行われなかった。翌日に繰り越しだ。


 しかし、僕の仕事はこれだけでは終わらない。いつもはこの後にチームの人からプレイについての相談を受けたり、個人的に明日の試合で戦う可能性のあるチームのデータをまとめたりしないといけない。

 いや、どっちも義務感からというよりは好きだからやっているのであって別に苦労のうちには分類されないんだけど……。


「ネクラさん……ちょっと、お話を聞きたいのでお時間貰ってもよろしいですか……?」


 黒猫さんにプレイについてのアドバイスをして応接室を出たタイミングで、ハイネスさんが深刻そうな顔をしてそう尋ねてくる。


 この後は特に予定は無いので、春香が夕食を作って待っているかもしれないけど、僕が試合後にチームの人達の相談相手になっていることは知っているはずなので、そこら辺は考慮してくれるだろう。

 ハイネスさんも、家まで来るのが面倒とかそういうのではなく、今すぐにでも僕の意見が聞きたいといった雰囲気なので、そのまま応接室に通す。


「それで、どうかしました……?」

「いえ、その……まず、今日はありがとうございました。私の失態を、カバーしてくださって」


 ソファに座ってペコリと頭を下げたハイネスさんは、かつてないほど申し訳なさそうにしていた。


 別に日本予選だからと言ってそこまで深刻に考える必要はない。なにせ、日本予選で1敗すればあの最終兵器を投入してとりあえず僕らは絶対に勝てるという布陣を築けばいい。

 ハイネスさんが同じ相手に2回も連続で負けるなんてことは、あの脱出マップが続く……くらいしか考えられないけれど、日本予選初日と2日目のデータをザックリ調べた限り、現時点で2回連続であのようなマップと当たった人達はいなかった。だから、そこは気にしなくても問題は無いと思う。


 大体、僕らは今まで何度も鬼の人達に助けられている。それなのに、たった一回負けただけでここまで反省するのは少々大げさだ。

 さらに言えば、マイさんがいるから大抵の事は何とかなるだろうという精神的な安心も、プレイをする分にはかなり大きい。

 こちらが仮にやらかしたとしても、鬼の人が強いから何とかなるだろう。その精神的な余裕がある分、僕らは伸び伸びとプレイできる。


「大丈夫ですよ。このゲーム、本来はそういうゲームですから。それに、これからもしんどい場面は来るかもしれません。その時には、僕らを本当の意味で助けてくれるのは鬼の皆さんだと、僕は思ってますから」

「そう言っていただけると助かります……。それで本題なんですけど、ネクラさんのご意見をお聞きしたいんです。私達にあらかじめ配られた情報は全て暗記しているので、それから導き出されるマップの構造とそのシステムを、ネクラさんならどのように解釈するのかなと」

「あ~、脱出マップの奴ですか。要は、僕がハイネスさんの立場ならどう考えて、最終的にどの程度正確な答えが出せるか聞きたいんですね?」

「……その通りです。失礼かもとは思ったんですけど、やっぱり気になって……」

「いえいえ、全然大丈夫です。むしろ、それには興味があったんです」


 大会の規約で新マップに関する情報はネット上で拡散してはいけないというのがある。

 正確には、新マップがどんなマップ(貴族の館)だったかみたいな最低限の情報は出しても良いが、どういう風に脱出したとか、どんなマップだったかなどの詳細は公開してはいけないのだ。


 もちろん当たったプレイヤーやチームのメンバーに聞いて回ることまでは制限されていないので、この場合は規約に何ら違反していないのでセーフだ。


 その後、ハイネスさんが一言一句暗記したという最初に配られたルールとマップのシステムについて聞かされ、ハイネスさんが陥っていた当時の状況まで事細かに話される。

 まるで推理小説の中に迷い込んだような錯覚を覚えるけれど、要は、前もろくに見えない猛吹雪の中、子供が圧倒的に有利と思われるこの状況でマップの構造と仕組みについてどの程度考えられるかという所だろう。


「ん~、そうですね……。まず、子供側には船を呼ぶためのトランシーバー、ないしは無線機のようなものが配布、またはそれに近い形で渡されるのではないでしょうか。例えば発電所の中にそれらしきものがある……とか」

「それは、どうしてですか?」

「無人島にある発電所を直せ。これは分かります。ゲームの設定、脱出するために必要な要素としては何ら不自然ではありません。ただ、発電所を直しただけで船を呼べるかと言われるとそこには矛盾が生じます。なので、船を呼ぶための機械が無ければおかしいです」


 マップの作り込みを第一に考えている運営が、発電所を直したら自然と船が迎えに来てくれるような不自然極まりない設定を容認するとは思えない。なので、そこには発電所を直さなければならない必然性を生む必要がある。


 発電所は電波を作り出すものと言うよりは電気を作り出す物なので、トランシーバー等の無線機を使えるようにするには矛盾がありそうではある。だが、そこは配られた資料に穴があるという部分から発電所=電波塔、またはそれらに類するものである可能性は十分にある。


「……なるほど。他にはありますか?」

「ん~、あと、周りが吹雪いていたと言ってましたが、多分それは一定区間だけでしょう。島全体が吹雪いていた場合は港……ないしは船が停泊するための海そのものが凍ってしまう可能性があります。不凍港等があるなら話は変わってきますが、それでも港が現れるであろう場所を特定されるので疑問が出てきます。同じ理由で、凍っていた海が急激に溶けてその場所が港になるという線も、不自然極まりないのでありえないでしょう。なら、可能性は吹雪が一定時間内で止むか、そもそも山のようなマップになっていて、頂上付近だけ吹雪いている……とかになります」

「凄いですね。その通りです」


 まぁここら辺まではちょっと考えれば誰でも分かるのではないだろうか。

 この情報だけを鵜吞みにするなら流石に子供が何もしなくても勝ててしまうので、まるで貴族の屋敷の時とは正反対だ。なら、そもそも前提が間違っていると考えた方が良い。


 前も見えない吹雪の中で子供を捕まえろなんて理不尽、このゲームの運営は強制してこないだろう。ただでさえ携帯の使用を禁止してコミュニケーションが取れないのだから。


「他には、これがありそうだとか、ありますか……?」

「う~ん……得には無いですね。強いて言えば、直すべき発電所は多くても2つ……いや、3つ程度だろうなくらいです。鬼が子供を捕まえなかったら自動的に直るというルールは、鬼が子供の捜索を諦めて発電所の前に陣取るのを抑制する為だと思います。この文面自体に『こんな書き方をしてるなら発電所はかなりの数あるだろう』と思い込ませる罠的な要素があるようにも思いますが……」

「えっ!? な、なんでそんな風に考えたんですか!?」

「これもマップの不自然さって部分に影響されるんですが……ただの無人島に発電所が4つも5つもあったら不自然じゃないですか。何のための島なんだよってなります。いや、そもそも無人島に発電所がある時点で不自然だろと言われてしまえばそれまでですが……」


 僕が思うに、発電所は全部で3か所。

 ちょうど、ヒントで提示される最大数の発電所があるのではないだろうかと予想している。

 それも、山の麓、中腹、頂上の3か所にそれぞれあるのではないだろうかと。


「す、凄いですね……。私の話から、たった数分でそこまで……」

「ん~、まぁこれでもちょっと違和感はあるんですよね」

「……どこがですか?」

「だって、仮に無線機で船を呼んだとしても、そこは無人島ですよ? それに、救助される側は一刻も早く救助してほしいという思いがあるのが当然であり、自然です。なら、どこどこの港……なんて指定しないのではないでしょうか。確かに目印になる物があるに越した事は無いですが、遭難者を救助しようって言ってるのに、遭難者自身に港まで歩かせるのは不自然じゃないかなと……」


 いや、遭難した人を救助する時の鉄則なんて調べた事が無いので正確な事は言えないけれど、たぶん間違った事は言ってないだろう。

 たとえば、遭難者は山の北側の海岸付近にいて、港がある場所が反対だった場合、救助者は遭難者をその場所まで歩かせるだろうか?


「……」

「だから多分、無線機で居場所を伝えれば数分後には船が自動的にそこまで来てくれるのではないでしょうか。少なくとも、そちらの方が救助する動きとしては自然な気がします」

「あはは……流石ですね、ネクラさん。話を聞いただけで、綺麗に全部当てられちゃいました」


 その後話を聞くと、ハイネスさんはその前段階までは気付いていたらしいけれど、僕が言ったような発電所の数と港の有無については完全に勘違いをしていたらしく、かなりあっけなく負けてしまったらしい。


 この場合、どんな行動をしたら正解なのかは僕が鬼側の試合の動きをまだ正確に把握しきれていないので分からない。だけど、これは仕方ないとも言える。


「正直子供有利であるって点は間違いないですし、パッと良い対処法が思い浮かぶわけでも無いです。それに、今回は鬼と子供双方にかなり情報が伏せられているので……」

「です、かね……。それでもその……悔しくて」

「まぁ、失敗は誰にでもあります。同じ失敗を繰り返さない事が大事なのであって、初めての失敗なんて気にしなくて良いんですよ」


 失敗を恐れていては動きがどうしても鈍くなる。だからこそ、失敗は怖い物ではあるけれど過度に恐れてはいけない。

 真に恐れなければならないのは、1度したミスをもう一度繰り返す事であって1度目のミスは別に恐れる必要は無いのだ。


「……ありがとうございます。ちょっとだけ気が楽になりました」

「いえいえ、僕なんかが力になれたのなら良かったです」

「……あの、ネクラさん。話は変わるんですけど......ライから、その……聞いてますか?」


 気まずそうに上目遣いで聞いてくるハイネスさんは、僕がもちろんと頷くと心配そうに尋ねる。


「ほんとに、その……良いんですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。ハイネスさんにはお世話になってますし、僕も休暇が欲しかったので」


 そう言うと、ハイネスさんはさっきまでの落ち込みようが演技であったかのようにぴょんぴょん飛び跳ねて嬉しそうにはしゃぐ。

 実際のところ、ライがその場しのぎで言ってるだけで、実現しないのではないかと心配だったらしい。


 うん、多分前半部分は合ってると思うな……。絶対、その場しのぎでポロっと口から出た出まかせを、強引に事実にしただけでしょ。


「楽しみにしてます!」

「僕もです」


 そう言って幸せそうな顔を浮かべて応接室から出ていったハイネスさんとは裏腹に、僕は大きなため息を吐いた。

 なにしてくれてるんだろうね、あの妹は……。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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