第202話 未来の話
春香からの着信に出ると、まずに飛んできたのはハイネスさんの件ではなくこのマップは何?という言葉だった。
このマップは何と言われても、そんなの僕が知りたいんだけど……。そう言いたいけれど、春香相手にそんなことを言えるはずもないので分からないと答える。
ただ、貴族の屋敷でされたような開幕からの強制試練がまだ携帯に届いてないところを見るに、脱出系のマップでは無いのだろう。
「多分だけど、無人島とかショッピングモールみたいな、普通のステージの新マップだと思うよ。試練とか出てないし、ここは脱出するっていうよりは実際に存在してる街だから」
「そうなの? お兄ちゃん、ここがどこか知ってるの?」
「もちろん行った事は無いけど、ギリシャにこんな風な島があるんだよ。それで、ハイネスさんの件は?」
あまり悠長に話している訳にもいかないので早速本題に入る。
なんであんなに落ち込んでいたハイネスさんをたった数分で立ち直らせることが出来たのか。それはもっとも気になるところだけど……多分、何かしらの条件を出して、その条件の事を話すから電話に出ろと言ってきたのだろう。
「あ~それね。別に、結婚しろとか突拍子も無い事言うつもりは無いから」
「……まぁそれは良かったよ……。なに、日本予選で優勝出来たらまた皆でどこか行こうとでも言ったの?」
「……前から思ってたけどさ、お兄ちゃんのそのバカみたいな頭の良さはどこから来てるの?」
いや事実なんかい。冗談かと思って聞いたんですけども……。
僕が引きこもりで外が苦手だと一番よく分かってるのは家族であるあなたな気がするんですけど、それは僕の気のせいでしたかね……。
というよりも、人の未来を勝手に決めないでもらって良いですか春香さん……。
「別に、チームのみんなで行くとか言ってないけど。お兄ちゃんと2人、ないしは私含めて3人で優勝祝いで行こうって言っただけだし」
「いや、それでも十分キツイんですけど……」
「なんで? ハイネスと2人でデートしてたじゃん。その延長線上でしょ?」
いや、外に遊びに行くのとどこかに1泊ないし2泊3泊する旅行を同じと考えて貰っちゃ困るんですけど……。
いくらハイネスさんとはいえ、どこかに一緒に行って一日遊んで一緒のホテル、もしくは旅館に泊まって一夜を共にするとか僕には考えられないんですけど。
いや、一夜を共にするってそういう意味ではなく、単純に同じ旅館で寝るってそういう意味だけどさ!
まぁ、本当に旅行に行くとなっても春香がいるってなれば流石に部屋は別れるだろうしそこは良いんだけど、もし2人で行くとなった場合本当に部屋を分けるのだろうか。そういう問題が発生するだろう。
(僕、ハイネスさんに一緒の部屋が良いとか言われて断れる気がしないんですけど……)
というか、ハイネスさんと2人で行くことになったら絶対一緒の部屋になるでしょ。
変な意味とかじゃなく、付き合ってるし、なにより夜になっていちいち部屋移動するのがめんどくさいとかもっともらしい理由で同じ部屋を望まれたら、僕は断る理由が無い。
「……何考えてるのかは大体想像つくけどさ、急に黙らないでくれる? ちょっとイラっとするから」
「春香さん……今まで女の人とろくに関わってこなかった人にこの状況で何を考えろって言うんですかね……。というか、意識しない方がおかしいでしょ!?」
「意識はするんだ? お兄ちゃん、おまるさんが家に来た時は普通にしてたじゃん」
「……それとこれとは話が違うでしょ」
確かに、おまるさんが来た時は別に何ともなかったし、参考までにという訳の分からない理由で部屋に入れたこともある。だけど、それだけだ。
でもさ、その相手がハイネスさんってなるとまた話変わってくる気がするんだ?
「……なんで? ハイネスとおまるさんの違いって何?」
「それは……なんていうかな……。いや、ハイネスさん相手だと色々考えるというか……変な意味じゃなく、その、色々不味い気がするというか……」
「だから、なんでそう思うのかって聞いてるんだけど。前までなら、お兄ちゃんそういう事あんまり気にしなかったじゃん。現におまるさん相手には何も感じてない訳でしょ? なんで相手がハイネスになった途端にそう『考える』の?」
不思議な圧をかけられている気がするけれど、通話越しだからこそ分かる。別に、春香は怒っている訳じゃない。ただ不思議がっているというか、訳が分からないと言いたげな感じなのだ。
そりゃ、僕だって正確な答えは今のところ分からない。なんでハイネスさん相手なら色々不味い気がするっていう、抽象的と言うかハッキリしないというか、そんな不安定な気持ちが湧いてくるのか。
「……はぁ。まぁ、今日のところは良いわ。でも、あの子凄く楽しみにしてるから頑張って。日本予選優勝したら、多分あの子から行きたい場所提示してくると思うから。その時、私が誘われるかは分かんないけど」
「……ハイネスさんが春香を誘う未来が一切見えないんだけど、気のせい? むしろ、僕と2人で行ってこいみたいな事言ったんじゃないの?」
「……あ、ミミミさん来たから切る」
だから、なんで当てずっぽうで言ったことが全部当たるの? なに、僕、知らない間に相手の心を読めるようにでもなったの?
日本予選を優勝したらっていう制約が付いてるとは言え、僕と2人きりの旅行。ハイネスさんが燃えるはずだ。そんなの、誰だって燃えるでしょ。好きな人と、一緒に旅行に行けるとか……。
(気が重いなんて物じゃないよ……。ていうか、旅行くらい普通に話してくれれば僕だって――)
いや、行かないか……。
というよりも、ハイネスさんは僕が引きこもりだって知ってるからそもそも外で何かしたいって言ってくることは無いだろう。
だったら、この機会はいいチャンスと捉えるかもしれない。
恐らく春香の事だ。日本予選で優勝したら僕がハイネスさんに感謝の気持ちを表すために2人きりで旅行にでも行きたいとか、そんなことを言っていた……みたいに言ったのだろう。
ハイネスさんに感謝してるのは確かだし、本当に日本予選を勝ち抜けたら何かしたいなとは思ってたからちょうどいいって言ったら卑怯かもしれないけどさ……。
それに、旅行に行くって事は数日間完全な休息を与えられるって事では無いだろうか。
僕は前々から、ゲームから離れてゆっくりする日が欲しいと言っていた。そしてそれは、リアルで販売イベントをする時の条件に組み込んでいたし、そう言った場には春香もいた。
(まさか、そこまで考えて……いや、ない、か……)
あの春香だ。そこまで考えてるとは考えにくいだろう。
多分、ハイネスさんのやる気を上げるために、そして何より、僕たちの仲をもう少し後押しする為に言っただけだろう。
まぁでも、仮にここまで考えたうえでハイネスさんに話を持ち掛けたのなら、春香もかなり面倒だというか、良い意味で頭がキレるというか……第2のハイネスさんになるのではなかろうか……。
とりあえず、日本予選が終わった後の事はその時の自分に任せれば良い。今は試合に集中しよう。
春香に言った通りなら、このマップは通常のマップであって試練の内容等もあまり変わりが無いはずだ。
ただ、僕らは既に1敗していて後が無い。つまり、この試合は絶対に負けられない戦いだ。
「全員逃げる編成は一旦変え時だな……。次は設定を変えよう」
今回は海外の人相手にも通用した最終兵器の設定で来ている。
従来の全員逃げる編成とも、全員隠れる編成ともちょっとだけ違う。絶対に負けられない時にだけ使おうと決めていた、僕らの最終兵器。
僕がずっと煮詰め、日本予選が始まる数日前にようやく結論と呼べるものが完成した新たな設定。
その名もズバリ『俺ら全員無敵で~す!』設定だ。ちなみに、命名したのはミナモンさんであって僕ではない。
負ける気はしないけれど、こんなところで負けている場合では無いのだ。
しっかりと、気を引き締めていこう。
投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>
やる気が、出ます( *´ `*)




