第201話 第一試合 決着
私の想像の中とはいえネクラさんに助言をもらった事で、今回のマップが無人島と言う名の山であり、頂上付近の標高が高い場所は目の前の視認が困難なほど吹雪いているというのが分かった数分後、運よくマイさんと合流する事が出来た。
彼女も私と同じようにネクラさんならどんな風に考えるかをシュミレートして同じ結論に辿り着いたらしい。まぁ、彼女はほとんど勘で下山してきたのでもう少し時間がかかる可能性もあったらしいけど、今はそんな事を気にしている余裕はない。
「じゃあ、早速捕まえに行ってください。全体の把握は私が行います。港の確認等も私がするので、もし他の人に合流することがあればその事を知らせてください」
「了解です!」
そう言うと、マイさんは早速獣道を下って子供を探しに行った。
多分だけど、発電所というのは山の中腹か麓の付近に数か所。さっきの頂上付近に2か所ほどあるのだろう。じゃないと、あんなに視界が悪い部分を作る必要性が無い。
恐らくだけど、あそこのエリアがある事で発電所を探したり、港まで行く労力を少しでも上げようとしているのだろう。
であれば、30分に一度与えられるという発電所の場所も、頂上付近の物ではなく比較的麓や中腹辺りにある発電所に限定されるのではないだろうか。
もちろんその時に修理されていない発電所の場所が知らされるので必ずしもそうとは言えないが、あの吹雪の中発電所を探させるという行為が無ければ子供が有利すぎるというのに変わりはない。
なので、そこのゲームバランスは上手い事調整しているはずだ。
「マイさんが気付いてくれたから、15分以上子供が捕まらないって状況は考えなくていい……。じゃあ、次に私がするべきは……港の捜索か」
あらかじめ配られた新ルールの中には港を捜索しても無駄だと書いてあったけれど、多分そんなことは無い。
このマップがまるまる山であるならば、港に変貌するような場所はさほど多くないだろう。少なくとも、麓の方に海辺に面している場所があるはずだ。そこから大体の見当をつける事ならできる。
それに、子供側もよほど頭が悪くない限り思いつくだろう。なので、発電所らしいものを見つけたらその周囲で少し索敵をしつつ、子供を見つけたら確保し、見つけられなければ大人しくそこを離れて麓を捜索する。
そうすることで、発電所まで来るかもわからない子供を永遠に待ち続けることを避けつつ、同じように麓の付近を捜索するはずの子供を追いかけて港の場所を検討する暇を与えないようにするのだ。
(勝たなきゃ……)
ここまでネクラさんに助けてもらいながら負けました……なんて言えるはずがない。
それに、ずっと雪山部分でアワアワしていたのならまだしも、このマップの真実に気付いたのに負けたなんて、軍師ハイネスの名が泣くだろう。
少なくとも、あの人に「自分より頭が良い」なんて言われる資格は無い。いや、元々そんな資格ないと思ってるけどさ!
そう、決意を新たにした私は大きく一歩を踏み出して森の中を歩きだした。
――ネクラ視点
ここまで沈んでいるハイネスさんは始めて見たかもしれない。
第一試合で日本予選初めての黒星を付けた僕達は、次の試合が始まるまでの数分間の休憩時間、作戦会議もかねて待合室のような場所で待っていた。
そこは体育館の更衣室のような場所であり、申し訳程度に金属のロッカーや横長のベンチが無数にあるんだけど……ハイネスさんがその中の一つで寝ころびながらいじけているのだ。
「ど、どうかしたんですか……?」
「……ネクラさんに知恵をいただいたのに、負けたことが悔しいんです……」
「ち、知恵……?」
僕は今回の大会でハイネスさんに知恵を貸したことなんてない気がするのだが、僕の思い違いだろうか。
大体、今回はハイネスさん達が子供が即勝ちになるタイプの新マップで敗北し、僕達も強制試練中の子供が捕まった事での敗北だったので、どちらが悪いというよりはお互い様......仕方ない敗北だった。
「いえ、私の見立てが甘かったんです……。ステージの前提その物を勘違いしてたのはまだしも、発電所の数が思ったより少なくて……しかも、ゲーム開始1時間もしたら全部直されたんですもん……」
「は、はぁ……」
僕はまだ詳しいステージの情報を聞いてないので発電所が何のことなのか、ステージの前提とやらが何なのか分かってないけど、まぁ大体の予想は着く。
つまり、ハイネスさんが予想していたステージの前提がそもそも間違いだったけど、それが敗北の直接的な原因ではなく、その発電所なるものの数を読み違えたのが直接の敗因だったのだろう。
話を聞く限りだと、複数個所にあるその発電所を直すか壊すかすれば脱出の方法が分かるのだろう。
そして、その発電所の数を見誤ったせいで時間的に余裕があると勘違いし、失敗してしまったと。そういう事なのでは無いだろうか。
まだ断片的な話しか聞けていないので、断定するにはまだ早いかもしれないけど……。
「ネクラさん……私、もう自信ないです……。あんな簡単な事にも気付けずに勝った気になってたなんて、恥ずかしすぎます……」
「えぇ……? でも、ハイネスさんがしっかりしてくれないと困りますよ。もう負けられないんですから……」
「うぅ……。だって……だってぇ……」
涙目でそう訴えてくるハイネスさんをどう慰めればよいのか分からず、遠くの方で何が起こっているのか興味深そうに見つめているライへ救援要請を出す。
ライ――春香は肩を竦めながら仕方ないなぁと言いたげに僕の救援要請に応じると、小声で「邪魔」と言い、僕を追い払った。
その数分後、第二試合が始まる数十秒前、ハイネスさんがとても嬉しそうな顔をしながら春香に飛びつく様子を黒猫さんと話しながら横目で見た僕は、頼って良かったと心底安心した。
なぜだかハイネスさんが熱心にこちらを見てコクコクと嬉しそうに頷いている気がするけれど、多分気のせいだ。
なんか、春香が余計な事を言ってこの後凄くめんどくさい事になりそうな気がするけれど、絶対に気のせいだろう。気のせいであってくれないと困る。
「良し! 絶対勝ちますよ、皆さん! 敗北は許されません!」
第二試合が始まる直前、ハイネスさんが子供のように右手を突き上げてそう言う姿を微笑ましそうに見つめていた春香は、こっそり携帯を取り出して耳元へ当てるしぐさをする。
その直後、僕へピッと指を立てると不気味なほどニコッと微笑んだ。
(始まったら電話かけるから絶対出ろ……って事だよね)
むしろそれ以外にないだろう。
まったく、ハイネスさんに何を言ったのか……。いや、別に何言われてようともハイネスさんがやる気になってくれて頑張ってくれるのなら良いんだけどさ……。
これでもし、日本予選で優勝して世界大会まで行けたら結婚しろとか言われた時、僕はどうすれば良いの? しかも、春香の性格上、普通にあり得るし……。
そんな心配をしていると、第二回戦が始まったらしく僕らはステージへと転送された。
目の前に広がる光景は海辺にある色とりどりの煉瓦が使われた住宅が立ち並ぶ、どこか幻想的な物だった。
確か......こんな光景を前に写真で見た事がある。ネット上でダラダラゲームのキャラクターの過去について調べていた時に見つけた物だ。
ここは、そう。ギリシャかどこかの島だ。名は確か……サントリーニ。サントリーニ島だ。ここは、あの街の風景にそっくりだ。
(また新マップか……。厄介なとこじゃないと良いけど……)
そう思いながら、けたたましく鳴り出した携帯を睨みつける。
それは新試練の内容ではなく、春香からの着信を告げる物だった。
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やる気が、出ます( *´ `*)




