第199話 第6回戦 黒狼の牙
日本予選3日目、今回の相手は黒狼の牙という強豪チームが相手だった。
以前学校に行った時にネクラさんに休んでくれと言った手前、今回は相手チームの詳細なデータや指揮官の有無、各メンバーの癖なんかを纏めた物が無い。
もちろんネクラさんの負担を考えれば当然の申し出なんだけど……今、そう言った事を凄く後悔している。
「なんでこんな時に新マップなの……」
激しく吹雪が吹き荒れる無人島にポツンと出現した私は、周りに誰もいないことを確認して静かに呟いた。
新マップでは、相手の癖が分かっていないと少しばかり不安だし、ただでさえ考える事や覚えることが多い。なので、いちいち相手の事を考えている余裕が無いのだ。
それに、今回の相手は強豪。つまり、私達が元居たチームに数回単位で勝利を収めているという事だ。
(自信ないなぁ……)
私は、いつでもあの人に頼ってもらえるように出来るだけ頼りがいのあるしっかり者のハイネスを演じてきたつもりだ。いや、時々素が出ちゃってるところはあるけど……基本的には頼られたいという気持ちが強いので、そう見えるように演技をしている。
そのおかげで最近は頼られることも増えたし、ネクラさんとお付き合いできるようにもなった。効果は絶大だったのだけど……うん、初めて後悔してる。
ちなみに、新マップに生まれたと同時に送られてきた新ルールは以下の通りだ。
『このマップでは、子供は複数個所に設置されている発電所を直し、制限時間内に港に助けの船を呼ぶ必要がある。島から誰か1人脱出した時点で子供の勝利となる。
各陣営には地図が配られるが、港は全ての発電所を直した時点で出現するため鬼・子供双方の地図には記されておらず、事前に探す事も叶わないだろう。
無論、鬼陣営に子供陣営が直す必要のある発電所の場所は通知されないが、30分ごとにその時点で直されていない発電所の場所がランダムで1つ通知されるので注意するがいい。
さて、このマップではいくつか特殊なルールを追加する。
1 鬼は発電所の中に入る事を禁じるが、その付近に滞在することは不問とする。
2 子供が全ての発電所を直した時点で鬼側にその旨の通知が行くが、両者ともに港の場所は通知されないものとする。その代わり、鬼が港付近に滞在することは不問とする。
3 15分以上鬼が子供を捕まえなかった場合、鬼から一番近い発電所が一か所自動的に修理される。港が解放されている場合は別の場所にも港が出現し、その位置が子供へ通知されるものとする。
4 なお、子供・鬼双方の陣営で携帯を連絡に使用する事は不可とし、この試練の内容及び新ルールの確認、マップの確認等でしか使えないものとする』
さっきから色々試しているのに一向に仲間に連絡が取れないのは最後の一文が原因なのかと、ようやく理解した。
今回、この新ルールを見て初めに思った事は2つだ。
1つは、前回の貴族の屋敷のような極端な2択を迫るのではなく、今回はちゃんとゲームが成立するように鬼側にペナルティを設けている所。
これによって、発電所や港を見つけたとしても、その前でちんたらしていてもゲームが崩壊することは無くなっている。
もう1つは、このマップでは、恐らく鬼が圧倒的に不利だ。いや、圧倒的というのは盛ったかもしれないけど、少なくとも3割程度しか勝てる要素がないだろう。
第一に、私達鬼陣営はこの新マップの情報もほとんど無ければ、吹雪による視界不良でまともに子供を探すこと自体が難しい。
仮に見つけたとしても、15分以内に誰かを捕まえなければ発電所が問答無用で一か所直されてしまうというのも辛い。
それが計何か所あるのかは分からないけれど、ゲームの時間と直す時間を考えてもせいぜい7か所あるかどうかだろう。その中の1つというのはかなり大きい。
それに、鬼は発電所を直すのを連携が難しい中で阻止しなければならず、全ての発電所が直されて港を防衛しなければならないとなった時でも、各々連絡が取れないので不幸な事故――例えば、全員が子供を捕まえに行って港を防衛しなかったりその逆もまたしかり――が起こる可能性が非常に高い。
せめて各々連絡が取れるのであればやりようはあるのだが……。
最後に、子供側に一切ペナルティが無い事もかなり厳しい要因の1つだ。
極論、子供側は発電所に一切近寄らず全員が逃げることに集中していれば、何か所かは自動で発電所が直るし、ゲーム開始時からある程度経つまでは懸命に発電所を直し、人数が少なくなってきたら全員が発電所から離れて逃げているだけでも発電所は直されていく。
それは……流石に厳しい。
まぁ、向こうも連携がとりにくいのは同じなはずなので、そこまでうまくいくかは分からないけど……。
というよりも、連絡を取れないという内容の物が来た時用に練習をしていて本当に良かった。
それが無ければ、今頃ミナモンさんやシラユキさんのような、私の指示がある前提で行動している面々が何をすれば良いのか分からず混乱しただろうから。
(こういう時、ミナモンさんは自由に行動して、シラユキさんはゲーム終了時までに最低3人を捕まえることを目標に頑張ってくれと伝えてたよね……?)
ミナモンさんには、本当はマイさんを探してほしいのだけど、その探している時間も子供を捕まえられないし、マイさんと合流するのに携帯無しで何分かかるか定かじゃなかったので、もうそこは諦めてもらうことにしたのだ。
シラユキさんに関しては、子供を捕まえる能力は私と同じくらいで低いけれど、マイさんがいるので最低ノルマを設けてそれをクリアしてもらう事を目指してもらう。
彼女の予測能力があれば、まぁ大抵は何とかなるだろうし……無理に私を探しても、合流するまでに時間をロスすれば意味がないからね。
(で……私は、これからどうするかなぁ……)
正直なところ、それが一番の問題だった。
私は子供を捕まえる能力がシラユキさんとどっこいくらいだし、強豪相手なら最悪誰も捕まえられずにゲームが終わる可能性も冗談抜きである。
いや、私が弱いんじゃなくてこの場合は周囲……マイさんのように異常に強い人や、ネクラさんのように頭がとんでもなく良くてそもそも見つけられない子供、逃げるのがうまい人など……強すぎる人が多いのだ。
私は頭脳だけでトッププレイヤーになんとか食らいついているけど、その頭脳を発揮できないこんな場面では、中堅プレイヤー……いや、大した実力のないプロ相手でも劣るようなプレイヤースキルしかもっていない。
もちろんネクラさんの動画を見てある程度は上達したと思うけど、それは私だけじゃないのだ。
全員平等に強くなっているのなら、元々強い方に軍配が上がるのは当然だ。
「……いや、こんな御託並べてても仕方ないよね。とりあえず、私に出来る事をやらないと」
こういうタイプのマップは、子供が勝利を収めた場合は引き分けになったとしてもポイント差で必ず負けるようになっている。
なら、今回は厳しいから捨てるなんて選択肢が取れないのだ。
もちろんネクラさんの方にも同じマップが出てて、時間経過で決まる……みたいな前提で立ち回るのなら話は変わってくるだろうけど、もし違った場合は目も当てられない。
なら、今私に出来る事は一刻も早く子供……引いては鬼の誰を探して合流を果たす事だ。
私のプレイスタイルは、自分で活躍するのではなく誰かを活躍させる物だ。他人に依存したプレイなのでランクマッチでの勝率は良くないけれど、そんな甘い事を言って日本予選敗退なんて結果になれば、私は今後ネクラさんの隣にいる資格がない。
(そんな……。せっかくあの人に、隣にいてほしいって言われたのに! そんなの嫌だ!)
吹雪でまったく前が見えず、足元に積もり始めている雪がかなり鬱陶しいけれど……いや、そういう事か。
これは、雪に残っている足跡を頼りに子供か鬼を見つけろというマップなのか……。
「なら、まだやりようはあるか……」
小さな軍師の決意に満ちたその言葉は、吹雪で荒れる孤島に静かに消えた。
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