第18話 ライの悩み
ハイネスとは、ライが初めて大会に参加した時からいる初期メンバーである。
当時は指揮官などを採用しているチームが今と比べてかなり少なく、ハイネスが指揮を執る事は無かった。
しかし、指揮官のシステムをライが導入し、その才能を発揮。瞬く間にライのチームを強豪へと押し上げる。
ランクマッチでの勝率はあまり振るわず、なんとか10段を維持出来るレベル。
ランキングに乗ったことなど無く、大会でしか目立った成績を出していない。
その可愛らしい性格からライのチームではマスコットとして扱われている。
晴也が一晩で調べられたのは、せいぜいここまでだった。
使うキャラやどんな考え方をしているのか、そのようなものは一切出て来なかった。
大会で優秀な成績を収めていると言っても、ほとんどはリーダーであるライへとスポットが向き、ハイネスに着目している記事はネットに転がっていなかったのだ。
(縁の下の力持ちってことか……)
それは、まさしく彼女にぴったりの言葉だった。
指揮官が優秀なのとそうでないのとでは、勝率に大きく関わってくる。
ライは良いチームメイトを持ったものだ。
ランクマッチでの勝率が微妙なのは、恐らく彼女の考察は子供の情報ありきだからだ。
情報が少ないのでは作戦の立てようがないのは晴也も同じなのだ。
しかも、自分ともう1人を守っていれば良い子供と違い、鬼は19人捕まえなければいけない。
そりゃ、頭脳派の彼女が輝く事はあまりないだろう。
(出来れば試合前に1度話しておきたいんだけどな……)
練習会では鬼側が常に勝ってくれたのでなんとかなったが、本番でもそうなるとは限らない。
相手が他ならいざ知らず、ライならば必ず対策を立ててくる。
となれば、最悪鬼が負ける可能性もあるのだ。
今回は本気で挑むと決めている。
なら、出来る限りの事をやるのがネクラとして筋を通すという事だ。
幸いにも、練習会では1回も捕まらずに済んだが、それはそれでハイネスのやる気に油を注いだ可能性もある。
(これは、やらかしたかもな……)
とりあえず、至急でライに連絡をとってみよう。
あんまり私用で話すのは好きではないけれど、今回は緊急事態なので仕方がない。
早いところハイネスと連絡を取り、少なくともフレンド登録、上手くいけばそのままお互いの考え方を共有したい。
初めて出来たライバル(一方的に思っているだけ)なのだ。この機を逃す手は無い。
〖先日の練習会のことで、ハイネスさんとお話がしたいのですが、取り合っていただけませんか?
2人きりが心配だというのなら、ライさんが付き添っていただいても構いませんので……〗
すぐに返信が来るとは思っていなかった晴也だが、5分後にはやけに深刻そうな文面で返信が来た。
その内容はこうだ。
〖ちょうど良かったです。
私もネクラさんに聞きたい事がありましたので、3人で、ということならハイネスに話を通しておきます。時間は確認を取ってから再度連絡します〗
ライが自分に聞きたい事がある。
その内容は気になったけれど、1番はハイネスに取り次いでくれると言われ、まずは一安心だ。
練習会が終わった後に怒られたので、もしかすると断られるかもと不安だったのだ。
――20分後
思っていたより早くライから返信が来た。
内容はハイネスが了承してくれた事。そして、この後すぐでも問題無いかとのことだった。
晴也は一睡もしていないとはいえ、暇なことに変わりは無かった。
〖問題はありませんよ。先にギルド内で待っていてください。すぐに行きます〗
流石に一睡もしていないのにすぐにVR世界へと行くわけにはいかない。
しっかりと目を覚ましてからでないと、相手に失礼な事をする可能性だってある。
お風呂には入っておきたい。
「申し訳ありません。お待たせしました……」
シャワーを浴びて超特急でログインした晴也は、ギルド内のいつもの部屋で楽しそうに談笑している2人を見て頭を下げた。
1人はこの間装飾店で見た大人びた女性だ。
もう1人は、腰まである白い髪とどこか自信のなさそうな顔。そして、ネグリジェのような物を着ている10代後半くらいの少女だ。
「問題ありませんよ。私達も数分前に来ましたので」
「そう言ってもらえると……。ハイネスさんも、急にお話がしたいと無理を言って申し訳ありませんでした」
「い、いえ……。私も、話したいと思っていたので……」
やはりどこか不安そうで自信ななさげなその声からは、あの天才のような感じはまるでしない。
それどころか、始めたばかりの初心者と言われてもすんなりと信じてしまいそうな感じだ。
「じゃああの……私の話題は恐らく長くなるので、先にライさんから伺っても良いですか? 私に聞きたい事があると……」
「そうですね……。練習会の映像は、もうご覧になりましたか?」
「鬼側の視点だけですが確認しました。何かありましたか?」
「その、ハッキリおっしゃっていただいて構いませんので、私のプレイがどうだったのか、意見が欲しくて……」
恐る恐るといった感じで聞いて来たライは、そのまま覗きこむように反応を伺ってくる。
どうだったかと言われても……正直、良くも悪くも聞いていた通りのライ。そんな風に見えた。
どんなに無謀な状況でも仲間を助け、自分が死ぬと分かっていながらも仲間の為なら危険を顧みない、歪な戦い方。
「その戦い方が、仲間の足を逆に引っ張っているのかもしれない。そう思い始めているんです……」
「ちょっとライ!? そんなこと無いって皆言ってたじゃん! いつも助かってるって!」
「ごめんハイネス。でも、今は口を出さないでほしいの……」
「……分かった」
なんだか、最近どこかで聞いたような悩みだけど、どうせSNSか何かで相談された内容だろう。
そういった相談は日々数えきれないほど来るから覚えていない。
「ハッキリ、言っても良いんですか? 戦い方は人それぞれです。それこそ、私とライさんの戦い方はまるで違う。その私がアドバイスをするなんて、あまり参考にはならないかもしれませんよ?」
「それでも構いません。仲間をひたすら助ける戦い方は、仲間の足を引っ張ってしまうのか、その答えが欲しいだけなので」
「……では、正直に答えます。仲間を助けるのは悪い事ではないでしょう。しかし、限度というものがあります。その限度を超えると、ライさんの言う通り味方の足を引っ張ってしまいます。仲間を見捨てた場合が良い。こういう状況は少なからずあるからです」
「それは……分かっています」
「見捨てた方が良い場面で無理に助けようとすれば、それは勝ちを負けにする行為になりえます。現状のプレイを全て変えろとは言いません。ただ、味方を見捨てる事が時に必要だと、割り切った方が良いです。今のあなたは、仲間が危険だと知れば見境なしに助けようとしている。悩んでいるというのなら、そこは直した方が賢明かと思いますよ」
出来る限り柔らかく、真剣に答えたつもりだ。
これを受け止めるか、そうではないと突っぱねるか。それは彼女に任せるけれど、思ったことは全て伝えたつもりだ。
晴也は味方を犠牲にする事になんら躊躇はしない。
分かりやすく言うのなら、練習会の1試合目の最後だ。あれは、仲間の犠牲があったからこそ成功した作戦なのだ。
「もちろん、仲間を無駄に犠牲にする事は私もしません。ただ、やはり必要な犠牲というものは存在します。全てを救おうとするのは無謀だと、私はそう思います」
「……分かりました。ありがとうございます」
「お役に立てたのなら、良かったです」
ライは分かりやすく肩を落とすと「後は2人でどうぞ」と言い残し、ログアウトしてしまった。
残された2人は、顔を見合わせるとどちらからともなくため息をついた。
「ライさんは、前からあんな感じなのですか?」
「いえ……練習会が終わった後からですよ。ただ、あの様子だと近いうちに復活すると思うので、あまり気にしないでください」
「そう、ですか……。ハイネスさんがそう仰るのなら……」
自分よりはるかに長い付き合いのハイネスがそう言うのだ。
最近話すようになった自分がどうこう言うのは違うし、そこまでするのは大きなお世話というものだ。
ただ、このまま大会を迎えることは本意ではないので、ライが復活したら知らせて欲しいとハイネスに伝える。
「なんでそこまで……?」
ハイネスは不思議そうに首をかしげたが、晴也としては簡単だ。
せっかく尊敬している人と戦えるのだ。お互い万全の態勢で戦いたい。
ネット上では既にネクラとライのチーム、どっちが優勝するかの議論が白熱している。
もしライが本調子でなくとも敗北すれば、世間はそれを負けとみなす。尊敬しているライがそんな目に合うところなど、見たくは無い。
「そうですか。噂通りで安心しました」
「噂通り……ですか?」
「はい。ネクラさんは、優しい方なんですね」
ハイネスは満面の笑みで微笑むと、恥ずかしそうに顔をそむける。
晴也は、自分が世間からどんな目で見られているのかと困惑しつつも、女の人から優しいなどと言われて、少しだけ頬を赤くしていた。
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