第189話 新マップと脱出ミッション
初戦のいちご&ミルク戦はそのままストレートで勝利を収め、2回戦進出となった。
子供側は言わずもがな、鬼側の面々も危なげなく勝利を収めていたのでそこは一安心だ。
ここにきて急激に環境が変わってて勝てなくなりました。とか言われたらどうしようかと密かに心配だったのだ。
ちなみに鬼側は、マイさんがいつも通り主軸になって滅茶苦茶な数を確保しつつ、ハイネスさんが頭の方面でサポート、シラユキさんが予測をしてハイネスさんをサポートして、マイさんが取りこぼした人達をミナモンさんが掃除するという綺麗な陣形が出来上がっていた。
いくら僕でも、ハイネスさんと頭脳戦を繰り広げつつマイさんの圧倒的な索敵能力とシラユキさんの原理不明の予測を回避しつつ、時々意味不明な行動をするミナモンさんを躱す自身は無い。
というか、ハイネスさん単体だった頃のライのチームとやった時も大概だったのに、そこにマイさんが加わったらそれはもう理不尽というしかない。
まぁそれはそれとして……今は第二回戦。相手は北海道かどこかの企業が運営というかスポンサーをしているプロチームだった。
実力はそこそこ、大会での優勝経験は……小さな大会で何度かというレベルだ。
ちなみに、大きな大会で優勝経験のあるプロチームなんてものはほとんど存在していない。それは、大抵が以前のライがいたチームと勝負して敗北しているからだけど……。
春香が賞金女王と言われていたその実力は凄まじく、ほとんどの大会で優勝しており、賞金額の少ない……もしくはそもそも賞金が出ない大会は目もくれていないのでそんな大会でプロ達が優勝を重ねているという訳だ。
強豪チームが強豪と言われるゆえんも、何度かライのチームを倒している可能性が高く、かなり実力者が揃っていたあのチームを倒すのは容易じゃないからだ。
交流戦をやった時も、マイさん率いる鬼側は全勝してたけど、子供は1回しか勝てなかった記憶あるし……。
まぁそんなことは良いとして、今は目の前の事に集中しよう。なにせ、今回は新マップと新試練が同時に来ているのだから。
それも、ゲーム開始直後から試練が発動されている状態という極めて特殊な状況で、新マップもその試練に関連しているという結構作りこみを感じるものだ。
マップは貴族の屋敷のような豪華でだだっ広い屋敷で、携帯に配布された地図を見た感じだと3階建てで幽霊病院に近い感じなのだろう。
ただ問題は、廊下の窓から見える景色が同じ階を歩いていたとしても景色が違う所だ。
例えば、僕が今いるのは地図を見る限り1階の食堂なんだけど……食堂の北側から見える景色は周りに広がる森が見えるだけだ。
だけど、南側の窓からは森の上部……分かりやすく言うなら木の上部が見えているのだ。
(……どういう事だろ)
つまり、窓から見える景色がはちゃめちゃなのだ。
1階にいるはずなのに3階の景色が見えるし、チームの全体チャットを見る限りだと全員が同じ状況に陥って困惑しているらしい。
地図が見え無くなれば多分滅茶苦茶に困惑するだろう。
「これが、子供側が即勝ちになるような試練とマップ……って事ですかね?」
困惑しながらそう聞いて来たのは、偶然合流できたサカキさんだ。
最近奥さんが2人目を授かって滅茶苦茶に浮かれていたけど、生活費とか諸々を稼ぐためにも優勝しなければいけないと意気込んでいる1人でもいる。
「多分そうだと思います。試練の内容もなんじゃこれってやつですし……」
「探索系ってのはまた新しいですね~。謎解き要素はなさそうですけど」
「……なんでちょっと残念そうなんですか。無くてほっとしてるんですけど」
少なくとも1回戦のような謎解きは今後一切出ないでほしい。それくらい面倒だったし、頭だけで解けない謎解きなんて、それは謎解きとは言わない。なんて……思わず愚痴を吐きそうになる。
ちなみに、ゲーム開始直後から発令された試練はこんなものだ。
『強制試練
この屋敷から脱出せよ。脱出口は無論屋敷の玄関口となっているが、子供側にはその場所以外を記した地図を配布している。(鬼側には玄関口の記された地図を配布済み)
なお、玄関口にはチェーンがかけられており、それを外さなければ屋敷から脱出することはできないので気に留めておくこと。
チェーンを外すカギは屋敷のどこかに隠されている。
その場所のヒントは通常、試練が出題されるタイミングで通知される。参考にすると良いだろう。もちろん、鬼側にはカギの位置は通知されないが、子供側がカギを入手したタイミングでその旨が通知される。
なお、このマップの特殊ルールとして以下の物を追加している。
1 鬼は脱出口付近に連続して5分以上滞在することはできない。破った場合は子供側へ鍵の場所が通知される。(既にカギを入手していた場合は子供側の勝利となる)
2 子供が地図を確認できるのは誰かしらがカギを入手するまで。入手後は地図を確認する事が出来なくなる。
3 1人でも屋敷の外に脱出できればクリアとなる。その為、子供が残り1人になったとしてもゲームが終了することは無いものとする。
4 屋敷から脱出した場合、その時点で子供陣営側には難易度10の試練を3回クリアした時のポイント×20人分が配布される。
5 強制試練中とはなっているが通常の強制試練とは異なる為、誰かしらが捕まっても強制終了することは無いものとする』
正直見た瞬間はなっが!とボヤいてしまったけれど、新マップと新ルールなのだからこれは当然だろう。
いきなりこんなマップに投げ込まれて、ゲーム性は同じといえどもまったく別のゲームをやっている感覚になる。
まるで、僕らは貴族の屋敷に誘拐された子供達で、追ってくる殺人鬼から必死で逃げるような貴族の道楽……。どこかにあるようなでゲーム小説みたいな展開だ。
いや、数十年前に流行った剣のゲームじゃないんだから現実に死ぬなんてことは無いんだけどさ。
「……ネクラさんから見てどうですかこの試練とマップ。子供と鬼、どちらが有利とか」
「正直、鬼が有利すぎますね。第一に、カギを入手したとしても窓の景色に惑わされてまともに脱出口まで行けるか怪しいですし、子供側にかなりの制限が設けらているのに対して、鬼側の制限が緩すぎます。脱出しないと勝てないんですから、鬼が本気で僕らを捕まえに来ずとも最悪勝ててしまうという点も……かなりしんどいポイントですね。負けた場合は一切ポイントが入らないので、引き分けた場合でも問答無用で負けになりますし」
「そこですよねぇ……」
そう。
この新マップと新試練の一番の欠点は、仮に引き分けた場合でもこちら側には一切ポイントが入らないので、相手が通常のステージを引き当てていた場合は問答無用で負けになってしまうところにある。
代わりに、脱出が出来れば引き分けた場合でも問答無用で勝利することができるし、これがランクマッチに実装されればぼろ儲け出来るだろう事は想像に難くないんだけど……。
(それにしても限度ってものがあるでしょ。極端なんだよなぁ……)
確かに面白い試みではあるけれど、負けたら問答無用で敗北になるところだけはいただけない。
せめて、こちら側がこんなマップになるんだったら相手も同じようにして試合時間の長さで勝敗を分けるようにした方が良いのではないだろうか。
仮に世界大会でこのマップのせいで勝ち負けが決まることになれば、ほとんどというか絶対に炎上するだろう。
かなり盛り上がってるんであれば余計だ。
「ま、それはともかく……頑張りますか」
「ですね。じゃあ、今回は指揮官アリの方がよさそうですね。全員逃げる編成で余裕はあると言っても」
「ですね~。指揮した方が良いと思います。一応皆さんにも意見を聞いておきますけど」
その2分後、かなり久しぶりに僕が全体の指揮を取ってゲームを進めることが決まった。
まず最初は事細かなマッピングだ。どこにどんな施設があって、どんなものが置いてあってどんな雰囲気なのか、そしてどこに階段があるのか。
それを、地図を見ずとも大丈夫なように逐一報告、写真を撮ってもらうだのして送ってもらう事から始める。
ほら、ダンジョンとかを進むときって、ゲームでも小説の中でもまずマッピングから始めるでしょ? まさにあんな感じだ。
その過程で誰かが捕まってしまおうとも、最悪1人が脱出できれば良いのでそこはあまり考えないで良いと通達しておくことも忘れない。
(勝てるかな……)
もちろん表情には出さないけど、子供のようにワクワクしながら食堂を調べるサカキさんを見つつ、僕はそう思った。
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やる気が、出ます( *´ `*)




