第188話 真骨頂
謎は解けた。何も難しいことは無い。この数字の並びは硬貨のそれと全く同じだ。
5円玉から始まり、10円玉、50円玉、100円玉の事だろう。
僕が2つ足りないと言ったのは、もちろん1円玉と500円玉の事だ。
そして、硬貨に関してはこの競馬場に転がっていても別に不自然ではないし、それが建物内に設置されている自販機の下ともなればそれは置いているだとか捨ててあるなんて表現は相応しくない。まさに、転がっているという表現が最も適している。
「硬貨……。でも、この稲っていうのはなんなんですか?」
「それはですね、硬貨の表面に描いてある植物に起因していると思います。ほら、5円玉硬貨の表面には稲……というか、稲穂が描かれてるじゃないですか。多分ですけど、この『?』に入る物は、それぞれ各硬貨の表面に描かれてある植物だと思います」
「私も同感です。それで、そのヒントになるのが自販機の下にあるから探してみな?って言いたいんだと思いますよ。これ、知識だけで解くにはちょっと難しいですから」
「100円が桜、50円玉が菊……だったかな。10円玉が怪しいんですよね。あれ、植物とか描かれてましたっけ?」
「最近めっきり電子マネーで会計済ませちゃいますからねぇ……。硬貨なんて見る機会ないので私は……」
そうなのだ。この問題の肝は、最近硬貨やお札なんかの現金で支払いをする機会が減っている現代人には縁遠い硬貨だからこそ、その知識だけで解くのが困難という所だ。
もちろん解ける人は解けるだろうけど、ほとんどが電子決済の昨今でこの問題をパスできる人は多分いないだろう。
これが、なんで新試練として出題されてるかは分からないけど……。
「確かに、今のままだと普段の試練とあんまり変わりませんね。ちょっとめんどくさいかなくらいで……」
「う~ん、まぁ一応解けたので指示を出しましょう。自販機の下を探してもらって表面を写メってもらえば一発で分かると思います」
「ですね!」
ミミミさんはまだ若干話に着いてこれていないようだけど、事態は急を要するので早速指示を出す。
すると、数分のうちに各硬貨の写真が次々に送られてくる。やはりというか、自販機の下に埃だらけになった硬貨が複数枚転がっていたらしい。
埃だらけって……そんなところまでこだわる必要性はまったくもって感じないけど。
「……ちょっと待ってくださいよ。10円玉に描かれてるの、これどこですか?」
『……』
だが、ここで問題が出てきた。
それは、10円玉硬貨に描かれていたのはなんと植物ではなく建物だったのだ。それも、建物名なんて書かれていない物で、それがどこなのかすらよく分からないという点だ。
外に出ない僕でも、流石に首里城だったり各県にある城の名前くらいなら答えられるけれど、そんな有名な観光スポットでもない限りは絵を見ただけじゃ分からない。
「なぁぁぁ!! ここどこだっけ! 日本史でやった記憶ある!」
「……ミミミさん、ここどこだか知ってますか?」
「いえ、お力になれず申し訳ないです。私もおまるさんと同じく、日本史か何かで勉強した記憶がある程度で……」
申し訳なさそうに頭を下げるミミミさんは凄く珍しい気もするけれど、実を言うと僕もネットでその画像自体を見たことがある程度で建物名までは流石に覚えてない。
日本史かどうかは忘れたけれど、僕が覚えてないという事はここはテストに出てこなかったところなのだろう。
テストに出てくるところであれば、暗記問題が中心の日本史で僕が忘れているはずが……
「いや……待てよ? 最近うちの妹が日本史勉強してたような……」
そうだ。おまるさんが来た時、ちょうど夏休みの宿題とか言って日本史を勉強していたではないか。
その範囲にこの建物があったかどうかは分からないけど、聞くだけ聞いてみよう。
幸いにも、春香はまだ生存しているらしく電話が繋がる。
「なに!? 今チェイス中!」
電話をかけると、開口一番焦りまくっている様子のライの声が聞こえてくる。
スピーカーにしているのでミミミさんとおまるさんにも丸聞こえなのだけど、そこは本人に知らせない方が良いだろう。
まぁ、追いかけられている最中なら単刀直入に聞いた方が良い。
春香には無敵の能力を勧めているけれど、春香が素直に従ってくれているかは分からないし。
「10円玉硬貨に描かれてる建物がどこか知ってる?」
「あ~!? 知るわけないでしょそんなの! ていうか、実物見たことないんだけど!」
これが、この問題の恐ろしい所だ。
電子決済が当たり前のこの時代、硬貨なんてそもそも見たことないっていう人は一定数居る。僕もその一人だけど、ネットで画像だけは見たことがあるので知識があるだけだ。
「じゃあ今すぐ全体チャットで確認して。答えられそうなのがライしかいないんだよ」
「チェイス中って言ってんでしょ!? だぁぁぁ!」
そう言いつつ苛立ちを隠そうともしないで数秒黙った春香は、呆れながらも「分かったぁぁぁ!」と叫んだ。
「ほんと!? どこ!?」
「京都にあるあそこ! 平等院なんちゃら堂!」
「な、なんちゃら……?」
「世界遺産! 藤原頼通が作ったやつ! これ以上は無理! パス!」
それだけ言って一方的に電話を切った春香は、いよいよチェイスに集中したいのかその後何度か電話をかけてもそれを取ることは無かった。
ただ、そのヒントだけで大体は察しがついたので2回目で出なかった時には諦めて自分の記憶の引き出しを掘り起こす。
「京都にある世界遺産で、藤原頼通が作って、平等院と名前がつくものって言えば平等院鳳凰堂しか思いつかないんですけど、何かありますか?」
「自分はそこまで日本史詳しくないので……」
「同じくです。お恥ずかしい……」
「じゃあ、とりあえずこれで行ってみましょう」
まだ自信は無いけれど『?』の部分に各硬貨の表面に描かれている建物と植物を入力し、その答えに至った理由まで丁寧に記載して送信する。
これで正解だったら試練クリアの通知が来るのだが……。
「新たな問題……? はい?」
「私のとこにも来ました。試練、まだ続いてるみたいですね」
「……新試練ってこういう事か」
なんと、最初の謎解きは正解だったようだが本番はこれからだとばかりに次の謎が送られてきたのだ。
その内容は前回の物と同じようなものだったが、少々面倒な事になっている。
『では、1円玉と500円硬貨に描かれている植物を答えよ。
なお、それら2つの硬貨に関してはステージ上に転がっているという事は無い。どうにかして手に入れ、その写真と共に答えを送信してくること』
ハッキリ言ってめんどくさい。
引き分けの時のポイント条件が無ければこの時点でスルーする案件だ。
というよりも、普通の試練は大体最初の謎解きをクリアした段階で終了なのに、なんで今回は違うのか。
さらに厄介なのは、知識だけで攻略されないようにステージ上に転がっていない硬貨を手に入れて写真付きで答えを送ってこいと言ってきている所だ。
1円玉の表に描いてある植物は若木で、500円玉が桐という事くらいは知っているけれど、問題はそれをどうやって手に入れるかだ。
「単純に考えて、このお客さんたちに貰うか両替してもらうかしないといけないんでしょうけど……馬券を握り締めてる人たちの中から、それもただでさえ財布に入れてる可能性が低い硬貨2種類を貰うって、なかなかハードル高いですね」
「……コミュ障の僕には絶対に無理なので、現時点で硬貨を持ってて人に話しかけるのが全然大丈夫な人にやってもらいましょう」
「そう言う事なら、私達も硬貨探しに行ってきましょうか。プログラムなら別にそこまで気にしなくて大丈夫なので」
「くれぐれも無理はしないでくださいね。捕まったら元も子もないので」
『了解です』
その十数分後、試練終了3分前に何とか硬貨を持っている人を探し当てたジョーカーさんが試練をクリアして日本予選初の試練は終わりを迎えた。
やはりというかなんというか、硬貨それ自体を持っている人がかなり少なく、持っていたとしても10円玉や100円玉がほとんどで肝心の硬貨を持っていない人がかなりの数いたらしい。
試練とはいえ、そこまでこだわる必要なんてないだろと叫びだしたくなるけれど、ゲームだしまぁ現金なんて持ってない人もいる現代ならリアルだよなぁ……と感心してしまう要素でもあるから何とも言えない。
でも1つだけ言えるのは……ゲームが開始して30分でここまで疲れたのは初めてだという事だ。
新試練の謎解き……想像以上に面倒でハードだ。
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やる気が、出ます( *´ `*)




