第17話 対策
所々何をやっているのか不可解な場面はあったけれど、とりあえず鬼視点の5試合は全て見終えた。
晴也の感想はただ1つ。
(味方で良かった~!)
戦術とかにはあまり向いていないマイさんだけど、その索敵能力は恐らく鬼陣営のプレイヤーでもトップクラスだ。
そうなると、頭で考えてから行動するタイプが多い上位のプレイヤーは、軒並みボコボコに出来るだろう。
恐らくだが、それは自分も例外ではない。
自分の強みは判断力の速さだ。
だけど、マイさんは直感型と言った方が良いのか、考えるより感じていると言った方が良いのか……。時々予想外の動きをしている。
鏡の前でボーっとしていたところは何をしているのか分からなかったけれど、それとは別で、何で子供の隠れている位置を次々と当ててくるのか、全く分からない。
(残っていた1人がライさんだと思っていたけど、普通に毎回捕まってるもんな~)
ライももちろん警戒していたようだけど、1試合目では仲間を庇って自分が捕まり、2試合目以降は仲間とともに隠れているところをマイさんに見つかってなんなく捕まっていた。
彼女も、なんで隠れていた場所がバレたのか理解出来ていないのか、毎度捕まる直前は不思議がっていた。
無理も無い。視点を見ていても、何が起こっているのか分からないのだから……。
それにしても、収穫だったのは優勝候補相手にこれだけ戦えるのなら、子供側がしっかりしていればまず問題無いという事だ。
マイさん以外の3人もかなりプレイが上手く、まさに鬼に金棒だ。
多分だが、大会で鬼側が負ける事はほぼないと考えて良い。
(一応、指揮官に決まったらしいソマリさんにはアドバイスを出しておいた方が良いか……)
鬼側の指揮官はソマリさんに決まったらしく、3試合目と5試合目にソマリさんが指揮を執った試合はかなり早く終わっていた。
だが彼女は、少々言葉足らずな事があるようなので、そこら辺を重点的にアドバイスすれば問題無いだろう。
後気になるのはミナモンさんか。
この人、指示は聞いているけれど、ほとんどそれを無視している。というか、指示そのものを右から左に流し聞きしているような気がする。
実際彼が指揮官になった試合は、マイさんが指揮を執った試合の次に長引いている。
恐らく、才能だけで9段まで上がって来たのだろう。まぁ、それはそれで凄いけど……。
(この人にはもう少し団体行動を意識して貰おう。プレイに関して気になるところは指摘しなくても問題無いだろうし……)
プレイに関しては、連絡という手段があるので最低限のことが出来ていれば問題になる事はない。
それに、優勝候補と言われているチームは自分たちとライのチームだけなのだ。そこまで警戒する必要はないだろう。
Aliceさんは流石の一言だった。
ランキングの常連であり、過去に1位を取っているだけの事はあって、何もアドバイスすることがない。
鬼のリーダー的存在として、3人を引っ張って貰おう。
(そうと決まれば、ソマリさんを呼び出してアドバイスをしておいた方が良いか。時間があれば良いけど……)
基本DMでやり取りをするのはこちらから募集を出した時だけだ。
それ以外の個人的なやり取りはギルド内やVR世界の中で行う事にしている。
これも、変な言いがかりをつけられて炎上を防ぐためだ。
幸いにも時間は問題ないとのことなので、ギルドに集合してもらい、アドバイスをつける事になった。
すぐにゲームにログインした晴也は、3分も待たずしてやってきたソマリに対し、軽くお辞儀をして床に座った。
「アドバイスを下さると……」
「指揮官となられたようなので、それに関して少し……ですけどね」
「私の言葉が足りない。という事でしたら存じております。ですが、私はあまり人と話した事が無いので……」
「あ~なるほど。でしたら、指示の出し方についてアドバイスをしますね。ソマリさんは具体的な指示を出そうと無理をしている気がします。違いますか?」
「……はい。具体的な方が分かりやすいかなと思いまして」
深刻そうな顔でシャツを着たネコ耳少女が頷く。
格好としぐさ、そして透き通るようなその声が全てごちゃごちゃな気がするけれど、今は無視しよう。
明らかに可愛いを狙っているアバターなのに、本人からカッコいいというイメージしか湧かないけれど、とりあえず無視しよう。
「具体的な指示の方が分かりやすいのは確かです。ですけど、私も人と話すのは苦手なので、あまり具体的なものは出せません。ですが、具体的に説明しようとして逆に説明が足りない現状よりは、大分マシになると思いますよ」
「……ネクラさんは、人と話すのが苦手なのですか?」
「……現実の話を持ち出すのは厳禁だというのを承知でお話しします。私は昔、苦い思いをした事があります。それで人と関わるのはあまり得意ではないんですよ」
「そう、だったんですか……」
はにかんだような笑いを見せたネクラに、目の前の少女は自分と同じかもしれないと少しだけ共感していた。
ただ、この話はネクラ自身も掘り返したくは無いものなのだ。さっさと本題へ戻る。
「具体的な指示は出さなくても良いんです。出せる事にこしたことはありませんが、無理をする必要はありません。端的に、どこに向かって何をしてほしいのか。それだけを伝えれば良いんです。それだけで、仲間は分かってくれますので」
「……じゃあ、その後の事まで細かく指示を出す必要は無いんですか?」
「はい。完璧な予定を立てるほど、崩れた時に大きな穴が開きます。なので、そこまで細かく指示は出さない方が良いでしょう。その都度連絡して貰えば良いんです」
「では、ハイネスさんが異常。ということですか? あの人が普通では無く?」
ハイネス。まさかその名前が出てくるとは思わなかった。
ライのチームの頭脳だと言われていた少女の名前だ。
自分が調子に乗ったせいで自信を無くさせてしまった、あの少女だ。
「お知り合いなんですか?」
「私は1度、ライのチームにお邪魔させていただいた事があります。その時も指揮を執っていたのはハイネスさんです。彼女の指示は凄く具体的で分かりやすかったので、てっきり……」
「あの人を基準に考えてはダメですよ。あの人は、戦術を考える天才だと私は考えています」
「ネクラさんよりも、ということですか?」
「……あはは。私は天才ではありませんよ。実際、あの人には負けましたからね」
実質的に勝ち星は3だったけれど、その内の1つは偶然勝ったような物なのだ。
実際の勝敗は2勝3敗。晴也はそう考えていた。
最初の2回で自分でも気付かなかった考え方の癖を見抜き、それを逆手にとって翻弄された。
ハッキリ言って化け物だ。
「まぁあの人の話はさておいて……。少しは自信になったでしょうか?」
「はい! ありがとうございます!」
「良かったです。では、調整の時はよろしくお願いしますね」
「もちろんです!」
そう元気に言い残すと、少女はゲームからログアウトしていった。
残された晴也も早々に現実世界へと帰還し、先ほど話に出て来ていたハイネスというプレイヤーについて対策を立てるため、SNSで情報収集を始めた。
いくら晴也でも、自分が初めて知恵比べに負けた相手は知っておきたかった。
大会ではまず間違いなく当たる相手なので、研究しておくにこした事は無いのだ。
そしてその日、彼は一睡もせずハイネスについて調べていた。
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やる気が、出ます( *´ `*)




