第181話 おまる 出勤
明日はお休みです。
次回の更新は月曜日にしますm(_ _)m
ハイネスさんと正式にお付き合いすることが決まった翌日、朝の10時過ぎくらいに家のインターフォンが鳴って来客を告げた。
その相手は前もって泊まりに来たいと言っていたおまるさんで、僕はあらかじめ人前に出ても恥ずかしくない部屋着姿になっていたのでそのまま正面玄関を通過してもらう。
ちなみに、春香はまだ自室から出てきてないのでゲームでもしてるんだと思う。
僕自身が昨日から寝てないってのもあるけど、僕1人でお客さんをお迎えして春香が前もって指定してくれていた服を着ているってのは進歩だと思うんだ?
いや、当然だろって言われたらそうなのかもしれないけどさ……。
そして、しばらくして玄関のインターフォンが鳴ったのでそのままドアを開けると、その先には紅葉狩りの時よりちょっぴりラフな格好をしているおまるさんと、隣には見覚えのない女性の人が立っていた。
その人はおまるさんの、どこかだらしない感が漂うお姉さんという見た目とは真逆で、ピシッとしたスーツを着込んで眼鏡をかけているまさに仕事ができる女秘書って感じだ。
多分だけど、大体の男の人が仕事ができる女性秘書さんをイメージしてもらったら出てくるだろう人をそのまま具現化したような感じだ。
「あ、あの……こちらの方は?」
「あ~、この人はうちの編集ちゃんで、挨拶だけでもってうるさくって」
「笹森です。この度は、うちの先生が無理難題を言ってしまいまして申し訳ありません」
ペコリと頭を下げたその女性は、クールというかとても落ち着いた綺麗な声だった。
ほんとに色んな意味でおまるさんとは真逆の人だけど、とりあえず立ち話を長々とするのは失礼という事くらいは知っているので家に入ってもらう。
「うわぁ……。こんなところに住まわれてるんですね」
「妹と2人暮らしですけどね……。適当に座っててください。今飲み物を……って言っても、カフェオレかオレンジジュースかお茶しかないんですけど……」
「私はお構いなく。すぐに失礼いたしますので」
ニコッと微笑むと、笹森さんは手元のバッグをソファにおいてゴソゴソと中を探る。
その後、申し訳なさそうに苦笑するとまずサインを求めてきた。いや、別にいいけど……こんなピシッとしたカッコいい大人の人も、僕のファンなんだとちょっとだけ驚いてしまう。
まぁ、ミミミさんとかもそうだけど、結構仕事のできるような女性の人は僕なんかよりもっとカッコいい人を好きになると思っていたんだけど……。
「ま、まぁ私の件は良いんです……。それより、ほんとに大丈夫ですか? 変な噂されたら面倒な事になりませんか……?」
「あ~、僕は大丈夫ですよ。基本的に家から出ないですし、数日泊まるだけなら。それに、ほとんどゲームか調べものしてて部屋から出ない気がしますし」
「そ、そういう事じゃ無いんですが……。まぁ、ネクラさんがそう仰るなら……」
複雑そうな笑みを浮かべてサイン色紙を大事そうにバックに戻すと、おまるさんと何事か会話した後にそそくさと家を後にした。
一方のおまるさんは、僕が注いだカフェオレを美味しそうにゴクゴク飲むと、早速テレビの電源をつけてニュース番組を物色し始めた。
「『今話題沸騰中のネクラさん、チームメイトとお出かけ! その正体とはいかに!』ですって! 大変愉快なニュースですね~」
「それ見たかっただけですか……。お仕事してくださいよ……」
「やる気のない時に無理に作品作ろうとしてもしょうもない物が出来るだけですよ。こういうのは、ダラダラとやる気が起きるのを待つ方が良いんですって~」
「……海外か何かの論文で、やる気っていうのは最初は無くて当然。むしろ、物事を始めてやっとやる気が湧いてくるのが普通だって見たことがありますけど……」
「そりゃそうですけど……あ、そういえばネクラさん! 私の新作、人死には出るしひたすら救いのないダークストーリーと、人死にはでないけどなんかふんわりとした謎解きミステリーにするかで迷ってるんですよ。どっちが読みたいですか?」
なんだその究極の2択というか、極端すぎる2択は。
そして、驚くなかれ。この人がこの家に来てからまだ10分も経過していないのだ。
そんな短時間でまるで家族のようにこのリビングに溶け込んでソファでダラダラテレビを見るというのは、もはや才能を感じざるを得ない。
「僕は……救いのない話の方が好きですね。鬱になるような話が好きっていうのもありますけど、おまるさんの一作目もそういう話だったので、出来ればそっちの方が読みたいです」
「さっすが~! 実は、私も書くならそっちが良いって思ってたんですよ! いくらミステリーって言っても現実と同じく誰も幸せにならないし、救いがないストーリーがあっても良いと思うんです! 現存してる奴大抵どこかしらに救いの要素あるから嫌いなんですよ! 現実はそんなに甘くねぇだろって!」
「あはは……」
いや、過去に何かあったのかと思うほど、この人の現実に対する憎しみが深いのはなんなんだろうか。
流石に藪蛇になりかねないから突っ込まないけど、春香もそうだしうちの男性陣の何人かもそうだけど、闇抱えてる人多すぎない……?
それとも、僕がバイトなんてしたことがなくて社会を知らないだけで、社会に出たらこんなことなんて日常茶飯事というか、当たり前の範疇なんだろうか。
だったら、僕は一生社会になんて出たくない。
タンポポの綿毛レベルのメンタルじゃ、絶対一年持たずに引きこもるだろうし……。
「で、さらに迷ってるのが恋愛要素を入れるべきかどうかなんですよ。今度の主人公はちょっと年齢を上げて高校生くらいにしようと思ってるんで、思春期真っただ中の少年か少女が恋の1つも経験しないなんておかしいと思いませんか!?」
「……恋愛がなんたるかあんまりよく分かってない人にそれ言いますか? 個人的には無くても良いと思いますけど……入れるとしたら想い人が既にこの世にいないとか、そっち系の設定の方が良いですね」
「ほう? それはまたなんで」
ニュース番組のお姉さんが分かりやすく僕とハイネスさんが回ったデートコースを解説している音声が少しだけ鬱陶しいけど、気にしても仕方がないのでそのまま話を続ける。
「だって、恋愛要素なんて入ったら途端に話がややこしくなるじゃないですか。本来はダークな部分に費やせるはずのリソースやページ数がそっちに裂かれちゃう原因にもなるので、片方がこの世にいなくてたまに思い出すかな……くらいがちょうどいい気がして」
「あ~、凄いですね。ここまで私と同じ思考で物事考えてくれるの、ネクラさんが初めてですよ」
「僕は作品の好みを言ってるだけなんですけどね……」
「私の好みとすっごく合ってるのは凄く嬉しいです! やっぱり、泊まりに来てよかったです!」
満面の笑みでコクコクと頷くおまるさんは、時折ニュースで解説されている昨日の僕らのデートコースをふーんと言いながら流し見していた。
なんか変な圧をかけられている気がするというか、付き合ってないのに「私はお前が浮気したのを知ってるぞ」って言われてる感じがして凄く気まずいんですけど……。
「そういえば妹さんはどちらへ? 買い物ですか?」
「あ~、いえ、春香はまだ自室です。多分ゲームしてるんじゃないかなぁと……」
「そうですか……なら、出てきたらちゃんと挨拶しなきゃですね! あ、その前に手毬ちゃんにも会わせてください!」
この人のテンションの変わりようというか、紅葉狩りの時はこんな感じの人だったっけ?っていう謎のテンションの変わりようはなんなのだろうか。
とりあえず手毬のいる猫部屋へと案内すると、手毬は知らない人がいるせいか、いつもは真っ先に僕の元にトコトコ走ってくるのに、今回ばかりはおまるさんを警戒しながら僕の元へとゆっくり歩いて来た。
「配信見てましたけど、やっぱり可愛いですね~」
「ちょっと人見知りなところありますけど、変なことしなかったら大丈夫ですよ。顎の下らへん撫でられるのが好きみたいです」
その後しばらく手毬と戯れたおまるさんは、突如猫部屋を出ていくとリビングでノートパソコンを広げカタカタと何事か打ち込み始めた。
その時、おまるさんが何事かブツブツ呟いてるのを見て、僕は初めてこの人が怖いと思った。
「にゃ~……」
僕の腕の中にいる手毬も同じことを思ったらしく、同意するように鳴いてくれる。
そんな僕らの事は気にする様子もなく、おまるさんはものすごい速さでキーボードを打っていく。
「おれの嫌いな言葉は一番が『努力』で二番目が『ガンバル』なんだぜーッ」
何とか聞き取れたおまるさんの独り言は、なんちゃらの奇妙な冒険で見た覚えのあるセリフだった気がするけど……うん、絶対に気のせいだと思いたい。
はぁ......。この人、こんなに癖強かったかな……。
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やる気が、出ます( *´ `*)




