第179話 軍師の恋物語 アンコール
ネクラさんの家に案内されると、そこにはリビングのソファでくつろいでるライの姿があった。テレビには今話題の韓国ドラマが映っていて、私は見てないけどライはかなりハマってると前に言っていたものだ。
学校に行ったらライとは必ず話すんだけど、その時もこの韓国ドラマの事とか俳優さんの話は結構出てくる。
まぁ、好きとかじゃなくてイケメンだから人生苦労しなさそうとか、そんな会話だけど。
「あれ、ハイネス? どしたの?」
「ネクラさんに誘われちゃってさ? お邪魔だった?」
「まっさか~。ほら、座りな~? 今ジュース出すから」
「ありがと~!」
すぐにライがキッチンの方に歩いていき、ネクラさんは一言断ってから自分の部屋へ荷物を置きに行った。
その間、私はライが座っていた近くに腰を下ろす。
「にゃ~……」
「……お邪魔してます。手毬ちゃん」
真っ先に寄ってきて不審者というか、邪魔者を見る目で見つめてくるこの家の主……じゃないかもしれないけど、ライバルに私もなんとなくの笑顔を向ける。
あからさまに不機嫌そうにもう一度にゃーと鳴くと、手毬ちゃんはさっさとネクラさんの部屋の前に行って主人が出てくるのを待つ姿勢に入る。
「……手毬ちゃんって、いつもそんな感じでお兄さんのこと待ってるの?」
そう言うと、ライはコップにいつものオレンジジュースを注ぎながらうんと頷いた。
その顔には呆れ半分、羨ましさ半分が混じっているようでなんだかちょっとだけ可愛い。
「私がいる時は基本外に出してるんだけど、お兄ちゃんが部屋にいる時はほとんどそこでスタンバイしてるよ? 今みたいに帰って来た時とかもそうだけど」
「へ~。よっぽど好きなんだね~」
「まぁ私よりたくさん遊んでくれるし、おやつもくれるし、甘やかしてくれるからね。お兄ちゃん、好きな事とかになるととことん調べるから、猫がされて嬉しい事とか沢山調べてるんじゃない?」
「あ~……それはあるかもね」
私の分のコップだけにオレンジジュースを注いで戻って来たライは、その後テレビをドラマから適当なニュース番組に変える。
そのタイミングでネクラさんが自分の部屋から出てきて、手毬ちゃんを抱きかかえながらソファへとやってくる。
「お待たせしました……。ねぇ春香。ちょっとだけ席外してもらっていい……?」
「……まぁ、お兄ちゃんがそう言うなら」
「ありがと」
そう言うと、ネクラさんから手毬ちゃんを受け取ってライは猫部屋へと姿を消していった。
なんで猫部屋なのか。それは、自室よりも手毬ちゃんと遊びやすいかららしい。
なんか、ネクラさんだけじゃなくてライも手毬ちゃんに取られた気がするけど……今はそんなことでモヤモヤしている場合ではない。
私の予想が正しければ、ここでもう返事をもらえるのだ。ちょっとだけ、緊張する。
「えっと……取り繕うのは苦手なので早速本題に……。だいぶ前になっちゃいましたけど、その……告白してもらった件についてその、話しても……良いです、か?」
「はい……」
ほら、やっぱり来た!
なんでそんなに深刻そうな顔をしてるのか分からないけど、どんな結果でも私は受け入れようと思う。
いや、振られたらそりゃショックだけどさ? それでも、せめて本人の前では泣かないようにしようって決めてる。
前は策を弄してなんとか恋人になろうとしたけど、それ以降は単純に好意をぶつけて、ライバルにネクラさんを取られないように注意しつつ、時々ファンとしても接しつつも、適度に駆け引きをしてきたつもりだ。
そりゃ、恋愛的な絡みというか、直接的な絡みは少なかったしデートと言えるものも今日の物だけだ。
だけど、それだけでも基本家から出ないネクラさんと外でデートできたというのはかなり嬉しかった。
私は、ネクラさんに一度振られたあの日から、自分のやれることは全てやってきたつもりだ。
ネクラさんも、好きになる努力はしてくれると言っておきながら何もしてないって言っていたけれど、それは違う。
ちゃんと、私の事を考えてくれているのは分かっているし、チームメイトとしてだけではなく接してくれていると感じる。
その主な理由だけど、こうして気軽に家に上げてくれたり、頻繁に会ったりしてくれるところだ。
いくら告白されているとはいっても、これが他のチームメンバーからの申し出だったら何かと理由をつけて断っているはずだ。その点、私の事をちゃんとチームメイト以上の人として見てくれていると、私は感じる。
他の人がどう思っていても、私がそう思っていれば良いんだからネクラさんがどれだけ「いや、自分は……」と思っていても関係ない。私は、そう感じているんだから。
「その、今日は……ほんとに楽しかったです。初めてのカラオケも、一緒に映画見た時も、ご飯食べた時も……。誰かと出かけてこんなに楽しかった記憶は、無いです。家族と出かけた時も、その……あんまりおもしろくなかったですし……」
「そ、それは良かったです……」
「それに……さっきお店で言ってもらったことも、嬉しかったです。気にしないって言って貰えて、ちょっと気が楽になったというか……」
ここまで聞けば、以前の私ならいい返事がもらえるとぬか喜びしていたところだけど、一度振られている手前そんな呑気なことはできない。
前も、ほとんど成功したと思ったその後にまさかの返事が来て結構へこんだし……。
「ただその……あのお店じゃ聞けなかった事を聞いてみたくて来てもらったんですけど、良いですか……?」
「? もちろんですよ?」
「ありがとうございます。その……もし僕らが付き合った場合って、今の関係と何が変わるんですか? お互い人の目があるのでその……あんまり2人で出かけられないと思いますし、あんまり表立って好意を伝えるとかも……できないと思うんですけど」
「そこは、大丈夫ですよ。分かったうえでの、告白ですから」
ネクラさんが顔バレするのなんて時間の問題だと思っていたし、恋愛の最終的なゴールが結婚ならいずれ発表することになるだろう。
その時まで大っぴらにいちゃつけないなんて覚悟の上だし、そもそも人前でいちゃつくなんて恥ずかしいから私には無理だ。
暗闇とか、人の目を気にしなくてもいい場所でギリギリ大丈夫という範囲で、私はそこまで大胆にはなれない。
「それに、カップルって終始いちゃついてるよりも友達みたいな関係でいた方が長続きしやすいらしいですよ? 私は、ネクラさんを他の誰にも渡したくないから付き合って、他の誰にも渡さずに独り占めしたいっていうか……そういう思いが強いだけで。もちろん、大好きではあるんですけど、一緒に行きたいところがある訳でも、したい事がある訳でもないんです。ただ、一緒にいたいなって思ってるだけで……」
「な、なるほど……」
うん、自分でも言ってて思う。すっごく恥ずかしいって。
ネクラさんが若干顔を赤くして俯いてるけど、多分言った本人の私も今結構顔が赤い気がする。
本心ではあるんだけど、何言ってんの? 何言っちゃってんの?って思ってるし……。
そんなの好きって言えないって言われるかもしれないけど、人の恋愛観という物は人の数だけあるのだ。
私は、一緒にどこかに行きたいとか何をしたいとか、そういうのは一切ない。
もちろん男女の仲になりたいとか、そういう気持ちも一切ない。
ただ、ネクラさんの隣で笑うたった1人の女の子でいたいのだ。
「僕も、まだ好きとかどうのはよく分かりませんけど……ハイネスさんにそう言われて、悪い気はしないというか……むしろ嬉しいです。ハイネスさんとはその、話してて楽しいですし、話も合いますし、カラオケも、また一緒に行きたいですし……」
「……」
「怒るとちょっと怖いですけど、頼りになりますし、いつも助けられますし……時々よく分からない事で罠に嵌められるのも、新鮮というか、勝負してる感があって、ちょっとワクワクしますし……」
その後、一息ついてネクラさんは言葉を続けた。
「好きかどうかっていうのは……やっぱり分かりませんけど。今、ハイネスさんに遠くに行かれると寂しいですし、困りますし、嫌です。他のチームメンバーの誰より、ハイネスさんに傍を離れてほしくないって、思うんです」
「あの……それはその……嬉しい、です……」
「なのでその……僕で良かったら、一緒にいてほしいです。いたらない所とか、みっともないところも沢山あると思いますけど……それでも、離れずに、一緒にいてほしいです」
その後の記憶は、ほとんどない。
でも、とっても嬉しくて、言葉にならないくらい嬉しくて、泣かないって決めてたのに泣いてしまったのだけは、覚えている。
念願の、ネクラさんのSNS以外の連絡先ももらえたけど、何よりネクラさんに言われた言葉、その全てが嬉しかった。
ライへの挨拶もしないままネクラさんと一緒に家を出た私は、駅まで送られるとそのまままっすぐ家に帰った。
ネクラさんはホームまで来てくれて、ドアが閉まったその瞬間も笑顔で見送ってくれていた……気がする。分かんない。私は、そこでも多分泣いていたような気がするから。
その日の夜、ライから何があったのか電話が来たけれど、その時はお兄さんに聞いてほしいと伝えてそのままベッドに入ってしまった。
それくらい、今日一日色々ありすぎて疲れていたし、感情の起伏が激しかったせいですごく眠たかったのだ。
最後に、ネクラさんへ今日のお礼とおやすみなさいと連絡を入れ、私は夢の中に落ちた。
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やる気が、出ます( *´ `*)
明日もこの時間に更新します。




