第16話 真相
プリンを完食した晴也は、そのまま容器をゴミ箱に投げ捨てる。スプーンは当然のように床に放置し、部屋に唯一置いてある学習机へと足を向ける。
学習机と言っても勉強道具は一切置いておらず、少し大きめのノートパソコンがポツンと置いてあり、その上にはESCAPEのキャラについて調べた時の資料が並べられている。
そのほとんどが昔の偉人や有名人なんかについての本だ。
ESCAPEのキャラはその全てのキャラに設定や過去のような物がある。
そしてそれは、時に現実のものと非常に似ているものがある。
例えば、彼が一番好きな女王というキャラ。
あのキャラは、実在した王女がモデルになっており、その設定や過去までも、非常に似通っている。
そういった類の事を調べるのも好きな晴也は、興味のあるキャラだけ念入りに調べていたのだ。
話を戻そう。
彼が学習机に向かった理由は、そこに置いてあるノートパソコンにある。
実は、先ほどの試合の録画を全てこのパソコンへと転送してあるのだ。
全員がギルドから出た直後、いち早く見たいからと鬼側の視点のみ自室のパソコンへとデータを転送していた。
(毎回1時間ちょいで終わらせるって、どんな試合展開だったのか……)
1回は強制試練中の子供が捕まった事によっての勝利だったけれど、他の4回はただ1人を残しての勝利だった。
どんな試合展開だったのか、気になるのは当然だ。
晴也はパソコンを慣れた手つきで操作し、目的の物を画面へと表示させる。
そこには、まだ動いていない待機画面のマイの姿があった。
とりあえず、動画を再生させる。
「緊張しますね~」
「マイさんはいつも通りしていれば、多分大丈夫ですよ。私達は基本サポートに回ります」
「え、でもAliceさん……。それだと――」
「1回目ですし、とりあえず私達の方があなたの実力を見たいんですよ。ポイントは入らないので、一緒になっても遠慮しなくて良いですよ」
「……バレてたんですか」
そんな会話を繰り広げる2人に、話が見え無かった晴也は、そのまま試合が始まるまで動画を飛ばした。
――マイ視点
練習会第1試合が始まった。
待機画面で、Aliceさんに遠慮しないで良いと言われてしまったので、今日は遠慮なく行こう。
それでなくとも、この試合はあの人が後で見るのだ。恥ずかしい真似は絶対にできない。
(それにしても……初戦が遊園地か~)
正直、このステージは苦手だ。マップが広くて複雑なので、攻撃の遅い女王では相手を捕まえにくい。
一緒のチームに探偵とかが居れば別だけど、事前情報では探偵を使う人はいなかったはずだ。
なので、とりあえずは1人で探してみて、試合全体の流れを掴んでいけばいい。
ステージエリアから歩き始めたマイは、そのまま何も考えず土産エリアへと直行し、そこで5人もの子供を一気に捕まえることに成功する。
元々ネクラに褒められるほどの索敵能力を持っている彼女が7段止まりだったのは、攻撃を無闇やたらと降るからだ。
その欠点が無くなった今、彼女を止められる者などそこまで多くないのだ。
(ん? 着信……。あ、大会モードだと通話がありになるんだっけ……)
6人目の子供を捕まえ、相手が無敵を発動させたところでちょうど手元の携帯が鳴り始め、マイはおずおずとその電話を取る。
どうやらだいぶ前からグループ通話へと招待されていたみたいで、開口一番怒られてしまう。
「も~! 中々出ないから心配しちゃったじゃない!」
「ご、ごめんなさい……」
「まぁまぁAliceさん。彼女は初めてなんですから……。それに、彼女はもう5人も捕まえているんですよ? 30分しか経っていないのに、相手は残り半分です。それを素直に喜びましょう?」
「……まぁ、それはそうですけど」
ミナモンさんが助け船を出してくれたおかげで、それ以上私が怒られる事は無かった。
実際、集中しだすと周りが何も見えなくなる性格なので、そこら辺は気をつけないとダメだ。
せっかく憧れの人に指導して貰ったんだから、その顔に泥を塗るような真似はしたくない。
「あの、それで……要件はなんですか?」
「大会モードでは、鬼と子供それぞれ指示を飛ばす指揮官が付くのが普通です。子供側ならネクラさんが指示を出すのと同じように、今回はAliceさんが指揮官なんですよ」
「私の次はミナモンさんです。全員初対面ですので、誰が一番指揮官に向いているかを見極めるのも、練習会の目的なんですよ」
「なるほど……。了解です!」
ネクラさん以外と大会なんて出たく無かったので、他の人の大会動画なんかも全然見てなかった弊害がもろに出ている。
ネクラさんが緩い条件で相手を募集しない限り、私は応募が出来なかった。
だけど、緩い条件故に、その倍率はすさまじい事になるので、今までどこか諦めていたのだ。
「それで、私達はどうすればいい?」
「そうですね。とりあえずミナモンさんはそのまま海賊エリアから噴水広場までの道を警戒して、私は恐竜と噴水を見回ります。ソマリさんは絶叫エリアへと移動して貰い、その辺りを捜索してください。マイさんは~自由行動で」
「え!? なんで私だけ指示がないんですか!?」
テキパキと指示を出していたAliceさんが、自分の番になるとやけにそっけなく自由行動と言ったので、思わず声が裏返る。
過去のシーズンでランキング1位を取っている人なので、実力はかなりのものだ。だけど、なんで……。
「個人的な意見だけど、あなたはあれこれ指示を出すよりも自分で考えて動いた方が良いと思う。ネクラさんが、あなたの索敵能力をべた褒めしていたので、それを確かめる意味でもちょうど良いかなと。問題ある?」
「ネクラさんが……」
「あの人が目をかけるなんて羨ましい。私も後数分早くチェックしていれば……」
「はいはい! その話はまた今度ね。じゃあ、マイさんは自由行動で。何か聞きたい事があれば、遠慮なく私に連絡して?」
「はい!」
電話を切った私は、土産物が売っているお店のガラスに反射していた自分の顔を眺める。
ネクラさんが私の事を知らないところでべた褒めしてくれていたなんて……。
嬉しすぎて顔の口角が上がりきっている。
女王の凛々しい顔が台無しになっているけれど、嬉しいのだからしょうがない。
(は~。大会でもし優勝できたら……)
そう考えるだけで、妄想がどんどんと膨らむ。
優しいネクラさんのことだし、頼み込めばギルドにずっと在席させてくれる可能性もある。
その後は、2人で何時間も女王のことで話して……段々ネクラさんの気持ちが私に傾いてきて……そのまま――
「い、いや……流石にダメですよ。無理やりな展開も、別に、嫌いじゃないですけど……」
そんな未来の2人の姿を想像していた矢先、数メートル先で走っている影を見つける。
恐らく、誰かが土産エリアからステージエリアへと逃げているのだろう。
私の幸せな空間を邪魔した事、絶対に許さない……。
その十数分後、時々妄想で足を止めながらもキチッと自分の役割をこなしたマイのおかげで、52分というありえないスピードで子供が残り1人となった。
ランクマッチでは1人が10人以上捕まえるとネット上で叩かれることがあると前に何かの記事で見たことがあったので、それ以上にならないよう抑えていた。
だけど、今回は遠慮しなくても良いと言われたので全力を出したのだ。
その結果、捕まえた数は私が断トツで1位だった。
ソマリ(2人)Alice(3人)ミナモン(2人)マイ(12人)という戦績だった。
「遠慮しないで良いとは言ったけど……まさかここまでとは......」
「ネクラさんの指導受けただけで7段がここまで行くって......。あの人、ほんとどうなってんですかね?」
「流石ネクラさん。でも、まだあっちは終わって無いはず。雄姿を見たい。早く行こう」
「……そうですねソマリさん。あちらはまだ終わって無いでしょうし、観戦に行くとしましょうか」
私を置いてけぼりにして会話を終わらせた3人は、そのまま子供側の観戦へと行ってしまった。
私はしばらくその操作の方法が分からず、ゲームが終わりお客さんのプログラムも消えた誰もいない遊園地で1人オロオロしていた……。
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やる気が、出ます( *´ `*)




