第173話 軍師の恋物語 再演
待ちに待ったネクラさんとのデートの日、私はいつもより1時間ほど早めに目を覚まして今日のプランをまとめたノートを改めて見返す。
ネクラさんはその顔が割れているという事もあって街を普通に歩くだけではファンの人に邪魔をされてゆっくり楽しめない可能性が高い。
一応お昼ご飯は一緒に食べようと言ったけれど、それは最近2人で話せていなかったのでゆっくり話すための口実でもある。
さらに言えば、絶対に集まってくる野次馬の人達に私達の関係をアピールする目的もある。恋人同士なのではなく、あくまでチームメイトだよと。
ネクラさんほどの人気者になると、いくら有名プレイヤーとそのファンが恋人関係になるのがそこまで悪い事じゃ無いと言っても批判される可能性はある。そのケアはしっかりしておかなければならないと思う。
もちろん、恋人になりたいと言っているのは事実だけど……。
そして、その後は2人きりになれるカラオケだ。
前は緊張して絶対無理だと思っていたけれど、意外とデートの定番コースだという事で勇気を出してみたのだ。
いくら野次馬の人でも、カラオケボックスの個室にまで入ってくることは無いし、廊下で聞き耳を立てていれば定員の人が注意してくれるだろう。
その後の映画館は……正直不安だ。
ここまではほとんど完璧なプランだけど、映画館は私が暗闇やお化けが大の苦手だという事もあって正直自信が無い。
では、なぜそんなところを選んだのか。
理由は簡単だ。
暗闇というのは、カップルにおいて一番関係性に変化がありやすい場所だという事を何かの記事で見たことが合ったからだ。
手を繋ぐだの、キスをするだの、その他諸々……。
それが、人目を気にせずに行える絶好の場所が暗闇という事で、ちょうどネクラさんの好きそうな映画が上映されているので映画館をチョイスしたのだ。
推理物なんて私ははっきり言って興味はないけれど、それを解いているネクラさんにはすごく興味があるし、ちょっとでも勉強しておきたいのは本当だ。
「話題のリストも完璧……。あ、会話デッキっていうんだっけ……? 一応あの人の事も追加して……良し!」
起きた時にSNSが異様に盛り上がっており、その話題をちょっと調べただけでも興味深いと思えるものがあったのは、私にとって好都合だった。
ネクラさんが知っているかどうかは別として、確実に話のタネになるしかなり盛り上がれる類の物だろう。
仕事の話みたいであんまり気は進まないけど、周りの人に私達の関係をアピールする話題としては十分すぎる。
「も~! なんでこんな時に限って化粧のノリが悪いの! 勘弁してよ~!」
学校に行くときは最低限のメイク、出かける時もそこまで気合は入れない私だけど、今回ばかりは流石に気合を入れる。
ただ、ネクラさんみたいなタイプの男の人はあんまり派手な化粧をしている人は苦手だろうし、濃いメイクの人も嫌いだろう。
たまにドバドバ香水をつけている人もいるけど、ああいう人は最も嫌うタイプの人だと思うので、ちょっと優しめなふんわりしている香水をつける。
香水って1種類を使ってると鼻が慣れちゃって付けすぎる原因になるので、複数種類持っておいた方が良いとネットの記事に書いてあったけれど、あれは多分合っている。
私も、持ってるだけで4つくらい使い回してるし……。
「良し! そろそろ行こっと!」
私は、待ち合わせの時は相手を待たせるよりも自分が待つ派なので待ち合わせより遅くても20分前にはその場にいるようにしている。
たぶんネクラさんもそのタイプで予定より早くなるだろうから、待ち合わせはお昼の14時という事にしている。
予言できるけど、絶対13時半とかに合流して早いですねーとか笑ってるよ……。
今日のコーデだけど、散々頭を悩ませた果てに、あまり無理をしないで普段通りの格好をしようと決めていた。
無理して大人っぽいやつを着ようと思えば着れるし、それ用の服も持ってるけど……どっちかと言えば年相応の可愛らしい物をチョイスした。
赤いセーターとブラウンのロングスカート、首に派手すぎないくらいのネックレスをつけて、上からコートを羽織るだけで子供っぽくはないけども大人っぽくもない良い塩梅になる。
首元が寒いかもしれないので一応マフラーを巻いて、小さめのカイロを2つ持参すれば準備完了だ。
電車に乗って数駅行けばネクラさんのマンションはすぐそこだ。
一応駅前で待ち合わせなのでマンションまではいかないけれど……って
(人だかり出来てるんですけど……)
駅前にほとんど20代から30代の女の人の人だかりができている。
数はそれほど多くなくて10人とちょっとだけど、それだけでその中心にいる人が大体想像できるのが凄い。
というよりも、まぁ有名人だしそうなるよね……という感想しか湧いてこない。
「お兄さん~、お待たせしました」
知らない人の視線は怖いけれど、いつまでも遠目で見ているわけにはいかないので勇気を出してその人だかりの中に入っていく。
中心にいたのはやっぱりというか、もちろんネクラさんで、苦笑しながらもサインを書いて求める人には握手もしていた。
「あ、ハイネスさんどうも……。申し訳ないです、早めに着いちゃって」
「いえいえ。では皆さん、ここらへんでお終いにしてもらっても良いですか? 私達、これから大事な用があるので!」
勇気を出してそう言うと、周りの女性陣は不満そうにしながらも散り散りになっていった。
ここで誰も何も言わないのは、紅葉狩りで優勝した時にチームメンバー全員のプレイヤーネームが公開されていたので私の存在を知っているからだろう。
ネクラさんほどじゃないにしても写真が出回っているので、何人か私の顔を知ってる人もいたかもしれない。
「ありがとうございます……。最初の方は何とか誤魔化してたんですけど……」
「いえいえ。それよりも、今日もカッコいいですね!」
「あはは……。ハイネスさんも、綺麗ですよ?」
......本当にこの人は女の人と付き合った事が無いのだろうか。そう思うくらい自然に褒めてくれるので心臓がドキッと高鳴る。
「じゃ、じゃあ行きましょうか……」
「そうですね。今日はよろしくお願いしますね!」
「よろしくお願いしますっていうのもなんか変な気がしますけど……そうですね。こちらこそです」
オドオドしながらも軽くニコッと笑ってくれたネクラさん。
最初は好印象なスタートを切れたと私は心の中でこぶしを握り、お店の着くまでに会話を弾ませるため頭の中で会話デッキに記した内容を思い出していた。
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やる気が、出ます( *´ `*)




