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閑話 超新星 カヲル

 その日、今までそのアカウントをAI相手にしか使ってこなかった1人の少年が初めてランクマッチに潜るためにロビーに現れた。

 見た目はそこら辺にいるような平凡な男の子のアバターだ。アニメキャラに寄せるでも、歴史上の人物に寄せることもせず、街にいるような普通の少年の格好をさせている。


 右耳にイヤリングをつけ、クマの絵が描かれたフード付きのパーカーの上に薄手のジャンパーを羽織り、自信なさげにその整った顔に苦笑を浮かべる。


 少年の背丈は小学生か中学生くらいで特殊な癖の人が見れば真っ先に声をかけられそうなものだ。

 そんな少年は慣れた手つきでランクマッチの画面に移ると、そこに表示された一番下のランクを示す牛のマークに懐かしいと思いを馳せた。


「どこまで行けるかなぁ……」


 実を言うと、少年にはあまり悠長にゲームをしている時間などなかった。

 現実の世界ではかなり多忙を極めており、明日は大切な予定が入っているのであまり夜更かしをするわけにもいかなかったからだ。


 ただ、自分の実力を確かめておきたいというその見た目通りの幼い子供のような思いだけで初のランクマッチに挑むことを決意したのだ。


「えっと~、キャラはアバターでしょ? 能力は飛翔……設定は……どれだっけ」


 今までカスタムマッチで実験がてらAI相手に何度も勝負を挑んだことくらいしかないこのアカウントでも、試験的にと試していたアバターの設定は数十種類に及ぶ。

 その中でようやく正解の物を引き当てると、ようやくランクマッチに潜り始めた。


 記念すべき第一戦目を終えたその少年は、誰に言うでもなくただポツリと零した。

「なるほどなぁ……」と。


 その言葉にどんな意味があるのかを知っているのは彼だけだし、今しがた共に戦った3人の仲間は何が起こったのかもわからないまま試合を勝利で終えただろう。

 なにせ、少年が35分も経たずに17人を捕まえるという偉業を成し遂げてしまったからだ。


 通常、AI相手に練習ばかりしていると変な癖がついてしまうためによくないと言われている。


 しかし、少年にはAI以外にも練習相手がいたし、その全員が非常に高レベルだったという事もあって彼自身のプレイヤースキルは上位プレイヤーのそれと比べても遜色ない物だった。


 いくら最近のランクマッチはネクラの解説動画が出たせいで非常にレベルが上がっているとはいっても、各々の判断力が上がったわけではないし、予想外の事が起こった時、それに対処する能力そのものが上がったわけでも無いのだ。


 オマケに、今のランクマッチの環境はアバターを使うなら、子供は隠れるのに全特化させたものか、逃げるのに全特化させたもの。

 反対に鬼の方は、子供を探すのに特化させたものか、子供を追いかけるのに特化させたもののどちらかだ。

 若干子供は隠れる方が多く、鬼は追いかける方が多いというデータがあるのだが、それは今回さほど関係なかった。


 少年が持ち込んだ能力である飛翔は、空を飛んで子供を探す事が出来るという能力だが、それには1つだけ大きな穴が存在していた。

 それは、飛べる高度をある程度自由に操作できるという事だった。


 ほとんどのプレイヤーは見向きもしていないこの能力だが、少年はプレイヤー相手にどれほどの効果があるのかという実験の元、初めてのランクマッチに潜ってみたのだ。


「……もうちょっと煮詰められるかな? 動きの制御ももう少し慣れないと……」


 飛翔を使う際、高度の高さはもちろんのこと、飛んでいる際の体の動きなんかは自分でコントロールする必要がある。

 その為、飛翔の能力を使っても空中動作を誤ってしまえばただ能力を無駄打ちする羽目になってしまうのだ。


「とりあえず数をこなして慣れていこう。飛び級が無いのに感謝だな……」


 次の相手を待つ間、少年はその可愛い姿のアバターの顔を少しだけ不満げにしながら腕を組んで考え込んでいた。

 そしてその数時間後、一度も負けることなく最高峰のランクに到達した彼は、当然の如くランキングの2位にその名前を連ね、実験の結果に満足しながら現実世界へと帰還した。


 少年と当たったプレイヤーのほとんどが自身のSNSで「なんかヤバい奴がいる」と発信しており、それは同じく少年にボコボコにされた被害者達によって瞬く間に拡散される。

 そしてそれは、日本で一番の有名人であるネクラの妹、ライが「自分も何もできずに負けた」と発信したことで余計に加速した。


 ついでに言うなら、有名なプレイヤーがかなりの数少年の犠牲になっており、ネクラのチームメンバーでさえ例外ではなかった。

 その中でもSNSのフォロワーが特に多いミミミやミラル、ミルク、ジョーカーやサカキでさえ、意味が分からないと呟いていた。


 真夜中のSNSを盛り上げた情報はそれだけではなかった。

 驚異的なプレイヤースキルを持ち、ネクラのチームメンバーに選ばれるほどのプレイヤーでも歯が立たない実力を持っている少年のSNSが特定されない事も、少年の異常さを際立たせていたのだ。


 今やゲーム用のSNSアカウントを持つことは当たり前……常識の域に達しているのだが、そんな中で何千人規模で捜索したのにそのプレイヤーと思わしきアカウントが特定されなかったのだ。


「ネクラさんはこの事態把握してるの?」


 とは、ライに送られた1通のリプだった。


 ライはそれを見てすぐさま兄の部屋をノックしに行くが、返事がない。

 リビングの時計を見てみると時刻は既に深夜2時を回っていた。いつもならこんな時間でも平気な顔をして「なに?」と言ってくる兄だが、今回ばかりはタイミングが悪かった。

 なにせ、明日はハイネスとデートなのだ。それに備えて早めに寝るとも言っていたので、こんな時間に起きている方がおかしいのだ。


「多分把握してないと思います。明日はお兄ちゃんが出かける予定なので、戻ってきたら聞いてみます」


 ライがそう発信すると、真夜中だというのにSNSはお祭り騒ぎとなった。

 ある人は、日本予選でネクラとその少年の対決が見れることを期待し、ある人は、その少年の正体が実はネクラだと予想し、ある人はその少年が行ったことを分析しようと孤軍奮闘していた。


「待って? この人ポイント連携してなくない? ランキング見てみてよ!」


 SNSに投下されたその内容は、お祭り騒ぎだったネットの暇人達にさらに火をつけた。

 ポイント連携とは、その名の通りゲーム内で稼いだポイントを現実のお金へと変換するための設定だ。

 その有無はランキングやそのプレイヤーのプロフィールに飛べば簡単見えるのだが……


「マジじゃんwww」

「え、なんで? この人、目算だけでも30弱は稼いでるっしょ?」

「30万捨てるのは富豪すぎて草」


 ランキング2位に名前を連ねている少年のプロフィールを見てみると、そのコメントの通りにポイント連携をしていなかったのだ。


 そんな、いろんな意味で1夜でネットの話題をかっさらった少年の名は『カヲル』

 正体不明、何をして子供を捕まえているのかも不明、チート行為等の不正行為はしていない事が既に確認されている(運営に通報したプレイヤーがいた)。


 全てが謎の少年カヲルと、ほぼ全ての情報が公開され入手可能になっている『頼りにならない可愛い全能者』こと、ネクラ。

 日本予選でこの2人の戦いが見られることを期待するプレイヤーが数多くいたのは言うまでもない。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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