第172話 天国と地獄
間違えて完結ボタンを押しちゃってたせいでいらぬご心配をおかけしましたm(_ _)m
これからもちゃんと続けていきますので、ご愛読・応援していただけると幸いです(><)
交流戦を何事もなく2勝0敗で終えた僕らは、各々好感触を持ちながらランクマッチに行くなり年末に向けて仕事をサッサと片付けに行くなり解散した。
数日後には日本予選が始まるので仕事に追われているわけにはいかない……とはミミミさんの言葉だ。
カリスさんが大変そうにしていたけど、そこら辺は頑張れとしか言えない。
「で、お兄ちゃんと私はおまるさんに呼び出されてるの?」
「うん。要件はまだ知らないけどさ……」
一応応接室の扉側のソファに座って、ハイネスさんに先に話しておくことがあるからと言っていたおまるさんを待つ間、春香と2人きりになる。
今回は指揮官不採用でみんなの動きなんかを見るのに重きを置いていたので、この後することと言えば試合の録画を見直して設定の最終調整をして、日本予選の前日にみんなで会議をした後、摸擬戦のような形で対戦して終了と言ったところだろう。
「そういえば春香さ、前仲間を庇いすぎて云々みたいな話してたよね? あれは結局どうなったの?」
「……まぁここでプレイしてて割とマシにはなったと思う。まだ体が動きそうになる事はあるけど……」
「それはなんで?」
「……教えたくない」
「だいぶ重要なところだから教えてほしいんですけども……」
春香のプレイは自己を犠牲にしてでも仲間を守る。
それは、傍から見ていれば美しい友情物語というか英雄譚にも見えるけれど、上位プレイヤーからしてみれば何してんだこいつと呼ばれても仕方のない物だ。
実際、ランクマッチでそんなことをすれば戦犯扱いされるし、鬼側からすればラッキー以外の何物でもない。
ただでさえ海外の人には強い人が多いという話だったので、そういう足元をすくわれるようなプレイの原因は早いうちに特定しておきたいというのが僕の心情なんだけど……。
「やだ。ハイネスにも話したことないし、ましてお兄ちゃんに話すのは絶対ヤダ」
「……まぁそこまで言うなら無理には聞かないけどさ……」
「ていうか、お兄ちゃんの方こそどうなの。ハイネスの件」
「……一応、明日遊ぶ約束はしてるけど……好きがどうのって話は未だによく分かんない」
「は!? 遊ぶ約束してんの!?」
散々約束を取り付けろと言っていた張本人がなぜ驚いてるのか。
第二弾の解説動画を上げたタイミングでハイネスさんに話はしてみたけれど、最近忙しかったのもあって話が流れてしまっていたので、期限も近いしもう一度誘ってみたのだ。
かなり勇気のいる行為だったけど、自分で言った事くらいは最低限守らないといけないし、守る努力はしないといけないと思う。だからこそ、普段は絶対にしないけど、自分から遊びに誘ったのだ。
「一応聞くけど、どこ行く気なの」
「……ご飯食べてカラオケ行って、その後映画でも見ようかって言ってるけど……」
「なんでちょっと慣れてる感あるデートコースなの?」
「調べたから……?」
「ふ〜ん? 一応努力はしたんだ?」
「まぁ……」
実際はほとんどハイネスさんが行きたいと言っていた場所に一緒に行くだけなんだけども……。
「待って、映画……? 映画って、ハイネスが行きたいって言ったの?」
「う、うん……。みたい推理物の映画があるから一緒に行きたいって……」
「あの子が映画……。映画ねぇ……」
何かを考えこむように腕を組んだ春香は、それから数分考えこむと「確認しとこ」とボソッと呟いた。
それが何のことなのかは分からなかったけれど、それを確認する前に応接室の扉がノックされておまるさんが入って来た。
「ごめんなさい、自分から呼んどいてお待たせしちゃって~」
頭を掻きながら申し訳なさそうに入って来たおまるさんは僕らに奥側の席に座るよう促すと、ペコリと頭を下げて元々僕らが座っていた方の席に座った。
「で、早速本題に入りたいんですけど大丈夫ですか?」
「ええ。今回はどうされたんですか?」
そう言うと、なぜかふ~と深呼吸して気持ちを落ち着かせたおまるさんは、意を決したようにコクリと力強く頷いた。
「私、今新作書いてるって言ったじゃないですか? まぁそれは編集部との約束なので良いんですけど、問題はモチベ……というか、アイデアが全く浮かんでこない事なんです。なので、ネクラさんの傍にいればアイデアも湯水の如く湧いてくるかなと思いまして」
「はい? えっと〜……つまり?」
「数日お家にお邪魔しても構いませんか? もちろん、滞在している時に掛かった食費等は全額負担しますので!」
......この人は何を言いたいのかな?
つまり、新作を書くためのモチベとアイデアを確保したいので、数日僕の家に泊まり込んで作業をしたいと。こう言ってるわけですかね?
お泊りしたいという事なら僕としては別に断る理由は無い。なにせ、僕は家にいる時はほとんど自分の部屋で作業をしているか猫部屋にいるのでおまるさんがいたとしてもそこまで気にならないからだ。
一番大きいのは、紅葉狩りの時に割と話せた関係でこの人は大丈夫な人だという謎の信頼感がある。
この提案がミミミさんとかからの物だったら、なんか怖いから即座に却下したと思うけど……。
「家族だから、私にも話がしたいって呼び出されたわけですね?」
「その通りです。ネクラさんが1人で暮らしている訳では無いので、同居人でもあって妹のライちゃんにも話すのが筋かなと」
「僕は正直構わないんだけど、はる……ライはどうなの?」
「……うちに泊まることそれ自体は別にいいんですけど、モチベの方はともかく、アイデアってどうする気なんですか?」
「そこら辺は普段の雑談や、ネクラさんと話してるうちに自然と湧いてくると思うので大丈夫ですよ! ご存じの通り、私の推理小説は、一般的な、探偵が犯人を追い詰めるものとはちょっと違うので複雑なトリックとかは考えるつもりないんですよ」
「そっちの話は書くつもりないんですか?」
そう僕が聞くと、おまるさんはコクリと頷いた。
その理由だけど、何時間も、時には何日もかけて考えたトリックが読者に数時間で真相まで見破られるのが癪だからという、まぁまぁ意味の分からない答えが返って来た。
つまり、自分が長時間かけて考えた物を、ものの数時間で解かれるのが我慢ならないそうだ。
「な、なるほど……?」
「そんな理不尽ってないじゃないですか。それに、そんな作品はもう世に溢れかえってるんですよ。それなら、儚く、美しく、それでいて悲劇の内にも綺麗ごとでは済まない塩梅の美談が混ざっている人間模様を書いて、その中にスパイスとして人が死ぬって方が好みなんです」
「まぁ創作物って、結局のところ作者の好みを体現した物ですからね……」
「そうですよ! 好きで書いてないと続かないし、ただ売れたい!みたいな俗物的な考えだけで書くのは作品に対する冒とくですよ! お前は自分の子供を作る時に、ただ後世に自分の子孫を残したいって理由だけで作るんかと! いやそういう人もいるかもですけど、少なくとも私は! 好きな人と一緒に自分の子供を育てたいってなるから作るんです!!」
こぶしを握り締めて熱く語るおまるさんは、春香が話についていけず若干引いているのには気付いていないらしい。
僕も自分の子供が云々みたいな話は考えた事が無いので分からないけれど、ただ売れたいからと書いている作品は数行読んだら分かるって程には、僕も世の作品を読んでいる。
そういう作品に限って、そこまで面白くないけど王道を行っているのでなんとなく売れるのだ。テンプレの詰め込まれている作品は、もう嫌って程見てるのだ。
「まぁ、という訳なので私の作品は人は死にますけど謎解きだけで内容を終わらせるようなもったいないことはしません。ただ、その人間模様を書くのに人生の経験値が圧倒的に足りてないせいでアイデアが湧いてこないんですよ。なので、刺激が欲しくって」
「って言ってるけど……どう?」
「……私は構わないんだけど。お兄ちゃん、大丈夫なの?」
それは、僕の普段の生活が酷すぎるがゆえに言われている事だというのは十分自覚している。
けれど、明日はハイネスさんと出かける予定だし、その後は今日の試合を見返して設定を煮詰めたりと色々することがあるので部屋からは出ないだろう。
出たとしてもご飯の時くらいだろうし、その時くらいはちゃんとできる。
それに、ずっと泊まるわけじゃないなら何とかなるだろう。
「そう。ならいいけど……」
「ありがとうございます! じゃあ、色々準備があると思うので、明後日から日本予選が始まる5日後まで、お世話になりますね!」
「3日で良いんですか……?」
「3日もネクラさんと一緒に過ごせるなら十分すぎますよ!」
そう言いながら満面の笑みを浮かべたおまるさんは「笹森ちゃんにも話してくるのでこれで!」と言い残して現実世界へと帰還していった。
「……なんか不思議な人だね。あの人の小説、私読んだことないんだけど、そんなに面白いの?」
「面白いって言うと違うかな……。なんていうか、泣きたくなるような、感動系の話だから」
「おすすめ度合いは?」
「……春香は好きじゃないと思う。誰も報われない話だから」
春香は、現実じゃ報われない人がいる分、創作物やドラマなんかでは、頑張ったら頑張った分だけ報われるべきだと思っている人種だ。最近知ったけども……。
なので、俗に言う『誰も幸せにならない』物語であるおまるさんの作品は、春香には合ってないだろう。
僕は悲劇というか、そういう類の話が大好きだし、話題になったのもその人間模様がリアルすぎるというのと、厳しい現実をそのまま表しているという容赦のなさがレビューで上がっていたからだ。
「……そう。ところで、お兄ちゃんはこの後どうするの?」
「ちょっと試してみたい事があるからもうちょっとゲームする。その後は明日に備えて寝るかな……」
「分かった。じゃあここで」
「うん」
そう言うと、春香は応接室を出てハイネスさんを探しに行った。
僕は、一度ログアウトして前々から気になっていたことを実践する為に一度糖分を補給してから準備を始めた。
ご感想貰えるのが、作者にとって何よりの糧になりますので、どうぞ感想くださいませ...!
皆様が思ってらっしゃる100倍は作者のやる気が出ます!
今回の投稿が早いのは間違えて完結押しちゃってご心配かけてはと思ったのと、18時過ぎに投稿出来そうにないからですm(_ _)m




