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閑話 おまるの死闘と担当者の苦悩

 どうも、大原まひること本名大原まるこの担当編集をしている笹森と申します。

 今回、まひる先生にどうしても歴史的ヒットを記録した小説「死にたがりの少女」の続編を書いてもらいたくてどうにか苦心していたところ、当の本人から数年ぶりに連絡が来たんです。


 今まで何度も電話してきてるのに全てフルシカトを食らっていたのでびっくり仰天!ようやく書いてくれるのかと編集部一同が喜んだのもつかの間!


「良いけど、今度発売されるネクラさんの公式グッズ。編集部のパソコン使ってどうにか手に入れてくんない?」


 まひる先生から発せられた衝撃の一言に、編集部一同は震えあがりました。


 数時間編集長と私で議論した結果、一日出版社全体を急遽休みにして全員でネクラ公式グッズを手に入れるために邁進すると結論が出ました。

 その結果何とか続編を書いてもらえることになったのですが……


「アイディアが湧かない~!?」

「そうなの~。プロットは書けたんだけどさぁ、どうしても納得いくものが書けないというか、モチベが足りないというかさぁ?」


 数日ぶりに連絡が来た(こっちからの連絡は全て無視される)ので出てみると、開口一番そう言われ、私は同僚の前だというのに思わず大きな声を上げてしまう。

 慌ててすみませんと頭を下げて、ボリュームを落とす。


「なんでですか! 紅葉狩り終わった時はあんなにやる気満々だったじゃないですか!」

「ネクラさん成分が不足してんだよぉ……。働きたくないしさぁ……」

「はぁ~!? いつもチームで会ってるんでしょ?」

「そりゃそうだけど、なんか違うじゃんか!」


 この人は本当に天才作家なのだろうか。語彙力がまるで感じられない。

 だけど、こういう時担当作家のやる気を出させるのも担当編集の仕事だ。この人を相手にする時はとにかく感情を殺して、間違っても怒ってはダメなのだ。

 出来るだけ優しく、子供と接する時のようにしなければならないのだ。


「じゃあ、どうしたらやる気出るんですか? ネクラさん成分?を補充できるんですか?」

「あぁ……一緒に住んでくれないかなぁ!」

「あの人まだ高校生ですよね……?」

「この前成人したから犯罪じゃないでしょ?」


 この人は何を言っているんだろうか。マジでネクラさん本人を誘拐しかねない。

 私もネクラさんのファンではあるからあの人が成人したことは知っている。でも、どうするべきだろうか……。


(ネクラさん、今は妹さんと2人暮らしって話だったよね……。連絡とってみようかなぁ……)


 一応本人のSNSは毎日仕事終わりにチェックしているし、何度か一緒に大会に出たいと応募してみた事もある。

 それに、まひる先生の話だと私の存在それ自体は知っているらしいので、名前を出せば気付いてもらえるだろう。

 どうにか、先生のやる気を出させるのに協力してほしいとお願いしたら、引き受けてもらえるだろうか……。


「あ、ちょっと待って笹森ちゃん。チームの人から電話来た」

「……自由だなぁ」


 それからしばらくの間保留音が流れ、数分後に帰って来たまひる先生は、まるで別人のように明るい口調になっていた。


 例えるなら、人生をかけた入試で絶対に落ちたと絶望しながら結果発表に向かったらなんか受かってました、やった~!ってなった時くらい変わっている。

 なに、例えがリアルすぎるって? 知りませんね、実体験とかじゃないですから!


「笹森ちゃん笹森ちゃん! この勢いでネクラさんの家に行きたいって言ったら断られるかな!?」

「はい!? いやいや、なんで急にそんな話になるんですか? ていうか、何言われたんですか?」

「ネクラさんがさぁ! 私が続編出したらリアルイベントしてくれるかもって話なの! ヤバくない? 超やばくない!?」

「良かったじゃないですか。で、なんでそれで家に行くって話になるんですか?」

「ネクラさんが私のファンだからだよ! 家で作業したいって言ったら許してくれそうじゃない!?」


 絶対に無理だと思うけど、言ってみるだけ言ってみればいいとアドバイスしてみる。

 それでだめだったとしても彼女のモチベは変わらないだろうし、もし仮に家に行けるという事になれば、私も担当編集という事で家にお邪魔できる可能性がある。

 ファンとしては、一度でも良いからその目でネクラさんを見て、仕事とはいえお話してみたいのだ。


「やる気がムンムン湧いてくるじゃあないか!」

「......その、変なテンションになった時ジョジョのセリフ出すのやめてもらっていいですか?」

「え~? 笹森ちゃんも好きでしょ?」

「私はあの独特の言い回しというか、例えが好きなだけです。あなたみたいに、セリフを一から十まで暗記するほど好きではありません」

「なっ、なんだってぇ!?」

「……ネクラさんにさっさと連絡入れた方が良いんじゃないですか?」


 サッサとやる気を出してもらうために、少し辛辣かもしれないけれどそういう。

 この人はやる気を出せば数日で作品を仕上げてくるほどの速筆なのだ。ただ、やる気が出ない時は今みたいに意味の分からない事を口走って現実逃避をする人でもある。


「ん! オッケーもらえたら数日泊りこむ!」

「はいはい、おねが……って、は!?」

「じゃあね笹森ちゃん! また連絡するから!」


 自分の言いたい事だけを言い残し、最後にとんでもない爆弾を落としていった天才作家様は通話を切った。

 この人の担当編集はいい意味で退屈しないけど、悪い意味で言うと子供のお守りみたいな感じで余計に神経を使うのだ。


(もう……。私からも連絡入れなきゃじゃん……)


 大きくため息を吐いた私は、ネクラさんにどう状況を説明したものか考え、憧れであり好きな人に連絡する事に改めて少し緊張しつつDMを送った。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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