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第169話 交流戦第二回 前日

 第二回の交流戦の前日、ハイネスさんが家に寄りたいとの事で学校帰りに春香と一緒に家に来た。

 最近ハイネスさんは学校で春香と話すために週3位で学校に通っているらしいけれど、やっぱり同学年の人とはあまり話していないらしい。


「そうは言っても、私達は紅葉狩りで顔が割れてるから誰かさんの事は結構聞かれるけどね」

「むしろその件で話しかけてくる人の方が多いですよ。あの人は誰だの、紹介してだの、色々言ってくる人が」

「あはは……」


 どう反応するのが正解なのか分からず、僕は苦笑を浮かべるがのんきに笑っていられるのもあと数日だと思うと気が重い。

 なにせ、僕はハイネスさんから告白されているにもかかわらず、その正確な返事を日本予選が始まる前には出さないといけないからだ。


 正確には好きになる努力はすると言っては見た物の、何をどうすれば良いのか分からない為に何もできていないのが現状だ。

 春香が怖いから付き合いますとか、そんな不誠実な事をするほど僕は腐ってないけどさ……。


「ていうかさ、お兄ちゃん終業式はどうするの? 来ないの?」

「行くわけないでしょ。なんでそこで僕が行くって選択肢が生まれるの……?」

「先生に言われたから一応。ハイネスが来てるから、お兄ちゃんにも来てほしいみたいなこと言ってたけど」

「ハイネスさんが学校行ってるから僕が学校に行かないといけないっていう、その理屈が分からないんだけど」

「……あっそ」


 春香は呆れたようにため息をつくと、そのままキッチンの方に歩いて行ってコップにジュースを注いで戻ってくる。


 僕は猫部屋から手毬を連れてきて、その腕にがっしりと抱きしめる。

 ちなみに、最近猫部屋にはこたつが追加された。危ないので電源をつけるのは僕か春香が猫部屋にいる間だけだけどね。


「床暖があるのにこたつ必要? 手毬の部屋、お兄ちゃんの部屋より豪勢になってる気がするんだけど」

「……嬉しいよね?」

「にゃ~」


 豪勢というか遊べるスペースがだんだん狭くなってきていることを危惧しているのだろうが、一応本人は嬉しそうに微笑んでいるので大丈夫だろう。

 こたつは最近寒いから追加しただけだし、暖かい季節になったらもちろん片付ける。それに、遊ぶのはリビングや他の部屋でも出来るし。


「ほんとに手毬ちゃん懐いてますよね。そういえば、私があげたやつは本人にはどうだったんですか?」

「あ~、あれですか! 結構好評でしたよ! あんまりあげると体調崩しちゃうのでそこだけしっかり調べて調整してますけど」

「そうですか~。良かったです!」


 ハイネスさんから誕生日プレゼントとしてもらった手毬のおやつは、ちょうど買おうかどうか迷っていたブランドの物だったのでこれ幸いにとこの間あげてみたのだ。


 あんまりおやつばっかりあげるのは太るし体調を崩すので良くないんだけど、1週間に2度か3度なので、問題がありそうならもう少しペースを落とそうかと密かに考えている。


 で、肝心の手毬の反応だけど……かなり気に入ったらしくおやつ箱から取り出そうとした瞬間に何かを察して飛びついてくるくらいには気に入ったようで。

 その姿が余計に可愛いのでつい甘やかしそうになるのだ。


「……で、早速本題といいたいところなんですけどもう一個! 結局、公式グッズは販売されるんですか?」

「あ~、配信の件ですか? えぇ、販売しますよ。ちょうど今日の夜に簡単にHPを作って情報を解禁しようかなって思ってたんです」

「ネクラさんの事ですから、以前よりも3倍近く作られると思うんですけど、そこら辺も聞いて大丈夫ですか?」

「流石ですね……。まぁ、そんな感じです。ほんとに売れるか不安ですし、前回より種類が多いので各グッズの総数は少なくなっちゃうんですけどね」


 流石に前回と同じく全種数万点なんて作ってたら半年以上かかってしまうだろうし、それだけ大変になってしまうので、種類だけ増やして総数はそこまで多くしていない。

 それこそ、前回とほぼ同じくらいだ。今回は売れるかどうか分からないし、そんなに多く販売してもイメージ的に僕が嫌なので抑えてもらったのだ。


 一応前回と同じく低確率でサイン付きのものが当たるようにはしているし、メッセージカードも書くつもりだ。

 誕生日プレゼントのお返しなので、他にも考えてはいるんだけどそれでどんな反応が返ってくるかと思うと不安で仕方ない。


「じゃあ、即売会的なのはするんですか?」

「……なんでそうなるんですか?」

「単純に数が多いとオンラインで販売するには手がかかりすぎるので、コミケみたいに即売会でもするんじゃないかなって」

「この前の話し合いにいませんでしたよね……」

「はい! 一応話し合いそれ自体があったことはファンクラブで話が出たので把握してますけど、何を話したかまでは聞いてないですね!」


 じゃあなんでそこまで綺麗に当てられるのか。

 僕が言うのもなんだけど、満面の笑みで嬉しそうに言う事ではない気がする。盗聴でもしてたのかと疑いたくなるほど正確に当ててくるじゃん……。


「一応考えてはいますけど……正直あんまり乗り気じゃないですね」

「たくさんの女性の人が来て、地方の人が参加できないからですか?」

「……まぁ、そんなところです」


 地方の人が参加できないとか、参加しにくいというのはもう仕方ないとして……僕は大前提として人見知りだ。そんな人が大勢の前でニコニコしながら物を売るなんて、何時間も耐えられるだろうか。

 答えは否。絶対に無理だ。それがもしできるなんて言う人がいれば、その人は人見知りでも無ければ陰キャでもないしコミュ障でもないだろう。嘘つきだ。


「紅葉狩りの時はうまいこと乗り切ってたんだし行けると思うけどね私は。逆にどうすればやる気になるの?」

「う~ん……。まず大前提として、僕が即売会なんてものを開いたら皆来てくれるのかっていう確証が欲しいかな……。転売目的の人しか来ないんだったらやる意味ないから、純粋にファンの人の手に渡ってほしいしね。で、春香が着いてきて色々助けてくれるとか……」

「なんで私なの?」

「何かあったら止めてくれるでしょ?」


 というより、春香がいれば大抵の事はどうにかなると思う。

 春香も外面だけは良いので、いろんな大人への対応なんかは僕が考えて、表に立ってもらうだけでも十分助かる。それに、お客さんと僕の間に立ってけん制してくれるだろうし。


 もし仮に危ない人が来たとしても、まぁ春香なら大丈夫だろうという謎の信頼がある。だって、普段から僕をボコボコにしてるくらいには喧嘩強いし……(僕が弱いだけだけど)


「はぁ……。他には?」

「ん~、1日で良いからゲームから離れる時間が欲しいかな……。例えば、まだ決まってないけどおまるさんの新作が出たらゆっくり読む時間は欲しいし、勉強したいこともあるから時間が足りなくてさ」

「勝手にとるんじゃダメなの? 誰も文句言わないと思うけど」

「僕が動くことでみんなが楽出来るならその方が良いでしょ? でも、おまるさんの新作が読めるならやる気は出るかな。何年も待った待望の新作だからね」

「まだ出版すること自体公表されてないけどね」


 そうなのだ。

 おまるさんこと、デビュー作が歴史的ヒットを記録した大作家先生の続編が出ることを知っているのは、彼女と同じチームメイトだからだ。

 実は、まだ公式には発表されていないしニュースにすらなっていない。


「他には?」

「なんでそんなに知りたがるのさ。でも、それくらいだよ。あんまりイベント自体を開きたくないっていうのは今も昔も変わってないけど、やってほしいって言われるならやるってだ……あっ」


 そこまで言って、この場にはそれを全て実行しそうな人がいることを思い出した。


「……やっぱりお兄さんって、頭いいですけどどこか抜けてますよね。そこも素敵なところだとは思いますけど、流石に心配です……」

「なんでこんな馬鹿でも分かるようなこと気付かないのかほんとに分かんないんだけど……」


 うん、僕も言われて気付いたけど、僕ってほんとは馬鹿なんじゃないだろうか。

 ハイネスさんが満面の笑みで微笑んでるのがすっごく怖いというか、ここまで来たら逆に笑えて来るというか……。


 結局、ハイネスさんが家に寄った本題という明日の交流戦についての話が一番短かった。

「本気で勝ちに行きましょう! いつも通り連絡は取り合っていいですけど、指揮官は不在で!」

の一言だけだったのだから。


 良いんだけどさ、即売会実現の為に早速動こうとしないでもらっていいですかね……。


「にゃ~」


 どんまいと言ってきているかのような手毬に、僕は少しだけ憂鬱な気分になった。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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