第168話 重すぎる期待と重圧
僕の誕生日配信から翌日、早速マイさんが家にやってきた。要件はもちろん公式グッズの件だ。
そして、今回は公式グッズに関して色々アイデアが欲しいという僕のわがままを聞いてもらうためにマイさんのファンクラブに所属している人も何人かうちに招いていた。
「ど、どうも皆さん……。ネクラです……」
「妹のライです~! 今日はお兄ちゃんが無理言っちゃってごめんなさい!」
たかが高校生が大きなマンションの最上階に住んでいて、部屋もそれなりに広くて最新家具に囲まれた環境で暮らしているのがよっぽどおかしいのか、マイさん以外の3人は全員があんぐりと口を開けていた。
そんな中、僕らはさっさと自己紹介を済ませてリビングのソファに座ってもらうよう促す。
マイさんが連れてきた3人は本業はカフェの店員をしながら時々僕のファンアートを描いてくれているコロさんと、SNSで僕をモデルにした漫画を描いてそれが最近書籍化したぽんさん、後の1人は……
「で、佐々並さん。頼んだの僕ですけど、お仕事大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。ネクラさんの為なら!」
絶対に大丈夫じゃないんだろうけど……まぁ本人がそういうならという事で現実は見ない事にする。
手毬は今回猫部屋で待機してもらっているので皆の迷惑にはならないだろうけど、極度の人見知りの僕は顔見知りの人がいたとしても何人もの女の人に囲まれるのは苦手だ。
終わったら手毬に慰めてもらおう......。
「で、ネクラさん。早速ですけど今回は公式グッズの件ですよね? 第二弾!」
「そ、そうです……。昨日の配信でその、皆さんから沢山祝ってもらったので少しでもそれをお返ししたくて……」
「まぁそれは仰ってましたし分かるんですけど、それでなんで私やコロさんが呼ばれるんです?」
マイさんが満面の笑みを浮かべながら公式グッズをどうするか聞いてくるが、反対に怪訝そうな顔を浮かべているのはコロさんとぽんさんだ。
2人はマイさんに頼まれてタペストリーなんかに使うイラストの制作や僕の同人誌を描いたことはあっても、本格的にグッズに関わったことは無いそうだ。
「実は、何を出そうかって考えた時に一晩考えたんですけど、アクリルキーホルダーとか缶バッチとか、そこら辺しか思いつかなくて。なので、皆さんにどんなグッズがあれば嬉しいかと意見がもらいたくてですね……」
「イラスト関係に強い私と、同人全般に強いぽんちゃん、で、重度のネクラさんファンだけどそれを世間的には隠さないといけないさっちゃんって事ですか?」
「……その通りです。今の説明でよく分かりましたね……」
「まぁそれなら納得というか、その説明ならこうかなぁって」
ニコッと微笑むコロさんに、僕はハイネスさんのようなどこか怖い雰囲気を感じた。
この前アスカさんと佐々並さんに相談しに行った時、偶然コロさんの働くカフェに入っちゃった事があったけれど、その時には感じなかった物だ。
この人、もしかしたら結構頭がいいのではないだろうか……。いや、この人はゲームの方に関してはあまり真面目に取り組んでないから警戒なんてしなくていいと思うけどさ……。
「ん? どうかしました~?」
「い、いえ……。春香も何かあったら言ってね……?」
「ん、分かった」
僕はあまりグッズには興味ないけれど、応援してくれている人達が欲しいという物を提供したいし、少しでも喜んでほしいのだ。
幸い、資金はもういくら使っても問題ないので大量に生産してもらって、ついでに第一弾の方も再販してもらおう。
「大丈夫ですか?」
「はい! 正直人件費に関してはこっちで持つって言いたいんですけど、どうしてもというなら無理は言いません! それに、その分いつもより多くの人に手伝ってもらえるので早く済むと思います!」
「助かります……。お金に関してはほんとに気にしなくて良いので、後で請求書を送ってもらえれば……」
正直お金なんていくらあってもいい。そうは言うけれど、あったらあったで怖くなるのだ。
これが、社会経験を積んでいる40代前半くらいの大人ならまだしも、僕はまだ高校生だからとてもじゃないけど使いきれない。
税理士の知り合いがいてよかったと、心の底から思ってる。知らない間に脱税とかして捕まったら笑えないし……。
「大好評だったサインやメッセージカードはどうしますか?」
「メッセージカードの方は頑張りますけど、サインの方はコピーか何かしてもらえると……。流石に時間が足りないので」
「ではそのように手配しておきますね! 部数はどうします?」
「前回の倍近く生産しても売れますかね……」
「絶対いけますね。むしろそれでも足りないと思います」
いや、前回も大概だったのにそれの倍売れるかって聞いて、マジ顔で即答するのはやめてほしい。
コロさんや佐々並さんも同意を示すみたいに頷かなくても……。
「わ、分かりました……。多すぎても最悪どうにかなるので、3倍ほど生産してもらいましょう。第二弾の方に関してはこれから決めるという事で……」
「は~い! じゃあまず、どんなグッズを作るのか! ですね?」
ウッキウキで話を進めるマイさんに内心でお礼を言いながら、佐々並さんやコロさん、ぽんさんに意見を聞いてみる。
具体的には、ファン目線でほしいグッズはどんなものなのかという事だ。
正直公式グッズとは銘打ってるけど、既存のグッズとの違いは僕が監修しているかどうかなので『公式』なんてのは半分飾りだ。
「べたなとこで行くならやっぱりアクキーとか缶バッチとか、それこそタぺ、ポスター、抱き枕カバー、マウスパッド……変わったとこで行くなら靴下とかですか?」
「私はその……マネちゃんもネクラさんのファンなのでカバンに着けられるような小さいストラップとか欲しいです……。あ、それとその……香水、とか……」
「同人っていう観点から言うなら何でもありになっちゃうので、手毬ちゃんとネクラさんが一緒になってるグッズとか受けるんじゃないですか? 賛否……てか、好み別れるかもですけど」
いや待てと。なんでそこで手毬の名前が出てくるのか。
そして、なんで僕のグッズで抱き枕だの靴下だの、挙句の果てに香水なんてものが出てくるのか。
もうボケというボケが大渋滞を起こしてツッコミが追い付いてないみたいな状態になってるんだけど……?
「手毬は……関係あるんですか?」
「手毬ちゃん、結構人気なんですよ? それにデレデレなネクラさんも込みで」
「それは言わないでください……」
昨日の夜にはもう配信が開始されているのに気付かず猫といちゃつくネクラ……みたいなタイトルの切り抜きが上がってたんだけど。
しかも再生数が投稿から1時間もしないで100万再生超えてたし。なにあれ?
「まぁ、TLの方でもかなり手毬ちゃんとネクラさんのイラスト上がってきてますしそれは否定しません。ただ、女性陣の受けはぽんちゃんの言った通り極端に分かれてますよ。猫相手だろうと相手が女の子なら嫉妬しちゃう子はいますから」
「は、はぁ……」
「そういう意味だと、さっちゃんの香水ってのはありかもですね。抱き枕持ってる子達がそれに吹き付けた……あ~、何でもないです」
「すっごく気まずい事を聞いた気がします……」
「気のせい気のせい! でも、結構喜ばれますよきっと!」
使用用途はともかくとして、そこまで言うなら香水が喜ばれるのは事実なのだろう。
僕のイメージから香水を作るって結構大変な気がするけど、そこら辺は任せてしまって大丈夫なのだろうか……。
「うちのファンクラブ結構でかいので、結構いろんな人がいるんですよ。確か、個人でそういうお店を持ってる人がいたはずなので連絡とっておきますよ」
「ありがとうございます。手毬は……今回はスルーの方向で行きましょう。流石に家族をダシに使うのは嫌ですし……。ただ、アクリルキーホルダーやアクリルスタンドなんかは作ってもらってもいいですか……? 絵柄はコロさんにお任せするので、何種類か作ってもらえるとありがたいです」
「お~、ほんとですか! 頑張りますね!」
流石に1人のイラストレーターさんにすべての仕事を任せるわけにはいかない(労力の問題で)ので、僕のファンアートを描いてくれているイラストレーターさん数人に当たってみよう。
その方達にはそれぞれタペストリーやポスター、後は抱き枕カバー……は恥ずかしいので却下して、クッションとマウスパッドを担当してもらう事にする。
ていうか、今更だけどグッズを出す時の会議ってこんなにサクサク決まっていくものなのだろうか。
芸能人じゃないので分からないけれど、絶対に何か間違っている気がする……。
「普通は数日から数週間かけて決めるんですけどね……。ネクラさんとコロさんが仕切ってくれてるからこんなに早いんですかね?」
「僕が、たくさん出したいのでほとんどの案を深く考えずにオッケーしてるだけだと思いますよ……。ぬいぐるみとかも出来れば新しいのを作っていただきたいんですけど……」
「大丈夫ですよ~? 人件費も気にしなくて良いのならいろんな人に頼れるので! ただその分、販売量がとてつもないことになるので販売する時が大変そうだなぁって……」
「あ~……」
確かにそうだ。オンラインで販売する時は当然相手方のところまで発送しないといけないのでその分人でもいるしお金もかかるし時間もかかる。
それを少しでも短縮するには……
「コミケみたいに、即売会でもしますか……?」
「正直、私達はそっちの方が助かりますね。かなりの人数が来ると思うので、そうするなら場所の確保が大変そうですけど……」
「……その件は一旦保留にしときましょう。一応心当たりを当ってみるので……」
「は~い」
その後細かい調整を行った後に軽く雑談をして解散したんだけど……うん、多分コロさんはハイネスさんと同じくらい頭いいわ。
話がすっごく分かりやすいし、まとめるのもうまいし、理解も早い。
あの人が真面目にゲームをプレイしてなくて良かったと、心の底から安心したよ……。
結局僕の公式グッズ第二弾は、タペストリー3種とポスター、アクリルキーホルダー2種、アクリルスタンド3種、クッション2種、ぬいぐるみ2種、香水3種、マウスパッド、後なぜか僕のサイン色紙数十枚となった。
うん、滅茶苦茶に量があるっていうのは一旦置いておいてさ。サイン色紙って何?
そもそも、お願いされたら基本断らないのに、お金払ってまでサイン色紙ほしい人いるの? ちょっとよく分かりません僕は……
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